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不思議な少女と旅立ち

[おい!捕まえたか?]

[すみません!逃がしてしまいました。]

草も生えていない険しい山の中でところどころ雪が残っているその中に、場に似合わないような白い無機質な大きな建物があった。その建物のそばで軍服を着た初老の男と、その部下と思われる若い男が話していた。初老の男は顔に深く刻まれたシワに表情を奪われたように無表情で、部下の男は軍帽を深く被っていて表情はよく分からないが、なにやら深刻そうだ。

[まあ、分かってる。あいつの速さには誰もついていけないだろうな。]

[あいつらに捕まえさせますか?]

[いや、あいつらは世間にばれると厄介なことになる。お前がどうにかしろ。最悪、殺しても構わん。]

[はい。部下の者を使ってもよろしいでしょうか?]

[構わん。だが、隠密に頼むぞ。]

[承知しました。]



[ノア、風呂に入れ。]

[えー今忙しいよ。]

[どうせ遊んでいるんだろう?]

[遊びも大切でしょ?]

[つべこべ言わずに早く入れ。]

ノアは重い腰を上げてお風呂に入った。



(ガラガラガラー)

ノアはお風呂から上がった。

[お風呂からあがるのが早いじゃないか。ちゃんと体洗らったのか?]

[洗ったよ。]

[まあいい。それよりご飯が出来たから早く食べろ。]

ノアと彼の父は同じテーブルにつき、夕食を食べ始めた。

[お父さん。今日は仕事が終わるのが早かったね。]

[そうだな。今日は厄介な患者がいなかったからな。]

[それよりノア、ちゃんと勉強したのか?]

[まあ、渡されたワークは解き終わったかな。]

[お前は学校行けないんだからしっかりやらないと試験に受からないぞ。]

[まだまだ先でしょ。何年もあるでしょ。そもそも何のために医者にならなきゃいけないの。]

[世の中に困ってる人がいたら助けなきゃいけないだろ。そのとき助ける術を持ってなきゃどうにもならないだろ。]

[理屈はわかるけど実感できないんだよね。]

[そのうち分かるようになるだろう。]

[そういうものかな。]

[そういうものだ。]



夜遅くになった。ノアはとっくに眠りについていた。

(ゴソゴソ、ガタン)

外で物音がするようだ。物音でノアは目が覚めてしまった。だが、ノアは気にする様子もなくもう一度眠りにつこうとする。

(ガッシャーン)

何かが家の外の倉庫から落ちてきたようだ。さすがに、これにはノアも気になって窓の外を覗いてみる。が、よく分からない。すると、ノアの父が家から出てきて倉庫に向かった。これを見たノアも階段を下りて一階に行き、裏口から急いで倉庫に向かった。

家を出ると、ノアの父がなにやら誰かと話しているようだ。

[おい!なにやってるんだ!]

倉庫の中は米俵が落ちてきていて、地面が見えない。よく見ると米俵が揺れていた。もっと近づいてみると、どうやら中に人がいるらしい。その人、はノアの父の質問に答えることもない。ノアと彼の父はひたすら米俵をどけていった。と、二人の米俵を動かす手が止まった。その人が、米俵の中の生の米をむさぼり食っていたからである。その人は黒髪にショートカットヘアで黒い目の少女だった。全く日焼けをしてないようで、肌は白い。ノアよりも少し年上に見える。ノアはここら辺の人たちとは違う顔つきだと思った。だが、事態はそれどこではない。ノアの父は少女に声をかけた。

[おい!やめろ、やめろ!生で食うな。ちゃんとしたやつ食わせてやるから。]

少女は一心不乱に食べていてノアたちにかまう様子もない。

そこで、父は少女の手を無理やり引っ張って家の中に連れてきた。その間ノアはめちゃくちゃになった倉庫を眺めていた。さっと、しゃがむと

[生で食べられるのかな?]

と言って一粒つかんで口の中に放り投げた。

[うわ!まずい]

やっぱりあの少女が変わっていただけだった。



ノアが家に戻ると少女は座っていてノアがふっと見ると、こちらを見てきた。やっぱり珍しい。さっきは気づかなかったがどうやらパジャマを着ているようだ。いったいなんなんだ、いいや、後はお父さんに任せよう、ノアは部屋に戻って寝た。



翌日。ノアが、目覚めて、リビングに行くと、少女の姿は無かった。

[あれ、昨日の子は?]

[まだ寝てるぞ。]

[どこで寝てるの?]

[倉庫だった部屋をきれいにして寝かせている。]

[そういえばあの子、クリムゾンに行くそうだ。]

[え、そうなの?]

クリムゾン共和国。ノアたちの住んでいるこのショマール帝国の隣国だ。

[でも、あの子は行き方がわからないそうだから一緒についていってくれないか。]

めちゃくちゃだ。行き方もわからない所に行きたいなんて。

[行ってくれるな?]

父の言葉には有無を言わさない強さがあった。どうして。どうしてお父さんはそんなにお節介なんだろう。

[そ、そういえば、あの子の家族は?]

[いないんだそうだ。]

[じゃあ今までどうやって?]

[聞いたが答えなかった。]

[じゃあクリムゾンに行って何をするつもりなの。]

[傭兵になるそうだ。]

傭兵。クリムゾンで、治安維持や戦争に動員されるものだと、どこかで聞いたことがある。危険な職業だ。好き好んでやりたい人なんているわけがない。ああ、あの子はかわいそうな人なんだな。傭兵にならざるをえない状況になってしまったのか。それにしても、結局あの子と一緒にクリムゾンにいくしかないのか。あ、聞いてなかった。

[あの子の名前なんて言うの?]

[ゾーイというらしいぞ。]

ゾーイか、覚えておかなきゃ。

[おい。明日には行くそうだから準備はするんだぞ。]

[え?明日?また急だよね。]

[よく分からないが急がないといけないそうだ。]

はーめんどくさい、朝食食べ終わったらさっさと準備するか。



朝食にゾーイは来なかった。まだ寝ているのかな。ノアはそう思って倉庫のドアのすき間から覗いてみた。ゾーイは窓を見つめていた。何をするのでもなく。本当に何者なんだろうか?ゾーイと一緒にクリムゾンに行って大丈夫なんだろうか。何でお父さんは見ず知らずのゾーイをあそこまで信用してるんだろう。そんなことをノアが思ってると、ゾーイが振り返ってノアと目が合った。

うわ、気まずいなー。気づかれたのなら何か話さないと。ノアは少しドアを開けた。

[明日クリムゾンに行きたいの?]

[うん。早めに行きたい。]

[傭兵になりたいって聞いたけど?]

[そういうことになってる。]

[分かった。じゃあね。]

そう言ってノアはドアを閉めた。なんかよく分からないなー。ゾーイから傭兵になりたいという意志を感じないんだよね。しかも腕がたちそうには見えないし。まあいいや、明日の準備をするか。



ノアが夕食を食べに一階に降りて来ると、ノアの父とゾーイはすでに食べ始めていてノアもイスに座って食べ始めた。しばらく皆無言で食べていたが父がノアに言った。

[明日はまずは歩いてで隣のフォーキーに行ってくれ。]

[なんで、そのまま行かないの?]

[ゾーイが武器を買うために寄るんだそうだ。]

[そうなんだ。分かったよ。]


例の二人が昨日と同じように話していた。

[どうやら、あいつはアロース村にいるようです。民家に入っていったのを偵察の者が確認しました。]

[あいつ強盗をしてなければいいが。]

[そういう話は特にないようです。ところであいつはどこで捕まえますか。民衆の目につくと厄介ですよね。]

[なに、あいつのことだ。我々の管理下にあるアロースにずっととどまるはずはない。道中で仕掛ければいい。]

[承知しました。]

[なに、あいつは武器を持っていないだろうからな。あの力さえばれなけばいい。]













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