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刀光剣影タイタンギア  作者: なろうスパーク
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第15話「鋼鉄の拳」

やがて、夜が来た。

血のように赤い月が昇り、月下の森が赤く染まる。

草木も眠る、森林地帯にて。



ズドォン!



ロンブリスの頭部が、地面に落下した。

首の中間あたりから、切り裂かれていた。


見れば、頭だけではない。

背中の強化ユニットも、腕も、足も。

まるでバラバラ殺人事件か何かのように、辺りに散乱していた。



「あ………あ………」



胸のコックピットに座っていた宰は、恐怖に染まった顔で怯えている。


スカートの股間部分に、染みが広がる。

恐怖のあまり失禁してしまったのだ。


こんな筈ではない。

また戦力を整えて、今度こそあのガンドラグーンにリベンジするのだ。


そう考えていた矢先に、この惨劇は起こった。



『あ………あなた!夜間の殺しはルール違反でしょ?!知らないの!?』



眼前の、赤い次に照らされた「それ」に対して、唯一残った胴体のスピーカーから声を飛ばす宰。


彼女の言う通り、このデスゲームにおいては、夜間の戦闘、つまりは殺人はルール違反となっている。

だが「それ」は、宰とロンブリスに対して、このように戦闘を仕掛け、この通り大破にまで追い込んだ。



『………それはあくまで「殺し」の場合でしょ~?』



しばらくして「それ」から、同じくスピーカー越しの反論が飛んできた。

宰よりも若い、無邪気な子供を思わせる、少女の声だ。



『私は別にぃ、あなたを「すぐには」殺すつもりはないよ?』



「それ」が、その凶器と一体になった腕を振り上げる。

宰が「ひぃっ!」と怯えた直後、凶器が振り下ろされた。


ずばあっ!


その一撃は、ロンブリスの胸部装甲を切り裂いた。

切り裂いただけだった。


表面だけを破壊し、完全に破壊はしなかったのだ。


だが、コックピットに座っている宰からすれば、そんな事は解らない。

コックピットに向けて攻撃された事に変わり無い。


自らに振り下ろされた死の恐怖に耐えられなかったのか、コックピットに座る宰は、無様に白目を剥いて失禁し、気を失っていた。



「うーん………ちょっと年取りすぎてるかなぁ~?」



「彼女」は、そんな宰を自らの機体の肩に乗り、吟味するように見つめている。



「………でもまあ、贅沢も言えないか!どんな素材でも、綺麗に仕上げてこその芸術だよ!」



赤い月を背に受けて、三日月のように口を吊り上げて笑う。

その姿は、血を求める吸血鬼にも、闇夜に降臨した悪魔にも見えた。





………………





竜也とエマの、拠点を目指す旅は早くも二週間と3日目を迎えていた。

戦力のガンドラグーンの整備不良や、デパートに仕掛けられた卑劣な罠。


更には当初乗っていたジープを失うという様々なアクシデントに見回れながらも、竜也とエマは運と勇気に守られて、今まできた。


そして、拠点のある山まで残り三キロという地点に差し掛かった時、彼等は足止めを食らう事になった。


それは………。



「はあ………はあ………く、このっ………!」



そこは、既に何か大規模な戦闘があった後らしく、崩れかかったビルや散乱したガレキ等、廃墟といってもいい光景が広がっている。


安全の為に、エマは車に乗せて後ろの方で待機している。

だが、巨大な二体の戦いは、エマの方からもよく見えた。


そこに立つのは、竜也の操るガンドラグーン。

そして、それと対峙するもう一体のタイタンギア。



灰色のカラーリングで染められたその機体は、それまでに登場したマーズトロンやロンブリスと比較すると、角ばったイメージとシャープさを感じさせる。


左手には、手甲のような小型のシールド。

右手には、クリケットバットを思わせる長い打撃用の武器「カーボンバトン」が握られている。


それでいて所々には丸みを帯びた箇所が見られ、一本角の伸びる頭には、Y字状の紫のカメラアイが輝いている。

そこに、この機体が間違いなく、マーズトロンの血筋を組む存在である事が示されていた。



その名を「ジーガロス」と名付けられたこのタイタンギアは、マーズトロンに代わる主力機として、今配備が進んでいる最新型。

性能や機能も、マーズトロンのアップデート版といった感じだ。


最新型という、国家機密の塊であろうこんな機体まで用意できるこのゲームの運営は、本当に何者なんだろうか。



拠点に向かう竜也とエマの前に立ち塞がったのは、この機体。

車ごと二人を踏み潰そうと向かってきた所、竜也がガンドラグーンを呼び出した、という訳だ。



「ぐ………このおおっ!」



ナックルガードを展開し、ガンドラグーンが殴りかかる。

だがジーガロスは、一発二発と繰り出されるガンドラグーンの拳を、紙一重に避けてゆく。


まるでアクション映画等で、拳法の達人が力任せに繰り出されるチンピラの拳を、ひょいひょいと避けているようだ。


実際、竜也とジーガロスのパイロットには、それほどとまでいかなくとも決定的な力の差があった。

殺しも、タイタンギアでの戦闘経験も。



「そこぉっ!」

「ぐ………!?」



隙をつき、ジーガロスがカーボンバトンの一撃をガンドラグーンの脇腹に叩き込む。

金属がぶつかり合う事による火花を散らし、ガンドラグーンは後方にあるビルに叩きつけられた。



「竜也さん!」



車と共に、戦いを逃れて離れていたエマの目の前で、ガンドラグーンは一方的に攻撃を受けている。


対するジーガロスには、目立ったダメージを与えられていない。

ほぼ一方的に、ガンドラグーンは追い詰められていた。



………所で、このジーガロス。

名前の由来は、ポリネシアに伝わる伝説に登場する風の魔神から取られている。


その理由は、このジーガロスを設計した科学者が、マウイ族の血を引くポリネシアンである事に由来する。


彼は、未だに僅かながら白人至上主義の残るアメリカの研究機関において、偏見と差別に晒されながらも、

マーズトロンの後継機たる新型タイタンギアの開発主任に選ばれるほど、腕を立てていた。


当然、他の科学者からは「ポリネシアンのくせに」と、いわれの無い嫌がらせや妨害を受けた。

だが、彼はやりとげた。

マーズトロンのような汎用性を持ちつつ、マーズトロンを越える機体を産み出したのだ。


そして彼は、一族の誇りと名誉を込めて、この機体に故郷の伝説に登場する風の魔神。

すなわち「ジーガロス」の名をつけた。

現れると嵐を呼びよせるという伝説に乗っ取り、差別や偏見を吹き飛ばすという願いも込めて。



そんな誕生経緯を持つジーガロス。

偶然か、はたまた運命か、そんなジーガロスを駆るパイロットもまた、そうした強い「信念」を持っていた。


彼は「布浦晴斗(ふうら・はると)」。

年齢は25歳。


貧乏な家の出である彼は、小さい頃から喧嘩だけは得意で、それが高じて高校生の時に学生ボクサーとしてデビューを果たす。

その後、水を得た魚のようにメキメキと頭角を現し、卒業と同時にプロボクサーとして業界入りを果たした。


両親も歳で、幼い兄弟のいる彼は、これでやっと家族に安定した生活をさせてあげられると安心した。

自分が、家族を養っていけるのだと。


………だが、これから晴斗が享受するハズだったプロボクサーとしての生活は、彼の知らない薄汚い「大人の世界」の力によって、打ち砕かれる事となる。


ある大会を勝ち進んでいたその時、晴斗に八百長の容疑がかけられたのだ。

無論、晴斗はそれを真っ向から否定。

身に覚えのない事なのだ、当然である。


だが、誰も晴斗の言う事を聞こうとしなかった。

それ所か、関係者全員が、あたかも晴斗が八百長をした事を前提で話を進めていたのだ。

業界に入って日も浅い晴斗が、どうやるというのか。


結局、晴斗は八百長を行った不正者として、業界からもファンからも、果てはマスコミや世間からも罵詈雑言を浴びせられ、ボクシングをやめた。


………晴斗は最後まで知らなかったが、若い晴斗の才能を邪魔に思っていた他のボクサーと、

民衆の目を反らす為の「話題性のある身代わり」を探していた政治家の利害が一致した為に、起こった事だった。

よくある、政治から目を反らさせる為に、芸能人の不倫を過剰報道する事と、同じ理屈だ。


ボクシングから追い出された晴斗を待っていたのは、また地獄だった。


高卒扱いの晴斗を受け入れてくれる仕事なんて限られていたし、そもそも八百長をしたと世間から認識されている晴斗を受け入れるような所など限られていた。


苦労の末ついた仕事は、雀の涙のような給料で、重労働をさせるような物。

当然それだけで家族を養っていけるはずもなく、晴斗はいくつも仕事を掛け持ちした。


身体をすり減らし、ボロボロになりながらも、ギリギリで辛うじて生きる日々。

ついには両親も倒れ、生活は更に厳しくなった。


いつ倒れてもおかしくない中で、晴斗は考えた。

何故、自分がこんな目に逢わなければならないのかと。

何も、悪い事はしていないハズなのに。


ある日、そんな調子でボロボロになりながら次の仕事に向かう最中、晴斗は怪しげな女に呼び止められた。

女は言った「願いはあるか」と。


精神的に追い詰められていた晴斗は答えた。

「家族を養っていけるだけの金が欲しい」「自分の無実を証明したい」と



そして、晴斗はこのデスゲームに参加する事になった。


生き残った者は、何でも願いが叶うこのゲーム。

それを知った瞬間、晴斗はある結論に至った。


今までの事は「試練」だったのだ。

このチャンスを掴む為の。

そして、今戦っているのも。



「こなくそっ!」



立ち上がったガンドラグーンが、握っていたマーズトロン用のマシンガンを放つ。

だが、ボクシングで鍛えた晴斗からすれば、そんな物は止まって見える。


まばらに放たれる弾丸を避け、ジーガロスがガンドラグーンと距離を詰める。



「俺は勝つ………試練に勝つ………!」



晴斗は自分に言い聞かせる。

これは試練なのだ。

今までの、生き残る為の人殺しも。

今の、この戦いも。


自分に課せられた、逆転の為の試練なのだと。



「俺は試練に勝つ!!」



ガンドラグーンに向けて、ジーガロスが再び、カーボンバトンの一撃を叩き込んだ!





………………





ずどぉ、ずがぁ。


遠くから風に乗って、二体のタイタンギアがぶつかり合う音が聞こえてくる。



「おぉ~!やってるやってるぅ!」



それを、双眼鏡越しに遠くから見つめる、一人の少女がいた。

巨大な鉄の巨人の死闘を、まるで格闘技を観戦するかのように、手元のポップコーンを食べながら。


半壊したビルの上にいるというのに、その服装は黒を基調に白いフリルをのついた、西洋人形のような………いわゆる「ゴスロリ」と呼ばれる、こんな所に来るには場違いな物。


顔立ちこそ日本人らしいのだが、ピンクがかった銀に染められた髪を、ツインテールにして結んでいる。

ぱっちりとした目は赤いが、これは元より。


見ようによっては、アニメの世界からそのまま飛び出してきたような少女が、そこにいた。



「多分アレのどっちかが、ここを狩り場にしてるんだろうね、知らんけど」



ポップコーンを頬張りながら、二体のタイタンギアの戦いを観戦し続ける。


彼女がこの場所に来たのは、ここが「狩り場」………ある参加者が、この場所に迷い混んだ他の参加者を殺すのに使っている場所だという噂を聞いたからだ。


ここなら、彼女のある「活動」に必要な「素材」が多く手に入ると考えたからだ。


所が、広がるこの廃墟から解るように、ここはタイタンギア戦が盛んに行われていた。

殺しの数は増えるが、当然ながらそんな場所にある「素材」はどれも状態が悪く、彼女の「活動」には適さない。


「素材」の確保は諦めて足早に帰ろうと思っていたが、そこにとんでもないイベントが舞い込んできた。

それが、今彼女が観戦している、二体のタイタンギアの戦いである。



「………あ、無くなっちゃった」



気づけば、手元にあったポップコーンを入れた容器は、とっくに空になっていた。

彼女は容器をポイと捨てると、立ち上がって背伸びをする。


胸回りが白い布で出来ている事もあり、背伸びをするとその年齢の割には大きな胸が強調される。



「さーて、私も「参加」しようかな?うふふふふっ………」



彼女の右手のバルキリーリングが、太陽光を浴びてキラリと光る。

今なお戦う二体を前に、彼女の口元がニィィと上がった。

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