第30話「終わりに向かう者達」
デウスギア・グラスエンダーが、島のタイタンギアに対して優位に立てた理由の一つに、飛行能力がある。
多くのタイタンギアは、単独では飛行できない。
飛行用の支援ユニットもない訳ではないが、数が少ない上に、ゲームによってほとんどが失われている。
故に、グラスエンダーは一方的に空から、相手を蹂躙する事ができるのだ。
そんな中において、加納蓮は幸福な人間であった。
彼の操るタイタンギア・ジャッジサイヴァーには、単独での飛行能力が備わっていたのだから。
「くそっ!こいつら………!」
戦場は空。
四方からビームガンを放ってくるグラスエンダーを前に、蓮は、昔テレビで見た古い怪獣映画に登場した人喰いの怪獣を思い出した。
飛行し、空を埋め尽くすほどの数も、死を振り撒く所も同じだ。
色は正反対だったが、どうも被って見える。
「ぐうっ!?」
ジャッジサイヴァーの背中に、ビームガンが擦った。
バランスを崩すが、蓮はすぐに持ち直す。
そしてビームガンを撃ったグラスエンダーに向けて、両手に持ったビームショットを発射。
対空中戦のデータの乏しいグラスエンダーは、避けきれずに爆散する。
そこに別のグラスエンダーからのビームガンが飛来し、直撃の寸前に、ジャッジサイヴァーは咄嗟に回避する。
一瞬たりとも、気を抜けない。
今まで経験した様々な現場より、遥かに厳しい戦いだ。
けれども、蓮はここで倒される訳にはいかない。
恋人の仇を………佐瀬アリアを殺すまでは、死ぬわけにはいかないのだ。
「う、おおおおっ!」
近くに来たグラスエンダーを、ジャッジサイヴァーのカーボンソードが斬り裂いた。
………………
さて、その佐瀬アリアはというと。
「………なんなのよ………」
降り注ぐビームガンの雨の中を、ブラッディマリーが、足のホイールとチェーンソーを使って四輪に見立て、地面を抉りながら駆け抜ける。
そして空中に舞い上がり、一番近くにいたグラスエンダーに向けて、一撃。
ぐしゃあッ
AIが回避行動を取るより早く、チェーンソーがグラスエンダーのボディを頭から真っ二つに砕き斬る。
爆発と共にグラスエンダーのボディは弾け飛び、四散する。
グラスエンダーを撃破し終えると、再びホイールとチェーンソーで地面を抉りながら走り、上空から降り注ぐビームを避け続ける。
見れば、撃破されたグラスエンダーは一体ではない。
ブラッディマリーの周りには、グラスエンダーの残骸が、いくつも転がっていた。
ある物は先程のようにチェーンソーで叩き斬られ。
ある物は強酸でAIごと制御ユニットを溶かされ。
胸に大穴を開けられて、「はやにえ」のように鉄塔に突き刺さっている物もあった。
多くのタイタンギアがグラスエンダーに蹂躙される中、アリアとブラッディマリーは、逆に襲ってきたグラスエンダーを蹂躙していた。
タイタンギアを越えるデウスギア・グラスエンダーを、カスタム品とはいえタイタンギア・ブラッディマリーが一方的に叩き潰すという、奇妙な光景だった。
「………なんなのよ………」
けれども、コックピットのアリアは、不機嫌な顔を浮かべている。
強敵を相手に命をかけて戦うという、普段なら乗り気になる状況なのに、アリアはひどくつまらなそうにしていた。
………アリアは、戦いに喜びを感じるタイプの人間だ。
だが、それは相手が人間である場合に限る。
追い詰められ、反撃の手段を奪われ、じわじわと迫る死の恐怖に泣き叫ぶ。
そうやって相手をなぶり殺しにする事こそ、アリアの戦いの美学であり、また彼女の言う「芸術」の一つでもあった。
ところが、無人機相手ではそんな事にはならない。
AIは、泣きもしないし怯えもしない。
最初のうちは、単純な強敵として楽しめていた。
が、感情を持たない相手との戦いは、アリアを「飽き」させるまで時間はかからなかった。
「………なんなのよ………!」
並びに、この最近自分を捕らえようとする一団に悩まされていた。
海外のSFドラマに出てくるエージェントのような彼等は、バルキリーリングをつけておらず、運営の送り込んだ存在だと思えた。
そいつらが、アリアを捕まえて、連れ去ろうとしてくるのだ。
アリア自身は、問題なくそいつらの相手はできた。
一人残さず、物言わぬ肉塊に変えるなど、造作もなかった。
けれども、そいつらのせいで、アリアは最近「芸術」をできずにいた。
四六時中襲ってくるので、「素材」を集める時間も奪われてしまう。
最初のうちは、そいつらを「素材」にしていたが、すぐに飽きた。
………自分を気に入った「お客様」の為に、運営側がアリアを捕らえようとしているのだが、それはアリアの知る所ではない。
また、グラスエンダーがブラッディマリー目掛けて飛来する。
アリアは、若干の苛立ちを感じて、
「………なんなのよ!もう!」
と、流れ作業のように、チェーンソーで真っ二つにしてやるのだった。
………………
美しい森と砂浜は、既に戦火により失われた。
王の城のように聳え立っていたホテルも、その主を殺そうと一斉攻撃を仕掛けたグラスエンダーにより、瓦礫の山と化した。
「こいつら………ッ!」
紫もまた、他の参加者達と同じように、グラスエンダーの群れと戦っていた。
プルトーネのバスターアックスが振り上げられ、眼前に近づいてきたグラスエンダー向けて振り下ろされる。
ぐしゃあ!
グラスエンダーの動きを計算し、振り下ろされた一撃は、見事グラスエンダーを頭から叩き潰した。
一体のグラスエンダーの撃退には成功したものの、上空から他のグラスエンダーのビームガンが降り注ぐ。
ただ、プルトーネは鈍重さと小回りの効かなさと引き換えに、通常のタイタンギアを遥かに上回る防御力と火力を持っている。
ビームガンを浴びたとしても、問題ではない。
「ホテルを壊した責任は取ってもらうよ、ビー玉くん!」
紫は、ニヤリと笑った。
彼女は拠点のホテルの事を、それなりに気に入っていたようだ。
プルトーネの全身に備え付けられたミサイルの発射口が、一斉に開く。
コックピットのモニターに、次々と目標へのロックオンが表示される。
そして。
「受け取りなっ!」
プルトーネの全身から、ミサイルが発射された。
それは煙の軌跡を描いて飛び、次々と着弾する。
………のだが、ロックオンした全てのグラスエンダーを撃墜するには至らなかった。
実際撃墜できたのは、ロックオンした数の半分程度。
それ以外は、命中しなかったか、擦っただけだ。
「これまでのタイタンギア通りにはいかないって事か………!」
流石は、タイタンギアを越えるデウスギアを名乗っているだけはある。
紫がプルトーネに次の行動を取らせようとした、その時。
「………ぐっ!?」
紫の胸を、痛みが襲った。
サタンシンドロームの発作が起きたのだ。
そして、動きの止まったプルトーネに向け、隙をつくように一体のグラスエンダーが飛び込んできた。
しまった。
紫が気付いた時には、グラスエンダーはプルトーネのすぐ前にいた。
その時。
ばきいいっ!
グラスエンダーの丸い頭を、背後からの一撃が叩き割った。
カーボンチョッパーだ。
そしてグラスエンダーが次の行動を取る直前に、背後からのマシンガンの零距離射撃がグラスエンダーの中枢を破壊した。
『大丈夫ですか!先生!』
額に脂汗を浮かせた紫がモニター越しに見たのは、停止したグラスエンダーを踏みつけにしてこちらを見つめる、マーズトロン・カスタム。
そして通信越しに聞いたのは、こちらを心配するカオルの声。
カオルはこの激闘の中、マーズトロンの改造機という最悪のカードで生き抜いてみせた。
それ所か、紫を心配する余裕まで見せていた。
「………また、カオルくんに迷惑かけちゃったな」
自嘲しながら、紫は懐に入れていた薬を口に含み、飲み込む。
水が無い為飲みにくいが、贅沢は言っていられない。
ごくん。
少し噛んだ為、口の中が苦い。
けれども、発作は収まった。
「………何がなんでも、生き残ろうね、カオルくん」
『はい、先生!』
こうしている間にも、グラスエンダーの群れは命を奪う為に向かってくる。
サタンシンドロームも、発作の合間が短くなってきている。
紫に残された時間は、もう、少ない。
………………
ズワーッ!
ドリルの一撃が、グラスエンダーを捻り砕き、爆発する。
その向こうから現れたのは、ジーガロス・カスタム。
「はあ………はあ………」
撃破数は、通算10機目。
けれども、グラスエンダーは一向に減る気配はない。
布浦晴斗は、コックピットの中で息切れ、肩で息をしていた。
ジーガロス・カスタムの周りに転がっているのは、撃破したグラスエンダーの残骸。
そして、自分のようにグラスエンダーに立ち向かった他のタイタンギアの残骸と、おびただしい数の人間の死体。
その全てが、グラスエンダーによってもたらされた結果。
周りでグラスエンダーと戦っているのは、もう晴斗とジーガロス・カスタムだけだ。
機体のエネルギーも、もう半分を切っていた。
いくら元のジーガロスが優秀で、パイロットの晴斗も優秀とはいえ、これ以上の戦いは危険だ。
「………俺は、試練に勝つ」
けれども、晴斗は立ち向かうのを止めなかった。
たとえ逃げても、追い付かれてやられるのがオチだ。
それに、立ち向かって勝てば、この先に待っていると思われる「最後のゲーム」に進む事ができるとも考えていた。
そうすれば、そして勝てば、日本にいる家族に楽な生活をさせるという、このゲームに参加した目的を果たす事ができる。
「俺は………試練に勝つ!!」
ジーガロス・カスタムの背中の支援ユニットから、触手が伸びる。
それは二機のグラスエンダーを捕らえ、勢いよく地面に叩きつけて、破壊。
その巻き添えを食らい、二機のグラスエンダーが、バランスを崩して地面に落ちかかる。
「試練に勝つ!」
そこをすかさず、ジーガロス・カスタムが飛び上がる。
腕と一体化したドリルを高速回転させて、まずは一機に飛びかかって貫き、破壊。
「試練に勝ぁつッ!!」
残る一機も、背中に飛び乗った所をドリルで貫き、破壊。
晴斗は、あっと言う間に四機のグラスエンダーを破壊してみせた。
彼もまた、このゲームを勝ち抜いてきた、強豪の一人なのだ。
「次は………!」
この調子で次のグラスエンダーを破壊しようと、操縦桿を倒した、その時。
ズワッ!
突如、ジーガロス・カスタムの左肩が爆発する。
グラスエンダーが、遠距離からビームガンを撃ったのだ。
「ぐう………っ!」
バランスを崩し、よろめくジーガロス・カスタム。
グラスエンダーの群れが、その隙をついてジーガロス・カスタムに殺到する。
………鳥葬、という物がある。
人間の死体を放置し群がった鳥に補食させるという、葬儀の種類の一つ。
ジーガロス・カスタムに群がるグラスエンダーの群れは、まさにその鳥葬と瓜二つだった。
ただ異なるのは、死体ではなく、意識を持って生きている晴斗の操る、ジーガロス・カスタムを相手にしている事。
ビームガンの銃口からビームソードを展開し、ジーガロス・カスタムのボディを貫き、破壊する。
「や、やめろ!離れろぉ!」
金属がひしゃげる音がし、コックピットに緊急事態を知らせるアラートが響き、ランプにより赤く染まる。
右腕のドリルが切り落とされ、背中の支援ユニットがその接続口ごと引きちぎられる。
ジーガロス・カスタムが破壊されてゆく中、晴斗は、ただ喚くしかできなかった。
「ダメだ!俺はまだ、死ぬ訳には………!」
脳裏に浮かぶのは、日本に残してきた家族達。
彼等を幸せにする為に、晴斗はこの殺し合いに参加した。
彼等は、今でも日本で苦しんでいる。
こんな所で、死ぬ訳にはいかない。
だが、現実は残酷だった。
コックピットハッチごと、ジーガロス・カスタムのモニターが、引き剥がされる。
むき出しになったコックピットで、晴斗はこちらにビームソードを向けるグラスエンダーの姿を見た。
そして悟った。
自分は、もう助からない。
「………みんな、ごめん」
グラスエンダーのビームソードが、その身体を蒸発させる瞬間まで、晴斗は家族の事を想っていた。
だが、その想いは果たされる事なく、爆発炎上したジーガロス・カスタムと共に、布浦晴斗は炎の中に消えた。
バラバラに弾けとんだジーガロス・カスタムの残骸を、グラスエンダー達は嘲笑うように見下ろしていた。




