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集落と人間模様

ノアとゾーイは寝ていた。急にノアの顔にオレンジの光がかかる。ノアは目を覚ました。隣を見ると、ゾーイはまだ寝ているようだ。日の出の光が木々の隙間からわずかにノアを照らしていた。が、ゾーイには光は届いていないようだ。ノアはもう一回寝ようとも思ったがもう眠くはないので、かわりに、朝食になる木の実を探すことにした。ゾーイを起こさないように抜き足差し足で歩いた。木々を見渡すと昨日食べたソートラとコイチのほかに食べられそうな青い実を見つけた。アズラクだ。ジャンプすれば手が届きそうだ。ノアは助走をつけてジャンプして、アズラクをつかんで採ることができた。だが、勢い余って他の木に激突してしまった。振動で葉がカサカサと揺れる。その音でゾーイは起きてしまった。何事かとノアを凝視したゾーイに対して、ノアは布の袋いっぱいに入った果実を見せて納得させた。




朝食を手短に終わらせると森の奥の集落に向かって歩きだした。今日食べたアズラクは弾力があって、これはこれで悪くない味だった。ただ、最近果実ばかりで飽きてきた感じもする。まあ、食事がとれてるだけありがたいと思うしかないか。今見える大樹も森に入る前に見たときよりずっと大きく見える。周りの景色は変わらないように見えるが、それでも着実に目的地には近づいている。頑張って歩くぞ!


昼食も摂ってかなりすぎた。そろそろ日も傾きかけたころ、しばらく歩いていると、人が二人、歩いているのが見える。二人とも槍を持っている。だが、ノアたちの目をひいたのはそこではなくて、彼らの服装だった。動物の皮で作られた服を着ている。この時代にそんな人がいるなんて驚きだ。

[ゾーイ、変わった人がいるよね。]

[分かってる。]

ノアたちの声に気づいたからだろうか、まるで先史時代のような服装の二人が駆け寄ってきた。

[お前ら、よその者か、珍しい格好をしているようだが、ここで何をしている。]

[あの大樹のそばにある集落に行くんですけど?]

[そこは俺たちの村だが?よそ者がなんのようだ。]

[訳あって、ここを南に行って隣国のクリムゾンに行きたいんだよ。]

[クリムゾン?聞いたことがないな。俺たちは外のことなんか知らない。まあ、いい。村まで案内するからついてこい。]

[ありがとう。]

現地の二人はノアたちに背を向けて歩きだした。ノアたちはその背中を追いかけていく。しばらく歩いて行くと、先からさまざまな声が聞こえてきた。どうやらもうすぐ集落らしい。急に目の前が開ける。木が生えていないそこそこ広いスペースに木を組み立てて作ったってことが一目瞭然の家がたくさん並んでいた。ドアなんてものはなく、木で三方向を囲まれていて一方は外に開け放されている平屋である。ノアたちが集落に入ると皆の注目が一斉にノアたちに注がれた。一瞬の沈黙の後、民たちは騒ぎだした。

[外のやつ?いつぶりだろう。]

[変わった服!]

ノアは戸惑って、道案内をしてくれた人に尋ねた。

[あの、これからどうすれば?]

[とりあえず村長のところに行くといい。]

[目の前の一番高い建物が村長の家だ。分かりやすいだろう。]

ノアたちは村長の家に行った。だが、中には村長らしき人はいない。中には一人の少女が部屋の中央にあるいろりで料理をしていた。

[あんたたち、変わった服来てるのね。もしかしてこれが外の人間?あんたたちが来たから、どうりでさっき外が騒がしかったのね。迷いこんだとかその類いでしょ。村長に顔を見せようと思った、そんな感じかしらね。でも村長は私の兄たちと、狩りに出かけたからまだ、帰ってこないわよ。]

ノアよりも少し年下のように見える。褐色の肌に、髪は少し青っぽい色をしていて、うしろでしばっている。目は青みがかかっている。ノアがいた地域には見られない特徴だ。

[それよりもさ、あんたたち、どうしてここに来たのさ?話してくんない?]

ノアはゾーイがノアの家に来たこと、ゾーイが傭兵になりたくて、道案内でノアも一緒について来たこと、ゾーイは生まれてからずっと過ごして来た施設を脱走し、警察に追われていて、追っ手から逃れるようにこの集落に来たこと。家にあった地図でこの集落のことを知ったこと。すべて話した。

[ふーんそれでこのイリス村に来たのね。]

[あ、ここの集落ってイリス村って言うんだね。初めて知ったよ。ほら、地図にも名前書いてなかったから。]

ノアたちが話してると、大柄で髭を生やした中年の男が入って来た。

[あ、イーヴァ?こいつらはなんなんだ。けったいな格好をしてるが、まさか外のやつか。]

[そうよ。私は、聞いたことはあったけど見るのは初めて。]

[俺も見るのは久しぶりだな。お前が小さかった頃に一度狩人が迷いこんで以来だ。でもよ、こんなガキがしかも二人迷いこんで来るなんて初めてだ。]

[しかも、来ようとして来たんでしょ?]

[うん、この地図を持って来たんだ。]

そう言ってノアは二人に地図を見せてイリス村を指差す。

[外とは繋がりを一切持っていないはずなんだがなーどうしてこの地図には載ってるんだか。不思議だ。]

[あたしはこいつらから話を聞いたから。あんたたち、すまないけ

ど、同じ話をオヤジのためにもう一回してくれない?]

[分かったよ。]

[ここだと料理の邪魔になるかもしれねえ。外で話を聞かせてくれないか?]




[なるほどな。俺も外のことはよく分からないが、大変だな。追われるなんて、なあ?]

[うん。大変だよ。僕も冒険に出たときはこんなことになるなんて思わなかったよ。]

[ごめん。]

[いやいや大丈夫だから。もう慣れたから。それより、今後どうするかだよ。すぐに出発して行くかそれとも休ませてもらうか。]

[休みたい。]

[わっはっはっ]

村長が大声で笑いだした。

[そうだよな。お前らも疲れてるよな。いいぞ、いくらでも泊まらせてやるぞ。なんならこの村に住んだっていい。]

[それは‥‥逆に警戒心がなさすぎて怖いよ]

[なぁーに、いいやつと悪いやつなんて顔を見ればすぐにわかるもんだろ?お前らはいいやつだ。ケイサツってやつに追われてようが関係ない。]

この時、ノアは、やっぱりゾーイを信じて良かったな、と思った。そう、ゾーイが悪いやつであるはずがない。

[そろそろ飯ができたんじゃないか?おい、ってそういえばお前らの名前聞いてなかったな。]

[えっとー僕がノアでー]

と、ゾーイが口をはさむ。

[ゾーイ。]

[そう。ゾーイだよ。]

[そうか。空腹だろう?たらふく食わせてやる。]

ノアたちは村長の家に戻った。いろりの火が、もう暗くなった空に映えていた。見るとイーヴァの他に女の人が1人、男の人が二人いた。皆すでに食べ始めていた。

[お前ら二人も自由に取って食え。ああ、紹介がまだだったな。こいつは俺の妻のポーラだ。で、こいつが息子のエリックとクリスだ。おい!お前ら!客人だ。こっちがノアでこっちがゾーイと言うらしい。]

[け、よそ者かよ。身元がわかんねえやつなんか泊めてどうするんだよ。]

クリスの言葉にエリックが返した。

[ふっ、心配しないでくれ、クリスは前に外から来たやつにいちゃもんつけて喧嘩を仕掛けたんだけど、こてんぱんにやられてね。それで、外から来たやつが嫌いになっただけだからな。]

[ったく、うるせえな。]

小さい家に笑い声が広がった。

[こいつらは俺よりも年下だろうし、見た感じもも弱そうだな。まあ、俺に逆らわないことだな。]

また、笑い声がもれる。

またエリックが返す。

[こいつ、狩の腕前でも、イーヴァより下手なんだぜ。だからコンプレックスで言ってると思ってくれ。]

ここで、ポーラが口をはさむ。

[もう、そこら辺でやめにしなさんな。お客さんの前で恥ずかしいでしょうが。]

[はーい。]

エリックはわざとらしく応えた。ここで、イーヴァが言った。

[ねーお母さん、明日は、用事ある?]

[そうねー。明日はないかもね。今日中に全部片付いたから。]

[そうなの?じゃあ明日はお母さんが料理やって代わりに狩りに行ってもいい?]

クリスが言った。

[やめとけ。危ないぞ。この前も危ういところだったじゃないか。]

[ふん!そういうクリスは全然役に立ってなかったじゃない?]

[なんだと?]

クリスが思わず立ち上がろうとする。そこですかさず村長が制した。

[元気なのはいいことだが、すぐ頭に血が上るのはよくないぞ、クリス。イーヴァ、狩りが危ないのは分かってるよな。だからなるべく行ってほしくはないんだがなー]

[そうよー、あなたは女の子なんだし、狩りに行く必要なんてないんだから。]

[ずっと村にいるなんて退屈なのよ。することといったら料理くらいしかないじゃない。]

イーヴァはふと、ゾーイの近くに剣が置いてあるのに気づいた。

[そうよ、この二人を連れていけばいいのよ。]

[え?]

[え?]

ノアとゾーイは同時に反応した。

[いや、僕は戦うこと自体素人だからなぁ。でも、ゾーイならなんとかなるんじゃないか?]

[私が行くんだったら君も来て。]

[え?なんで?]

[いると壁になる。]

[なんだそりゃ]

ひどいなーさっきゾーイのこといいやつだと思って損したなー

[何でもいいから来てよね!]


[お前らは、ケイサツを倒して来てるし、実力は申し分ないんじゃないか?]

村長が言った。

[それは、ほとんどゾーイのおかげー]

[なに、今まで生き残って逃げ切れたってことはお前もそれなりにできるってことじゃないか。そうだな。お前ら二人がきてくれるならイーヴァを狩りに連れていこうか。]

[やったー。ありがとうオヤジ。]

なんだか勝手に狩りに行くことになったがしょうがないのかー




夕食も食べ終わって片付けた。その後各自、外に備え付けてあった火沸かし風呂に入った。すべてが済んだ後、ノアは布団に仰向けになって夜空を見ていた。久しぶりにちゃんとした食事がとれてノアは嬉しかった。こんな食事が毎日できればなー。イリス村では家の中に布団がはいらないので外で寝るらしい。ノアは左を見るともうすでにイーヴァが寝ていた。右を見てみると、ゾーイとその奥に森が見えた。寝てるかどうかは分からない。僕も明日に備えて寝ないと。


















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