第23話「それぞれの開戦」
空は飛べないにしても、バーニアは各部についている。
ガンドラグーンはそれを使い、ホバークラフトのように機体を地上から僅かに浮かせ、疾走している。
「第四都市部か………初めて来たな」
辺りに広がるビル群を見ながら、竜也は呟いた。
ここは第四都市部。
噂のイベント限定エネミーが出現したという場所。
かつてはここも綺麗な都市だったのだろうが、ゲームの影響か、はたまた当のエネミーが暴れたからか、所々が破壊されている。
少し進むと、破壊されたタイタンギアや、地面に転がる装甲車や戦車の残骸が見えてきた。
竜也も戦った爆撃機・コーカサスも見られる。
この島に存在する全ての戦力が、ここに集結しているようにも見えた。
「たしか、エネミーが居るのって、この辺り………んっ?」
ふと、センサーに敵機の反応が出た。
反応は二機。ガンドラグーンのすぐ近くに出ている。
「敵か!?」
ようやくエネミーが現れたのかと、ガンドラグーンがマシンガンを構える。
それと同時に、二機のタイタンギアがビルの影から姿を現す。
一機は、破損しているマーズトロン。
そして、もう一機は。
『うわあああ!来るな!来るなぁ!』
逃げようとするマーズトロンを、掴みかかるように引き留める、タイタンギア。
………いや、明らかな人型ではあるが、竜也には「それ」がタイタンギアに分類されるかどうかは解らない。
そもそも、あんな機体は見た事も聞いた事もない。
それは、赤いツタを連ねたような内部に、貝か甲殻類か何かの甲羅を着せて、人型に仕立てあげたような姿をしていた。
頭部に輝く、メインカメラと思われる赤く輝くバイザー状の機関は、見ようによっては食い縛った歯にも見える。
腕や胸部といった部位には、頭部の機関のように赤く輝く発光体がいくつか。
捕まえようとしているマーズトロンよりは一回りほど大きい。
各部の赤いツタのような機関は、ドクンドクンと脈を打っている。
まるで、生きているように。
『やめろおお!来るなァァ!』
怯え叫ぶ、マーズトロンのパイロット。
それを嘲笑うように、謎の機体はマーズトロンのボディを押さえつける。
それだけで、そいつが並のタイタンギアとは段違いの存在と解る。
しかし、スピーカー越しに響くあのパイロットの怖がり様はどういう事だろうか。
疑問に思っていた竜也だが、その答えは直ぐに明らかになった。
がばあっ!
謎の機体の頭部。
バイザー状の発光体が、口のように大きく開いた。
すると、そこから赤い触手が何本も伸び、マーズトロンのボディに突き刺さる。
「な、なんだありゃ………!?」
竜也の見つめる眼前で、マーズトロンの各部が変異し始めた。
まるで脱皮か羽化のように、装甲を突き破って何かが出てくる。
見れば、それはあの謎の機体と同じ、甲羅と赤いツタ。
『やめろぉぉぉ………………!』
スピーカー越しに聞こえていたパイロットの悲鳴も、押し潰されるように聞こえなくなってゆく。
外からは何も見えないが、あの中でよくない事が起こっている事は竜也でも解った。
直に、腕が飛び出る。
そして、足が飛び出る。
マーズトロンの装甲がガラガラと崩れ落ち、謎の機体が触手を引っ込めてバイザーを閉じると同時に、マーズトロンは謎の機体を瓜二つの姿へと変貌していた。
同時に、竜也は何故エネミー撃破に向かったプレイヤーが帰ってこなかったか、理解した。
「食われた」のだ。
たった今目の前で変貌した、マーズトロンのように。
「なんだよありゃ………ホラー映画か何かか………!?」
他のタイタンギアを、まるでゾンビのように食らい、侵食し、増殖する。
そんな事が出来るタイタンギアなど、竜也の知る限りでは存在しない。
というか、現代の科学であんな機能を持った物を作る事事態が不可能だ。
「………あっ!」
そんな超常現象を前に呆然としていた竜也は、索敵センサーがアラートを鳴らした事で、ようやく自分が危険な状況にいる事に気が付いた。
謎の機体は、眼前の二体だけではなかった。
四方八方から、十数機ほどがガンドラグーンを取り囲んでいた。
「まずい………これは、まずいぞ………!?」
謎の機体群は、ガンドラグーンを取り囲み、じわじわと追い詰めるように迫ってくる。
そして、ガンドラグーンを前にした四機のバイザーが、あの時のように開いた。
「まずいッ!」
咄嗟に、竜也がガンドラグーンを空中に逃がそうとした。
その時。
ズドンッ!
突如として、ガンドラグーンを取り囲んでいた謎の機体の内、数機に後方からミサイルが飛来。
触手を出そうとしていた頭部を粉砕する。
「何だ!?」
突然の事に驚く竜也。
謎の機体群も「何事だ?!」と言うように、後方を、ミサイルが飛んで来た方向を振り向く。
そこには。
「まったく、こういうゴチャゴチャした戦いは好きじゃないんだけどね!」
ホバーによりその巨体を浮かし、真っ直ぐ突撃してくるその機体。
謎の機体群が次の行動に出る前に、その機体は機体群の中に飛び込み、手にしていたバスターアックスを振り上げ、叩きつけた。
ぐしゃあ!
謎の機体の装甲が、紙粘土のようにひしゃげ、叩き潰される。
他の機体が驚いた素振りを見せている間に、もう一機。
続いてもう一機。
叩き潰された機体は、そのまま動かなくなる。
出現から数秒も経たない間に、その機体は三機も葬った。
だが、謎の機体もやられてばかりではない。
唐突の乱入者に向け、反撃に出ようと飛びかからんとした。
ズドンッ!
だが、その機体は別方向からの一撃により頭部を破壊され、倒れる。
そこには、機体群向けて迫る、二機の機影。
一体は、緑色に塗られた、タイタンギア用の大型バズーカを構えたマーズトロン。
もう一機は、ジーガロス………なのだが。
「そこだ!」
そのジーガロスは、背中に支援ユニットを背負っている。
竜也の記憶の中にある、ロンブリスやオクタヴィア………手塚宰の使用していた物と、同じ物。
そして何より、左腕。
そこには腕の代わりに、大規模な掘削工事等で使われる、巨大なドリルが装着されていた。
小さい頃、竜也もテレビで見た事がある。
ギュルルルル!
ドリルは高速回転し、謎の機体向けて槍のように叩き込まれた。
ズバァッ!
それは謎の機体の胸を穿ち、回転で周囲を捻り壊しながら、謎の機体を貫き、破壊した。
十秒もしない間に、ガンドラグーンを取り囲んでいた謎の機体群は、その全てが破壊された。
『やぁ、久しぶりだね、木葉竜也くん』
巨大な機体より響く、落ち着いた女性の声。
そうだ、竜也はこの機体を知っている。
そして、それを操る彼女の名を。
何故なら、かつて竜也は彼女と会った事があるのだから。
『ゆ、紫さん!?』
緑色のマーズトロンを駆るカオルを引き連れて、スーパー弁護士・高町紫と、彼女の操るタイタンギア・プルトーネが、ガンドラグーンの前に姿を現した。
………………
戦火は、この第四都市部を包み込んでいた。
どこかしらで、戦いの火花が散っている。
それは、竜也が遭遇したような謎の機体相手の物だけでなく、プレイヤー同士の潰し合いも含まれている。
エネミーを倒し、名をあげようとするプレイヤーは多い。
そんなプレイヤーにとって、他プレイヤーは邪魔者以外の何でもない。
欲望と硝煙の混ざったこの戦場は、改めてこのケイオスアイランドが、デスゲームの舞台だという事を思い出させる。
「あーあ、つまんないの」
そんな炎の中。
ビルの上で、あぐらをかいて、袋に入ったポップコーンを食べながらぼやく少女が一人。
………佐瀬アリアがこのイベントに向かう気になった理由は、ただ一つ。
彼女の「芸術」の素材となる死体が手に入ると思ったからだ。
だが、彼女の予想は外れた。
謎の機体と交戦したタイタンギアは、先の通り侵食を受ける。
どうやらパイロットも取り込まれるらしく、死体は残らない。
プレイヤー同士の潰し合いで死んだ場合でも、大概の死体はタイタンギアに踏み潰されていた。
素材として使えるものは、一つも無かったのだ。
今アリアは、ポップコーンを食べながら戦いを眺めている。
が、素材が無いと解れば長居は無用。
ポップコーンを食べ終わったら帰ろうかとも考えていた。
「動くな」
その時、彼女の背後から声が飛んで来た。
殺意と憎しみの籠った、男の声だ。
「んー?」
「………動くなと言っている」
アリアが振り向くと、そこに一人の男が、銃を構えて立っていた。
風に靡く黒いコートに、両手で握ったサンマグナム2000。
サングラスの奥に、キラリと光る怒りの目。
他でもない、加納蓮である。
蓮もまた、このイベントで多数の死者が出る=死体が大量に出ると考えていた。
そして、そこに死体を求めてアリアが姿を現すであろうという事も。
「誰?アンタ」
拳銃を向けられているというのに、アリアは恐れる様子すら見せず、ポップコーンを食べながら立ち上がる。
その表示には、何の感情もない。
声をかけられて何ですかと返す時のような、疑問のみの物。
それが、余計に蓮の怒りを煽る。
「………覚えていないのか、テメェが母親と子供を殺した時に、テメェを捕らえようと動いていた男だよ………!」
蓮が怒りを抑えつつもこう言ったのは、彼が心の底まで冷徹になれない人間だったからだろう。
アリアに、心の何処かにまだ人間といえる部分があると、無意識に期待していたのだ。
だが。
「母親と子供?うーん………」
わざとらしく、考えるような仕草を取るアリア。
そして彼女は、こう言った。
「………多過ぎて覚えてないや♪」
笑顔だった。
うっかりしたミスを話すときのような、てへっ、という言葉が似合うような、一点の曇りも後悔もない、笑顔だった。
そしてそれは、蓮の逆鱗をわし掴みにし、堪忍袋の尾を叩き切った。
「この………ド外道がァァァァーーーーーッッッ!!」
躊躇いはない。
蓮は、引き金を引いた!
バコォォォーーン!
サンマグナム2000の銃口が火を吹く。
目の前の邪悪を仕留めんと、怒りを込めた弾丸が、アリアに向けて放たれた。
それはアリアの脳天を貫き、肉片をぶちまける………はずだった。
「っはぁ!」
蓮が引き金を引いたと同時に、アリアは手にしていたポップコーンの袋を蓮に向けて投げつけた。
一瞬、苦し紛れの行動に出たかと思った蓮だったが、弾丸がポップコーンの袋を撃ち抜き、ポップコーンが四散した光景を前にして、ようやくアリアの真意に気付いた。
「 (………そうか!煙幕ッ!) 」
実際、ポップコーンによって視界は遮られ、アリアの姿が見えなくなっていた。
ポップコーンが地面に落ちるまでに一秒もかからなかったが、アリアからすればそれだけで十分だった。
「な………ッ!」
ポップコーンによる目眩ましが晴れた時、そこにはアリアの姿は無かった。
代わりにあったのは、ビルの前に姿を現した、巨大な人形のような機体。
アリアの操るタイタンギア・ブラッディマリーの姿。
ギョロリとした赤く巨大な片目で、ビルの上にいる竜也を見下ろしている。
『も~ら~いっ♪』
ギュイインと音を立てて、その巨大なチェーンソーが蓮に向けて振り下ろされた。
「ッッッ!!」
蓮は咄嗟に避けたが、意味は無かった。
それは、ブラッディマリーのチェーンソーはあまり大きく、ビル自体を破壊する事は造作もないからだ。
ズワォ!
巨大なチェーンソーは、ビルをケーキのように両断。
ビルは粉砕され、ガラガラと音をたてて崩れてゆく。
無論、アリアの狙いは、ビルごと蓮を始末する事。
こうなれば、普通の人間ならまず助かるまい。
だが、それで簡単に終わるわけがないというのも、予想はついている。
「ならさ………!」
彼女の予想通り、蓮はビルの崩落に巻き込まれて落下すると同時に、バルキリーリングを起動した。
崩落し、上がる土煙。
そして、その中より飛び出す、一体の機影。
黒い翼を広げて空を舞う、ガンドラグーンに似た漆黒のタイタンギア。
蓮の操る機体、ジャッジサイヴァーである。
『第二ラウンドだ………!』
『あははっ!』
天と地に、対峙する二体のタイタンギア。
竜也達の知らぬ場所で、もう一つの戦いが幕を開けようとしていた。




