狙われる命と不穏な動き
[いってきます。]
ノアとゾーイは家から出発した。ノアはリュックを背負って歩いていて、隣のゾーイもリュックを背負っている。ふっと顔を上げると前後左右どこを見ても一面畑で埋めつくされている。家はところどころにまばらにある程度だ。本で読んで知ったがここアロース村は[ショマールの食糧庫]と言われることもあるほどの重要な農村だ。みんな自給自足で生活している。ノアたちが歩いてる道は整備などされていなく、人もまばらである。道幅は広いが車が通ることを想定はしていないようだ。ノアは暇なので、ゾーイに気になったことを聞いてみた。
[ゾーイってどこから来たの。]
[あっち。]
そう言うとゾーイはアロース村の方面にある大きな山を指差した。
[え?あんなところに住んでたの?そんな人いるんだ。で?どうしてうちに来たの?]
[家出したから。]
[まあ、あんなところに住んでたら家出したい気持ちもわかるけどなぁー。で、なんで傭兵になろうと思ったの。]
[なれそうだから。]
[危険だと思うけど、その辺も分かってるの?]
[うーん傭兵しようがしまいが危険なのは変わらないから。]
[まあ、いいや。]
ずっと変わらない景色が続いているばかりでノアはうんざりしてきた。でもまだフォーキー村まではまだまだかかる。
一時間ぐらい歩いただろうか。あたりは田んぼから森に変わっていた。ノアはまだまだかかるんだよなと一人思っていると、急にサイレン?の音が聞こえてきた。なんで?そう思ってるとサイレンの音は次第に近づいてきて‥‥パトカーだ!すごい!パトカーを見るのは初めてだ。というか車自体初めてか。でもこんな田舎にどうしたんだろう?そう思ってるとパトカーはノアたちの前で止まって、警察官(これも初めて見た。)が何人か降りてきて‥
[手を挙げろ!]
へ?そう思いながらも、反射的にノアは手を挙げた。
[パン!]
乾いた音が周りに響き渡った。警察官が倒れるまでノアはその音が拳銃だと実感できなかった。なにしろ、拳銃の音を聞いたのは初めてだったからだ。ふっと横を見るとゾーイが拳銃をを手にしていた。ノアは一目散に逃げ出して、田んぼの側溝に身を隠した。(とは言っても背中が出ているのだが‥)ゾーイは一人倒すと駆け出してパトカーを壁にして、一周しながら撃ち続けていた。何発か銃声が聞こえた後、一周する頃にはもう拳銃の音は聞こえなくなっていた。ノアは顔を上げた。そこには拳銃を持ち、たたずむゾーイがいた。ノアは驚きのあまりしばらく声が出なかった。
[け、拳銃、なんで?持ってるの?]
[君のお父さんが持たせてくれたから。]
[え?なんで?僕のお父さんが拳銃を持ってるの?]
[知らない。]
[じゃあ、なんで?拳銃を君に持たせたの?]
[護身用にって]
[いや、おかしいって、おかしすぎるよ。普通拳銃なんて持ってないよ。それこそ傭兵とかじゃないと。うん?もしかして僕のお父さんも傭兵だったのかな?]
[知らない]
[そうかーよく分からないな。じゃあなんでゾーイは警官に追われてるの?]
[それは、家出したから。それより、車、手に入れたから、これで運転すれば早く着くよ。]
[いや、話をそらさないでよ。]
[もっとパトカーが来るかもしれない。今は口論してる場合じゃない。]
[はぁー。分かったよ。その代わり後で話してもらうからね。]
ノアとゾーイはなんやかんやで車に乗り込んだ。
ノアはゾーイが車を運転できるか気になった。が、ゾーイはおもむろにハンドルに手をかけると勢いよく走りだした。
[運転できるんだね。]
[いや、初めて]
[大丈夫なの?]
[知らない。]
車はどんどんスピードを上げて快走していった。ただ、道が舗装されてないこともあり、上下左右に激しく揺れる。車は銃撃で至るところに穴が空いており、いつ壊れるか分からない状況だった。ところどころで人が歩いていたが、皆驚愕したように振り返った。30分ぐらい走っただろうか。フォーキー村が見えてきた。ゾーイは車を止めた。無言で降りるゾーイにノアは急いでついていった。
フォーキー村についた。辺り一面を森で囲まれている。家が密集して建っていてその奥にさまざまな店が並んでいる。どれも小さい店だったが、そもそもフォーキーには店すらなかったので、ノアには新鮮に思えた。それはゾーイにとっても同じだったようで、あたりを見渡している。本で読んだ情報だと、ここは、野性動物がたくさんいるみたいであちこちからハンターがやってくる場所らしい。だから武器を扱っている店があるのだそうだ。
[武器を買うんだよね?]
[うん]
[じゃあ武器屋に行こう。]
ゾーイは言われなくても分かってると言わんばかりにずんずんと進んでいって武器屋のドアに手をかけた。中に入ると白い髭を生やしている老いた店員がいて、ノアたちのことを気にする様子もなく拳銃を磨いていた。部屋の中には数々の種類の拳銃、剣、槍、斧などが陳列されていた。ゾーイはおもむろに1つの剣を取り出してカウンターに持ち込んだ。すると、一人の客が口を開いた。
[ロングソードかよ、あんなのおもちゃじゃねえか。]
金髪の髪を伸ばして結び、髭も伸ばしていてとても男前だ。ノアは何を言うんだと言わんばかりに客をにらむが、客のほうはどこ吹く風である。ゾーイは気にすることなく会計をすませ、ノアに言った。
[何か買わなくていいの?]
[僕も?いや、戦えないよ。]
[でも、護身用に必要でしょ?]
[まあ、そうだけど、何がいいと思う?]
ゾーイは周りを見渡して1つの武器を取った。
[これ。]
大きなプラスチック製のシールドだった。裏には背負えるようにリュックについているような取っ手がついていた。
[確かにこれなら技術がなくてもなんとかなるかも。]
ノアでも持ち上げられるほどの軽さである。書いてある説明によると、これで銃弾を防ぐことができると言うのだからすごい。ノアも会計をすませようとすると、
[おもちゃの剣の次はおもちゃのシールドか、こいつら大丈夫なのかよ。]
またさっきの客が口を挟んできた。ノアは不服そうにその男を見ていたが、その間にゾーイは店を出ていってしまった。ノアも急いで後をついていった。
[本当、あの人はなんなんだろうね。僕はともかく君は強いじゃないか。なのにあんなこと言うなんてあの人は人を見る目がないよね。]
[強そうに見えればいい訳でもない。別に弱く見られてもかまわない。]
[でも、あんなに侮辱されて悔しくないの?少し言い返してもいいんじゃない?]
[挑発にのってもしょうがない。]
確かにそうかもしれないけど。分かっていてもつい気になってしまう。やっぱり強い人は違うんだなとノアは思った。
例の二人がまた話している。
[現地の警察にあいつを捕まえるように要請したのですけど、フォーキーの近くで銃痕のあるパトカーが見つかったそうです。しかも、アロースとフォーキーを結ぶ道で警官が3名死んでいたようです。皆銃で撃たれて死んだようです。]
[何?銃だと?どこでそんなもの手にいれたというのだ。アロース村で銃を手に入れることなど出来ないはず。まさか、あいつが入った家の奴が持ってたというのか?あいつが入った家の奴のことを調べてくれ。]
[分かりました。]