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刀光剣影タイタンギア  作者: なろうスパーク
21/40

第20話「エマ」

太陽が沈み、夜がきた。

血で血を洗うケイオスアイランドで、唯一安らげる時間が。


エマの部屋の掃除は、終わった。

お風呂の整備も、終わった。


この廃ビルでエマが生活するための準備は、もう万全だ。

さて、この後は。



「………そ、そんじゃ、共同生活、一日目?を記念しまして………」



ここは、竜也の部屋。


今の所、机があるのが竜也の部屋だけだったので、ここが選ばれたに過ぎない。


だが、自分の部屋に女子を招待するという、生まれてはじめての………そして、学生時代に経験したかったイベントに、竜也も緊張している。


眼前には、数少ない家具であるテーブルの上に置かれた、フライドチキンやハンバーガー、缶ジュース等の、竜也のような人種が考えがちな「ご馳走」の数々。

そして、テーブルを挟んだ向こうに座る、緊張ぎみな表情を浮かべたエマ。



「か、かんぱーい!」

「かんぱー、い………」



二人ともぎこちない様子で、ジュースの入った缶で乾杯する。


これは、竜也の提案である。

折角同居するのだからと、わざわざ街の方に行って食べ物を入手し、記念にパーティーをと考えたのだ。

竜也なりに、エマの事を気遣っての行動である。


………だが、竜也は今の今になって気付いた。

失敗した、と。


並べたご馳走も、完全に自分の目線で選んだ物。

肉、肉、スナック菓子、少し野菜。

そして、缶ジュース。


男同士で食べるならまだしも、女の子と一緒のパーティーでやるには、ダメなパターンだ。

SNSで晒しあげられ、学生向け雑誌で「女子の気持ちがわかってないダメオトコ」として紹介されるような。


あぁ、自分は骨の髄まで童貞なんだなと、竜也は痛感した。



「あの………」

「は、はい?」



おそるおそる、竜也は口を開く。

エマの顔に嫌悪感は無いが、きっと自分に失望しているはずだと思いながら。



「やっぱ………こういうのって、モデルさんとしてはお口に合わなかったりする?ほら、普段食べてるような物に比べたら、さ………」



きっと人気モデルなら、自分よりいいものを食べてるはずだ。

こんなジャンクフードとは違う、高級なご馳走を。

そう思いながら、竜也は訪ねた。



「いえいえ、私だってこういうの食べますよ!」

「ほ、ほんと?」

「本当ですよ、確かにスタイル維持の為に油モノは控えてますけど、たまに」



ハンバーガーを持つエマの笑顔に、嘘はなかった。

だが竜也は、きっと自分に気を遣っているのだろうと考え、余計に申し訳のない気持ちになった。



「ささ、竜也くんも、冷めないうちに食べちゃいましょう」

「う、うん、ありがと………」



そう思って、竜也はフライドチキンを手に取り、口に運ぶ。

色んな意味で、それはしょっぱい味がした。



………この、パーティーと呼ぶにはあまりに静かな記念パーティー。

互いに何を話したらいいか解らず、ただ淡々と目の前の食事を食べ続ける。


二人とも思った。

これは気まずい、と。



「………あの」



沈黙を破ったのは、エマだった。

顔を上げ、互いの目が合った。



「な、何か?」

「竜也さんは………何の願いをかけて、このゲームに参加したんですか?」

「願い………?」



エマが話題に出したのは、このゲームにかけた願いの話。

何か話の話題が無いか、頭を捻って出した話題が、それだった。



「………うん、ちょっと言いにくいんだけど」



確かに、このゲームの参加者は、何かしらの願いをかけて参加している。

だが、竜也のかけた「願い」というのは、果たして願いと言っていいのか解らない。



「仕事帰りにね」

「はい」

「道で「願いはありませんか?」って聞かれたんだ」

「あ、それ私も聞かれました」



他の参加者も質問されて参加しているのか。

と、竜也はエマの話を聞いて思った。


そして、少ししり込みした後、意を決して口を開く。



「そこで冗談のつもりで………「5000兆円欲しい」って言ったんだ」



シーン。


二人しかいない、その場が静まり返った。

とどのつまり、竜也は冗談のつもりで言った事が願いとなり、このデスゲームに放り込まれたのだ。


その「5000兆円欲しい」というのが、少し前にネットで流行ったジョークである事を知っていた為、エマにはそれがすぐに解った。



「………ふふっ」



エマは、思わずくすりと笑う。

それに対して、竜也は恥ずかしさで顔を赤くした。



「い、いやだってそうでしょ?!いきなり願いを言えって言われて、まさかこんな事になるなんて思わないじゃん!?」



焦った様子で、事を取り繕おうと必死になる竜也。


竜也の言うとおり、たしかに「願いを言え」と言われてそれが本当だと思う者はいないだろう。

だが、冗談のせいでデスゲームに参加する事になったという参加理由は、いささか間が抜けている。



「ご、ごめんなさい、ちょっとおかしくて………」

「もう………」



とはいえ、それで竜也も大変な目に逢っている事を知っていたエマは、素直に謝る。

竜也も、ムスーと少々膨れている。



「じゃあ、エマさんの参加理由も教えてよ」

「えっ………?」

「だってそうでしょ、俺だけ聞いて、エマさんが言わないのは不公平でしょ」



少し怒った様子で、竜也は逆にエマに質問した。

確かに、間抜けとはいえ自分の参加理由を聞いて笑ったのであれば、それぐらいしなければ不公平だ。



「………そう………そう、ですね」



だが、少し視線を反らして落ち着かない様子を見せたエマを前にして、竜也は「もしかして聞かれたく無かったか?」と考える。


竜也は、どんな理由が出てきても笑うつもりはなかった。

だが、大方「借金がある」とか「スキャンダルを無かった事にしたい」とか、そんな物だと思っていた。



「私は、ね………」



意を決したのか、エマは少しの間を置いて、口を開いた。



「………父親を殺して欲しい、です」



………再び、場が沈黙する。

エマの口から出た願い、それは「父親を殺して欲しい」という、それだけ聞けば物騒極まりない物だった。



「お、お父さんを………殺す………?!」

「そう、殺します」



竜也も、驚きが隠せない。

そんな竜也を前に、エマは辛そうな顔を浮かべつつも、耐えるように話を続けた。



………知っての通り、エマはハーフ。

フランス人の父親と、日本人の母親を持つ。

他と比較する事は無かったが、幸せな家族だったと、エマは思っていた。


あの日までは。


12歳を越えた時から、父親の様子がおかしくなった。

娘であるエマに対して、過度なスキンシップを取るようになったのだ。


彼氏は居るのか等の、軽いセクハラ発言なんて日常茶飯事。

家での酒の席で、エマに酌を頼む際に尻を触ってきたり。

偶然と称して、エマの入浴中に風呂場のすぐ隣の洗面台に入ってきた事もあった。


年頃であったエマは、無論不愉快な思いをした。

だが、声をあげれば家族がどうなるかという恐怖からか、これも父親なりの愛情表現なのだと自分に言い聞かせ、耐えてきた。



「………そして、私が14になった頃です」



成長期真っ只中のエマは、学校で着ている水着のサイズが合わなくなっていた。

当時水泳部に所属していたエマは、新しい水着をねだった。

父親にねだるのは気が引けたからだ。

が、どういうわけか母親は聞き入れてくれなかった。


値段は高いが、自分の小遣いで買うしかないかなと考えていた、ある日の事。


いつものように家に帰ると、なんと自分の部屋の机の上に、競泳水着が置いてあった。

今着ている物よりも大きい、自分にぴったりのサイズの。


きっと母親が買ってくれたのだ。

勝手にそう考えたエマは、喜びからその水着を着てみようと思った。


………思えば、この時点で怪しい事に気付くべきだった。


エマが制服を脱ぎ、下着も脱いだ。

次の瞬間、部屋の押し入れが勢いよく開かれた。

そして………。



「………アイツは、仲間の似たような趣味のヤツを呼んでて………写真まで撮られて………そして………!」

「ま、待って!もういい!もういい、解ったから!」



ガタガタと震え始めたエマを前に、流石の竜也も止めに入った。

いくら交際経験のない童貞でも、エマがどんな目に逢ったか、それが言う事が何を意味するかは、竜也でも解るのだ。



「い、いいえ………話します」

「で、でも………」

「いいんです!言わせてください………!」



だが、エマは恐怖に耐えながら、話すと言った。

彼女を案じて止めようとした竜也に、珍しく声を荒げながら。



純潔を散らされた後も、父親はエマにセクハラを続け、時に犯した。

エマを襲った連中を呼んで、集団でした事もあった。

その度に、エマは恐怖に震え、その感情は死んでいった。


耐えかねたエマは、母親に助けを求めようとした。

だが、ある日の夕飯の時に、エマは気付いてしまった。


母親が自分を見る目は、親の目ではなかった。

女の、嫉妬の目だったのだ。

思えば、父親がエマに何をしていたか気付いていたのかも知れないし、水着を買ってくれなかったのも、この為かも知れない。

自分より若く、父親の気を引いている娘に嫉妬し、憎しみを向けていたのである。


エマは気付いた、家に味方はいないと。

助かるには、一刻も早くこの家を出るしかないと。



「高校を卒業と同時に、家を出て、スカウトされてモデルになりました、そしてしばらく経って………」



人気モデルとして名を轟かせといたエマは、過去を忘れ、忙しくも幸せな日々を送っていた。

だが、過去はそんな幸せな日々を打ち砕くように、突然現れた。



「………ある日、父親から電話がかかってきたんです」



何故自分の電話番号を知っていたかは解らないが、父親はエマに対して「モデルで儲けているなら、それを仕送りしろ」と言ってきた。


当然ながら、エマはそれを拒否。

当たり前だ、あんな事をしてきた両親など、助ける義理はない。


すると父親は「あの日の「思い出」を週刊紙に送るぞ」と脅迫してきた。

エマが犯されている光景を納めた、あの写真を。


それを聞いたエマは、絶望した。

どうしようも無かった。

どれだけ逃げようと親は、トラウマは、どこまでも自分を追いかけてきたのだから。



「………そして、竜也くんのように願いを聞かれて、このゲームに参加しました………」



全てを話し終えたエマは、運動を終えた後のように、ハアハアと息を荒げていた。


エマの、壮絶にも程がある人生を聞き、竜也は呆然としていた。

こんな、趣味の悪い同人誌のような事が、現実にあるなんて、と。



「アイツのせいで………一時期は男の人に会うのも怖かったし………今でも男の人が苦手で………アイツのせいで………!」



怒りに震えるエマを前に、竜也はある事が浮かんだ。

どうやら、父親の所業で、男がトラウマになっているようだ。

なら、自分の事も………。



「………ねえ、エマさん」



エマの恐怖を刺激しないよう、座ったままエマに訪ねる。



「………俺の事も、怖い?」



今までは生きる為だったから、仕方なく一緒に居た。

だから、無理をしていただけで、本当は自分も怖いのではないか、と。


もしそうなら、これからの共同生活も、考え直さなくてはならない。



「………いえ」

「えっ?」



だがエマは、竜也の予想に反して、首を横に振った。

てっきり怖がられているとばかり思っていた竜也は、少し驚いた様子を見せる。



「………竜也くんは、私を助けようとしてくれました、自分が怪我をしているのに、自分を犠牲にしようとして」



そういえば、と、竜也は拠点に向かう道中の事を思い出す。

あの時竜也は、足を怪我して松葉杖をついていた状態にも関わらず、エマを助ける為に飛び込んだ。


あの時は、ただ「助けなければ」という思いだけで行動していた。

考えてもみれば、よくあんな事ができたと自分でも思う。



「………不思議なんです、竜也さんからは、恐怖を感じない………」



そうか、なら安心だ。

竜也は、これで話しも終わったと思った。

だが。



「………むしろ」



だが、エマの話は、まだ終わっていない。

じっと、竜也の目を見つめている。

そして………。

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