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刀光剣影タイタンギア  作者: なろうスパーク
19/40

第18話「久しぶりの我が家」

無機質な部屋だった。

怪しげな機材や、手術に使うようなメスやハサミを乗せた台が置かれていた。


そう、そこは手術室。

大きな病院にあるというイメージのある部屋だが、ここは病院ではない。



「これが、依頼された実験体か」



手術台に乗せられた「それ」を前に、スクラブに身を包んだ男が言った。

本来なら「それ」は、手術台の端まで届く程の身長なのだが、手術台に乗っている「それ」は、半分ほどしかない。


当然だ。

半分は、ビームで焼けて無くなってしまったのだから。

今は、その失った「半分」の代わりに、生命維持の為に繋げられた何本ものコードが、その命をなんとか繋げている。



「なんでも、例のゲームの参加者らしいですよ」

「なるほど………夢破れたり、か」



スクラブを着た二人の男は、「それ」に対して手術の準備を進める。

身体を固定し、ライトの光をつける。



「だがこの実験で生まれ変わるさ、文字通りな」

「まあ、生きていればの話ですけど」

「生きてて貰わないと困る、俺達はこれで金を貰っているのだからな」



「それ」………かつてガオウと呼ばれた、田所という男だったものの虚ろな瞳が最後に見たのは、自分の頭に迫ってくるメスだった。





………………





ゲーム開始より、しばらくが経った。

ガオウの王国に拐われた事に始まり、二度に渡る手塚宰との戦いに、高町紫と湯野カオルとの出会い。

それから、色々な事があった。

そして………。



「………帰ってきた、ようやく………」



竜也とエマの乗る車は、第一都市部の外れにある、山の中にいた。

そして、彼等の見つめる先には、山の中にひっそりと立つ無人のビル。


ケイオスアイランドにおいて、竜也が活動拠点として使っている場所だ。

遠く離れてしまっていたが、ようやく帰ってくる事が出来た。



「ここが、竜也くんが拠点にしてる場所ですか?」

「うん、そうだよ」



車を駐車し、竜也とエマはビルの中へと入ってゆく。



「ただいまぁ」

「お、お邪魔します」



長旅を終えて我が家に帰ってきたかのように、竜也はビルの中に入る。

春香も、友人の家に招待されたかのように、控えめな態度でビルに入る。


………そこで、竜也は気付いた。


ゲームで生き抜く為の仮の拠点とはいえ、これは冷静に考えたら「女の子を自分の家に上げる」という事をしているのではないか?と。


そして、自分が生活スペースとして使っている部屋の事も思い出した。

二週間以上、朝食をたべたきり放置してあるその部屋は、テーブルぐらいしか家具が無いのもあるが、男一人で暮らしていた為、食べたツナ缶やらパンの袋やらが、辺りに散乱している。


はっきり言って、汚い。

ゴミ屋敷や汚部屋と言う程でないが、汚いのだ。


そんな部屋に女の子を、しかも人気モデルであるエマを………エマニュエル白鳥を招待するのか?

そんな事をして、エマがどんな感想を抱くか?


竜也の中に、1.5秒の早さでそんな考えが駆け巡る。



「………竜也くん、どうかしましたか?」



そんな事が起きてるとも知らず、突然ぴたりと止まった竜也に、どうかしたのかと訪ねる当のエマ。



「ま………待って!」

「え、えっ?」



すると竜也はびくりと飛び上がると、ビルに入ろうとしていたエマを呼び止めた。

何の事か解らず困惑気味のエマを前に、竜也は慌てつつも言葉を続けた。



「ちょっと、ちょっとだけ待ってて!5分、いや3分でいいから!お願い!!」

「えっ?あ、いいですけど………」

「大丈夫!すぐ、すぐ終わるから!」



エマをその場に立ち止まらせると、竜也はまるで旋風のように生活スペースになっている部屋に向かって駆けていった。


その場に、ぽつんと残されたエマ。

外では、運営によって放たれたであろう小鳥の声が、チュンチュンと響いていた。



………そして、ぴったり3分後。



「お待たせ!」



再び旋風のように竜也が戻ってきた。

ぜえぜえと息を荒げ、寒いにも関わらず額に汗を流している。



「お、お帰りなさい………」



そんな竜也に若干引いたのか、あははと苦笑いを浮かべるエマ。

この時点で、エマは何故竜也が自分を呼び止めたのか、うっすら気づいていた。



「じゃ、じゃあどうぞ!」



それを知ってか知らずか、竜也は改めて、エマをビルの中に招待する。

エマもそれに乗って、竜也に手を引かれるようにビルの中へと入っていった。





………………





場所は代わって、廃墟都市。


度重なるタイタンギア同士の戦いで破壊され、ある参加者が狩り場にした。

その為、殺し目的以外誰も寄り付かなくなったこの都市に、一人の男がやってきた。



「アンジェラ………ねぇ」



廃ビルの中の一つ。

その一室。


窓ガラスは既に無く、日光が直に入ってくる部屋の中にて、ソファーに座る一人の男。

この廃墟都市を狩り場にしており、少し前に竜也のガンドラグーンと死闘を繰り広げた、布浦晴斗だ。



その晴斗に向かい合うように立つのは、黒いコートの男。

アンジェラ………佐瀬アリアを追う男、加納蓮だ。



「噂で聞いたんだ、お前がアンジェラのタイタンギアと戦ったと」

「………あれに、かの殺人鬼アンジェラが乗っていたって事かい」



晴斗は、自身が座るソファーの上に置いた、水の入ったペットボトルを掴み、蓋をあける。

そしてそれを、ぐいっ、と半分ほど飲むと、再び視線を蓮にむける。



「………そんな奴を相手にしていたと思うと、肝が冷える………しかも、あんなに強いとは」



蓮が、この人気のない廃墟にやってきたのは、ここに現れたというアンジェラ、つまりは佐瀬アリアの情報を集める為。


結果は、今までに比べると大収穫だ。

今まではあくまで噂程度の情報しか手に入らなかったのだが、今回は佐瀬アリアの乗ったタイタンギアと戦ったという。



「これが、奴のタイタンギアだ」



晴斗が、数枚の画像のデータを、バルキリーリングを通じて蓮へと送る。

それは、蓮のバルキリーリングへとダウンロードされ、一枚の画像のデータを表示する。



「………ふざけたデザインだ」



送られた画像をスワイプしながら、蓮は呟いた。

そこに映っていたのは、佐瀬アリアのタイタンギア………ブラッディマリーの姿。


晴斗のジーガロスのカメラを通じて撮影された、その美少女フィギュアのような姿は、蓮からしても奇抜なデザインに見えた。

あくまで戦闘兵器であるタイタンギアのデザインとしては、確かに「ふざけている」としか思えない。



「確かにな………だが、そのふざけたデザインの奴に、俺のタイタンギアは片腕を持っていかれた」



だが晴斗の言うように、ふざけたデザインであるブラッディマリーは、その姿から想像できないほど強い。


タイタンギア二体で向かってきたこちらを圧倒し、ジーガロスの片腕を破壊したのだ。

ブラッディマリーも、それを操る佐瀬アリアも、かなりの強者と見て間違いないだろう。



「………んっ?」



蓮が画像をスワイプしていると、一枚の画像が目に止まった。


そこに映っていたのは、ジーガロスと共にブラッディマリーに翻弄される、もう一体のタイタンギア。


蓮の持つタイタンギア・ジャッジサイヴァーに似た姿。

各部を赤く塗装したヒロイックな外見。


ただ一度の会合であったが、蓮はその機体を覚えていた。

パイロットは木葉竜也。

そして機体の名は、ガンドラグーン。



「………この赤いタイタンギアはどうなったんだ?」



不思議と、蓮は聞いてみたくなった。

共に佐瀬アリアに遭遇したであろう、ガンドラグーンの安否を。



「逃げるのに夢中でよくは見てなかったんだが、離れてゆく所は見た、多分逃げ切れたとは思う………そもそも、逃げるように提案してきたのもそいつだしな」

「そうか………」



ガンドラグーンが無事だと聞いて、蓮は何故か、心の中に「安心」を感じた。

竜也ともエマとも、ガオウの王国から脱出する際に少しだけ行動を共にしただけの、それだけの関係なのに。



「………あんたの仲間なのか?」



蓮の問いを疑問に思ったのか、晴斗は恋に訪ねる。

対する蓮は少し考えた後、こんな状況でもそんな事を気にする事ができる「甘さ」を自嘲するように、笑った。



「まあ………ちょっとした、腐れ縁ってやつだ」



けれども、サングラスで隠したその顔は、どこか優しく安心感を感じさせる物だった。


聞くべき事は聞き終わった。

蓮は晴斗に一礼をすると、振り向く事なくその場を去っていった。


再び、その表情を険しくして。

まるで、自分がそんな優しい世界に生きているのではないと、決意を新たにするように。





………………





コンクリートの壁と床を持つその部屋は、やはりというか埃っぽかった。


この建物が、雨風が防げて、最低限「なんとか」人が住める廃ビルである事を考えれば、当然である。


が、これは利用されていたビルが廃ビルになったのではなく、あくまでゲームの為に「廃ビル風」に作られた物である。

その事を考えると、このゲームの運営の「こだわり」の強さが伺えるというものだ。



「ま、まあ座って座って!ほんと、何もないけどさ………」



苦笑いを浮かべながら、竜也はエマに呼び掛ける。


竜也が普段生活に使っているこの部屋は、それまで竜也が日々を生き抜く為にいっぱいいっぱいだった事も相まって、生きていける最低限の物しか置いてなかった。


部屋にあるのは、机と、ベッド代わりに使っているソファーのみ。


独り暮らししたての若者の部屋よりも、物が置いていない。



「ど、どうも………」



竜也の誘いに従い、エマは机の前に腰かけた。

見れば、机の表面が少しだけ、油らしき物で虹色に光っている。

よく見れば、カップ焼きそばか何かの袋の、小さな残骸も見える。


ああ、やっぱり散らかっていたのだな。

そう思ったエマは、少しだけ苦笑いを浮かべていた。



「………さて」



机を挟んで、エマの前に座る竜也。

先程とはうって代わって、真剣な表情を浮かべている。



「これから、どうするか考えようか」

「これから、ですか?」



竜也が考えていたのは、これからの話。

今までは、ガオウの王国から脱出し、拠点に帰るまでの危険から互いを守り合うためという事で行動を共にしていた。


だが、こうして無事拠点にたどり着いた事で、それをする必要も無くなった。



「………ほら、確かにエマさんが居てくれて色々助かったけど、俺って甲斐性無いからさ」



エマが居た事で、竜也は助かった事が多い。

だが竜也は、自分が人間もう一人分を養い守れるほど、男らしい男ではない事を知っている。



「それに………男と同居するのって、女の子としても、アレでしょ?ましてや、俺みたいな奴となんてさ」



竜也は女性でも交際経験は無いが、一般的な女が自分のような男とは同居したがらないのは知っていた。

ましてや、エマは売れっ子モデル。

エマからすれば、自分との同居は屈辱か苦痛でしかないと考えたのだ。



「だからさ………はっきりさせよう、エマさんが嫌なら俺も出ていくし、一緒に住むなら、エマさんが不愉快にならないよう、極力努力はする」

「出ていくって………ここ、竜也くんの拠点ですよね」

「ああ、あげるよ」

「あげるって………」



そして竜也は、自分の拠点からエマを追い出すという選択肢を浮かべるほど、冷徹にはなれない男だった。

エマが自分との同居を嫌がるなら、自分から拠点を去るつもりでいたのだ。



「で、エマさんはどうしたい?」



ひとしきりの説明を終えて、竜也は改めて訪ねる。

これからの事を。


しばしの間が流れ、エマは考えた。

そして、考えた末に出した答えは。



「………私、嫌じゃないですよ?」

「へっ?」



てっきり、拒絶されるとばかり考えていた竜也は、あっけに取られた。



「それに、あまり自分を卑下しないでください、竜也くんは竜也くんが思っているほど、ひどい人間じゃないですよ」

「え、でも………」

「実際、ショッピングモールで、自分の身を犠牲にして私を助けてくれたじゃないですか」



エマに言われて、竜也はショッピングモールでの事を思い出した。

あの時は無我夢中で、身体が勝手に動いていた。

だが確かに、エマの言うとおりの事をしていた。



「………あの時のお返し、まだしてないんですよ?」



そう言うと、エマは机の上にあった竜也の手を握る。

やっぱり、柔らかくてさわり心地がよく、竜也は思わず赤面する。



「ですから、竜也くんがいいなら、これからも一緒に居たいです、構いませんか?」



卑屈になっていた竜也とは対照的に、にっこりと微笑みかけるエマ。

人気モデルになるほどの美人に微笑みかけられたのであれば、竜也も断りきれない。



「じゃ、じゃあ………よろしくお願いいたします」

「………こちらこそ」



最後は、竜也が根負けするような形で、首を縦に降った。

負け組男と人気モデルの不相応な同居生活は、この廃ビルを舞台に移し、もう少し続きそうであった。

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