第5話 乙女の願い2
※胸くそあり
「………戦乙女降臨」
そう呟くと視界の全体が中央の一点に収束していき一瞬だけ意識が途切れた。
ほんの一瞬の出来事だったので、気がついたら別の場所に立っていたのだが、後でグラムに聞いた話だと全身が光り輝き(それはそれは神々しい女神様のようでちた)目的の場所まで飛んで行ったそうだ。
そんなこんなで私は今絶賛リバース中である。
オロロロロぉ………オロロン。
そんな私の情け無い姿を一人の少女が見つめていた。
「あ…あのぅ、大丈夫ですか?」
うむ。苦しゅうない近うよれ。
「大丈夫ではなさそうですね………」
心配してくれた少女の手には錆びたナイフが握られていた。
とても可愛らしい顔とは対照的に赤毛の髪は黒く燻んでいて、手足には所々に青痣が見える。なるほど。―――私は察しが良い。
ナイフ一つで数多のモンスターを屠ってきたと思われる。さすが【歴戦の少女】と言ったところか
「いや、違うと思いまちゅよ……」
グラムが即座に否定する。
「あ、あのぅ……おねぇちゃんは誰?」
あたいは反射的に後ろを振り返る。
「いや、姉御のことだと思うでちよ。」
グラムが教えてくれる。
あたいかい?あたいは………え?あたいはあたい?
そういえばあたいは戦乙女だけど個人名とか持ち合わせてなかったわ…
あたいが必死になって思案しているとクスっと少女が笑っていた。
「おねぇちゃん、なんだか可笑しな人ね。」
少女は先ほどまでの思いつめた顔が嘘のようにクスクスと笑っていた。
「私の名前はアンナ。もしかしておねぇちゃんは死神さん?」
その少女もといアンナがあたいに尋ねた。
まあ、人の死目に立ち会って魂をヴァルヘルムに送っている訳だから死神って言うのもあながち間違ってないかもしれない。
あたいが否定しないのをアンナが察すると口角を少し上げて話を続けた。
「私、実は死ぬ勇気がなかったの。怖くて。だから迎えに来たんでしょう?」
少女の笑みは苦しいほどに儚げだった。
手にしているナイフは自害する為のものだったらしい。
「もう疲れちゃった。叔母さんに叩かれるのも叔父さんに尽くすのも………おねぇちゃんお願い。私を殺して。」
目に大粒の涙を含みながら私に懇願してくるアンナ。
やがて、堰きとめられたそれは一気に崩壊し、今までのことを見ず知らずのあたいに全てを曝け出した。
あたいはそれを聞いてどうしたらいいのか分からなくて、反射的にアンナの頭を撫でてしまった。
(グラム聞こえるかい?)
「なんでちゅか?姉御?」
(この世界では当たり前なのかい?)
年端もいかぬ子供が自決せざるおえなくなるこのクソッタレな世界のことだよ!!!
「はいでち。」
短く無機質に答えるグラム。