第22話「いざ、戦地へ」
血で血を洗うデスゲームが繰り広げられる人工の島・ケイオスアイランド。
その、一角にて。
『本当にここにイベントのエネミーってやつがいるんだろうな?』
『確かな情報です、怪しいタイタンギアを見たって話です!』
ズシンズシンと、朝焼けを浴びながら街を進む、三体のタイタンギア・マーズトロン。
二日前に始まった「イベント」。
その限定エネミーが、この場所で確認されたと聞き、それを倒しにやってきたのだ。
わざわざ睡眠時間を捨ててまで、根城にしている第三都市部から、この第四都市部までタイタンギアで来た。
彼等は、このゲームの参加者の中では強豪に入る。
それもその筈、彼等はかのガオウの軍の残党。
おそらく、この島にいる参加者の中で、一番タイタンギアの操縦が上手い。
ガオウの元に居た時から、三位一体のコンビネーションで、今の今まで一人も欠ける事なく戦い抜いてきた。
つまる所の、手練れだ。
だから、今回のイベントも大丈夫。
根拠は無いが、なんとなく彼等はそう感じていた。
『でも………妙ですよね?』
『何がだ?』
ふと、マーズトロンの内の一機のパイロットが、疑問を浮かべる。
『俺達以外にも、タイタンギアを持ってる奴はいるんでしょう?』
『そうだな、始まってから結構経つし』
『俺達以外にも、そいつに挑んだ奴もいるんでしょう?』
『まあ、そう聞くなぁ』
マーズトロン部隊を統率するパイロットは、その質問に何気ない気持ちで答えている。
言われてみればそう思う、という程度で聞いているからだ。
『じゃあ、何で今の今まで倒されなかったんですか?タイタンギア使ってるんでしょう?』
『えっ………?』
『しかも、今まで挑んで帰ってきたにしても、その姿に対する具体的な情報もない』
言われてみれば変である。
タイタンギアは、現代において核兵器を上回る究極の破壊兵器だ。
それが束になってかかっても勝てないとなると、そのエネミーは何者なのか。
目撃情報はあるのに、その姿に対する具体的な情報が無いというのも妙である。
今まで何人もがエネミーに挑んだというのに、それがどんな姿をしているかという情報すらない。
タイタンギアなのか、違うのかさえも解っていないのだ。
『言われてみれば変だ………よな』
その質問を前に、マーズトロンのパイロットは途端に寒気がしてきた。
もしかしたら自分達は、とんでもない相手に挑もうとしているのではないか、と。
『前方に反応!タイタンギアです!』
その時、最後のマーズトロンのパイロットから通信が入ると同時に、全員の機体の索敵センサーが、アラートを鳴らした。
他タイタンギアの接近を知らせたのだ。
何者だ、と三機のマーズトロンは、その手に握ったマシンガンを構える。
だが。
『………ん?』
彼等の前には、何もいない。
あるのは、崩れかかったビルだけだ。
『………何もいない、よな?』
そう、目の前には何もいない。
だが、機体の索敵センサーは、前方に敵の反応を見つけてアラートを鳴らし続けている。
どういう事かと、三機のパイロットは怪訝な顔を浮かべている。
すると。
『………あ、うわぁっ!?』
突如、地面が揺れ、盛り上がる。
この時、三機のパイロットは気付いた。
敵はたしかに「前方にいた」。
前方の、地下に潜んでいたのだと。
『な、なんだこりゃ!?』
『これがエネミーって言うのか?!』
アスファルトの大地を突き破り現れたのは、異形の敵だった。
マーズトロンと比較しても、まるで大きすぎる。
それでいて、三機の前に映るその巨体は、臓器か何かのように、どくんどくんと脈打っている。
三人には、それが機械なのか、それとも生物なのか、解らなかった。
『………テメェら………』
その時、その巨大な敵より、声が響いた。
機械を通したような、エフェクトのかかった声だったが、三人にはその声に聞き覚えがあった。
『ダレノきょかヲえテソノまーずとろんヲ使っテイル………?』
『その声、ま、まさか………!?』
あり得ない。
マーズトロンのパイロットは混乱する。
だってその声の主は、もう存在しないはずなのだから。
次の瞬間、異形の機体はその頭部らしき部位をむくりと起こした。
そして………。
………………
デスゲームが始まってから、一月近くが過ぎようとしていた。
唐突に告げられた、「イベント」は、その時期に開始が発表した。
内容は、イベント限定のエネミーが島に出現し、プレイヤーがそれを撃破するというもの。
エネミーを撃破したプレイヤーには、タイタンギア用のパーツか、タイタンギア・ジーガロスをプレゼントするという。
多くのプレイヤーが、そのエネミーを撃破しに向かったが、帰ってきたのはごく僅か。
結果、そのエネミーに関する根も葉もない噂だけが島中に広がっていった。
「………減ってる」
廃ビルにて、竜也はバルキリーリングで、このゲームのプレイヤー人数を確認していた。
前に見た時は1500人近くいた参加者も、この最近で1210人に減っている。
イベント開始から四日で、300人近くが死んだ事になる。
それだけ、エネミーという奴は強力な敵なのだろう。
300人近くに攻撃を受け、なおかつそれを返り討ちにする程に。
竜也は、このイベントに参加するつもりは無かった。
当然である、元より自分にエネミーに挑む程の戦闘センスは無いと自覚している。
そんな自分がエネミーに挑んだとしても、自滅するだけだという事も。
いくらガンドラグーンという強力なタイタンギアを持っているとはいえ、そういう事は解っている。
それに、紫から貰った資材も限りがある。
無駄に戦って、消費する訳にもいかないのだ。
『はいはーい!』
「うおっ」
『ここで、イベントエネミーに関する情報でーす!』
突然バルキリーリングから、いつものキンキンとしたアニメ声と共に、立体映像のユミが現れた。
イベントの開催中は、約5時間に一度ほど、ユミがエネミーの居場所を知らせてくれるようになっているのだ。
最も、エネミーも動いているので、おおざっぱな場所しか教えてくれないのだが。
おまけに予告なく突然現れるので、その度に竜也も驚いた様子を見せる。
『現在エネミーは、第四都市部のこのエリアにいまーす!』
空中に浮かんだ地図に、まるで天気予報のように指示棒を指すユミ。
その先は、第四都市部の中心から少し離れている。
『………やっぱり、動いてる』
その様子を見て、竜也の顔が曇る。
先に言った通り、竜也はこのイベントに参加するつもりはない。
だが、このまま静観するには少々まずい状況になっているのだ。
この四日の間のエネミーの出現地点を、発表した順番に並べる。
すると、エネミーが街に迷い混んだ野生動物のように、プレイヤーから逃げるだけの無軌道な動きをしている訳ではないという事が解った。
エネミーは、第四都市部にある無人発電所を目指していたのだ。
無人発電所。
そこは四つの都市部にそれぞれ一つずつ存在する施設で、この島の各施設で使われる電気を発電している、文字通り無人の発電所だ。
この場所を破壊されるという事は、この島で使われる電力が失われる事を意味する。
それを解っているのか、参加者はこの場所で戦闘を行わないという暗黙のルールがある。
だが、どうやらエネミーは参加者としてカウントされていないらしく、島に出現してから、一直線に無人発電所を目指している。
その間に、300人近くの挑戦者を蹴散らしながら。
もし、このまま誰もエネミーを倒せないとなれば、第四都市部の無人発電所は破壊されてしまうかもしれない。
そうなれば、この島の電力の1/4が失われる事になる。
自分やエマの生活も、打撃を受けるかも知れない。
それ以前に、エネルギー不足に端を発して殺し合いが激しくなるかもしれない。
そして竜也には、そうなった場合にエマを守れるだけの力は………ない。
「竜也くん」
ふと、背後から声が聞こえた。
振り向くと、そこに居たのはエマ。
物思いにふける竜也を前に、不安そうな顔をしている。
「お、お昼ご飯………できました」
「ああ、そう………今いく」
バルキリーリングの立体映像をオフにし、竜也はエマの後に続く。
この時、竜也はエマの不安そうな顔を前に、「自分が何をするつもりかはもう伝わっている」と考えた。
………………
「………いただきます」
「………いただきます」
今日のメニューは、シーザーサラダとカツサンド。
ツナとパンだけだった"独身"の頃と違い、バランスの取れたメニューとなっている。
今こういう事を言うと反発を食らうが、やはり女の子と暮らすようになったからかと、竜也は考える。
カツサンドを手に取り、一かじり。
肉の風味が口いっぱいに広がるが、今の竜也にはそれを感じるだけの心の余裕はない。
「………あの、さ」
意を決して、竜也は口を開いた。
このまま黙っていても、しょうがないと。
「戦いに、行くんですよね」
「あ………」
だがそれよりも早く、竜也の言わんとしていた事は、エマの口から告げられた。
「………どうしても、行かなければならないのですか?」
エマの手は震えていた。
それを前に、竜也はエマが怯えている事を知った。
竜也は、自分が甲斐性のない男である事を解っていた。
だが、そんな彼でも、今のエマからすれば心の拠り所なのだ。
「どうしても、竜也くんじゃないとダメなんですか?他にあのエネミーと戦っている人なんて、いくらでも………」
エマは、竜也にエネミーとの戦いに向かって欲しくなかった。
自分でこうは言っているが、今まで何人ものプレイヤーがエネミー討伐に向かっているにも関わらず、未だにエネミーは存在している。
そして、バルキリーリングの示すプレイヤー人数は、どんどん減っている。
これが何を意味するかは、エマにも解った。
だから、竜也に戦いに向かって欲しくなかった。
もう、帰ってこない気がしたからだ。
「………でも、エネミーは間違いなく発電所に向かっている、発電所の破壊だけは阻止しなきゃならない」
だが竜也の思いは、既に決定していた。
発電所の破壊によって予想される、現在の環境の悪化。
それだけは、なんとしても阻止しなきゃならないと考えていたからだ。
自分が行って、状況が覆される訳でもない事は解っている。
だが、予想される最悪のシナリオを回避する為には、少しでも戦力が必要なのだ。
自分やエマの、今の環境を守る為にも。
「なに、ガンドラグーンは強力なタイタンギアだよ、危なくなったらすぐ逃げるさ」
エマを安心させようと、竜也はそう笑いかけた。
けれども、エマの顔から不安が消える事は無かった。
当然である。
仲間が何人もの挑戦者が命を散らしている作戦に挑むと聞いて、安心できる者などいない。
竜也も、それは解っていた。
自分が死ぬかもしれないなんて事は、竜也にも解っていたから。
「………俺は、絶対に生きて帰ってくる、約束する」
打って変わって、真剣な顔をして、エマに語りかける竜也。
エマは、そんな竜也を、ただじっと見つめている。
「………でも、もし俺が明日になっても帰ってこなかったら」
竜也は、部屋の何もない場所に向けてバルキリーリングを向ける。
そして、中に貯蓄されていた食料やサバイバル用品の全てを、そこに呼び出す。
「これを好きなように使って構わないよ、死んじゃったら、いらなくなる物ばかりだしね」
「竜也くん………!」
するとエマは、竜也の手を握る。
その瞳には、不安を由来とする涙が浮かんでいた。
「………じゃあ、私からも、約束していい?」
「何を?」
エマは溢れかけた涙を拭うと、無理をするようににっこりと笑いかけた。
「………ケーキ」
「えっ?」
「美味しいケーキ、用意して待ってますから!」
そういえば、昨日街に食料を調達しに行った時に、ケーキを見つけてバルキリーリングに保存していると、エマが言っていたのを思い出す。
「………うん、一緒に食べよう」
「………はい、一緒に」
竜也とエマが、互いの手を握りあう。
必ず生きて帰ると、約束を交わして。
………………
そして、時刻は昼の1時。
竜也は、拠点から離れた街の外れにいた。
その側には、見送りの為に車を走らせてきたエマの姿もある。
「………じゃ、行ってきます」
振り向き、いつもと変わらぬ声色で、竜也が言った。
エマの見守る前で、竜也はバルキリーリングより、ガンドラグーンを呼び出す。
バルキリーリングより広がった無数の光の粒が集まり、立体映像のようにガンドラグーンの巨体を実体化させる。
ガンドラグーンは、そのメインカメラで竜也の姿を確認すると、その場に跪き、右手を差し出す。
その右手に竜也が乗ると、ガンドラグーンはそのまま、竜也を自分の右肩、つまりコックピットへの入り口がある場所へと持ってゆく。
コックピットに降り立った竜也。
向かうは一つ、エネミーの現れた第四都市部。
「………発進!」
カッコつけと、自分への鼓舞の両方を込めて、竜也は叫ぶ。
ガンドラグーンのバイザーに覆われた青い瞳が輝き、その巨体が第四都市部へ向け、出撃する。
「………いってらっしゃい」
あっという間に見えなくなったガンドラグーンの背中に向け、エマは呟いた。
そこには、ただ爽やかな風が吹いていた。
まるで、今も人が死んでいるとは、思えないような。




