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奥山さんの毎日。

奥山さんと6番目。

作者: ヤマモト

奥山さんは寒がり。


「おはよー」

「おはよ……」

いつも通り、危うく遅刻になりかねない時間。あかりちゃんがレジを立ち上げているとき、奥山さんがだらりとやってきた。

「ていうかさ!寒くない!?公休にすべきじゃない!?」

「寒いねぇ、と思っていつもより早く来てエアコン入れてんだけどねぇ」

「もう2時間早く来てもいいんだよ?」

「そう思うなら奥山さんがもう2時間半早く来てもいいんだよ?」

うへぇという顔をして奥山さんは恨みがましい視線であかりちゃんを見た。

「知っていると思うけど、別に奥山さんに適温でいてもらうために早出はしないよね」

「あかりちゃんのそういうとこだよ、余計に寒くなる」

「まあ、今日は観測史上6番目の寒波らしいから。私のどうこうで余計に寒くなるとかないよね」

奥山さんは目を見開いてあかりちゃんを見た。

「その寒波、私のせいじゃないことは理解できる?」

「さすがに寒波まで操るほどじゃないとは思っているし、そんな力あるなら全力で止めてるよ。止めてよ」

「いや、だから私に止めてよと言っても」

「あかりちゃんならなんとか出来そう、視線とか態度が冷たいから」

「それって軽く私の性格をディスっているって知っているかな?」

「軽くではないよ」

「なおさら悪いね」

「そうでもないよ」

「余程なのはわかったからもう止めて?」

「だったらこの寒波も止めて?」

「やれやれ」とあかりちゃんは首を振り仕事に戻った。奥山さんはエアコンの下で温風を浴びている。

「働いてください」

「いや、無理だよ、今日寒いし、公休になると思ってとりあえず来ただけだし」

「公休にならないし通常営業です」

「あかりちゃん、マジで?マジで言ってんの?どうかしてるよ?」

「マジで。いつもどうかしているのは奥山さん」

「ちょっと聞き捨てならない単語が混ざってたね」

「気のせいじゃないよ」

「……あかりちゃんが寒波だよ……」


「ていうかさ、観測史上6番目って。5番と7番よくわかんないし、観測史上6番目だとたぶんものすごい上位で表彰台ではないけど入賞レベルなわけだけど。やっぱ5番と7番との比較ができないから観測史上6番目とかその情報で何を思って判断したらいいわけ?」

「それは朝の天気予報に文句言ってくれる?」

「もうその情報源にどうこう言っても観測史上6番目って知ってしまったら手遅れだよ」

「私にはどうにも出来ませんからね、店内に防寒グッズありますって書いて外に置いてきて」

「なんでそんな寒いことさせるの?」

「奥山さんに出来る仕事を振るのが私の仕事なので」

「あかりちゃん、鬼畜」

「鬼畜じゃなくて奥山さんの上司」

あかりちゃんはバイトから正社員になっていた。

「正社員になったらこれだよ、時給から月給になったんだからもっと責任持ちなよ」

「責任持って仕事振ってるんだけど?」

「正社員がバイトをつかって寒い仕事から逃げてる!」

きいきいじたばたする奥山さんにあかりちゃんはため息をつきかけて止めた。ため息で解決する人ではないんだ。そろそろ本気で学習しよう。


「観測史上6番目ナメ過ぎだよね!」

朝から気温は横ばい、寒さから逃げるように店内に駆け込むお客さんから「あったかーい」なんて言葉が聞こえ、マフラーや手袋がよく売れた。

「観測史上6番目って言われてんだからさ、いってきますの段階でしっかり防寒しないってどうなの?」

「いや、その観測史上6番目をちょっとよくわかんない扱いしていたのは奥山さんでしょ?」

「わかんないよ?でもさ、たぶんすげー上位なんだって。それぐらい踏まえて出先でマフラー慌てて買うよりいってきますの段階で少し防寒すべきでしょ?違う?私が間違えてる?」

「奥山さんが間違えてるとかわかんないけど……ドアが開いて冷気が入ってくるのが嫌なんだろうなとはわかるし、オープンしている以上はドアは開くしそれで冷気が入ってくるのが嫌だとか言うのは間違いだとわかるよ?」

「社員になった途端に、いるだけ冷気が増し増しになるあかりちゃんの姿勢はある意味間違いではないんだろうね」

「冷気増し増しだと感じるならそうならないように働いてください、本当に働いてください、奥山さんの仕事っぷりが私の評価にも繋がるので。私のお給料まで冷気増し増しにしたくないの」

「あかりちゃん、別に全く何一つ上手いこと言ってないよ?」

「上手いこと言うつもりないからとにかく温風の下から離れなさい」

「あかりちゃんの冷気にあてられてしまうじゃない!」

奥山さん働いてくんねぇかなぁ、マジで。


「いやー、観測史上6番目様々だね!マフラーも手袋も定価でほとんど売れたよ!」

あかりちゃんは売上表を見ながらほくほく顔だ。

「え!?ほとんど売れたの!?」

奥山さんはびっくりしながら恐る恐るあかりちゃんに近づいた。あかりちゃんの冷気に怯えているのだ。

「そうだよ、春まで在庫抱えなくてよかったよね。あとは夕方また少し冷え込んだら完売出来るんじゃないかな?」

「困る!」

「は?なんで?」

「帰りにマフラーと手袋買って防寒するつもりだったのに!」

「……いや、それ……奥山さんが一番観測史上6番目ナメてるやつじゃん、いってきますの段階でしっかり防寒しないってどうなの?って、まんま奥山さんじゃん……」

「ここまで寒いと思わなかったんだもん!観測史上6番目情報とかあかりちゃんの寒波とか冷気とかでものすごく寒いんだもん!」

いやいやいやいや、もうそれ私一切関係ないんだけれど?あかりちゃんは思ったが、それよりやっぱり奥山さんに働いてほしいと思ったのだった。


奥山さんは寒がり。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 働きに出ず家にずっとぬくぬくいるなら、寒波なんて関係ないですね。 寒波に掛けて、働きに出ない主人公に冷たい目線、ですか。でも主人公には寒波と同じく、効果はないのでしょう。 [気になる点]…
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