第1話 魔剣グラム
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ヘックチ!
「クッソ寒いッ!つーか視界が真っ白で何も見えねーッ!」
周りは猛烈に吹雪いていて、息も満足に出来ない、足場も岩の上に乗っかっていてとても不安定だ。
「誰が山頂なんかに転移させるかッ!あんニャロー!」
今はいないクソじじいだが猛烈にぶっ殺したくなってきた。―――しかし余りの寒さにそうも言ってられない。
「……ご!……あた……!?」
ん?何か聞こえたような……?
「……ご!あねご!あたちをつかってくだちぃ!」
何処からか幼女の声が聞こえてきた。
あー。幻聴が聞こえてくるということはアタイの命もこれまでなんだね。アッチに戻ったらあのクソじじいタダじゃおかねぇ………
「あねご!現実逃避しないでくだちぃ!」
また聞こえて来やがる………死を看取る戦乙女が幼女に看取られる幻聴とはねぇ。笑い話にもなりゃしねぇゼ………
「死んでないでちよ!あたちでしゅ!魔剣グラムでしゅ!」
手に持っているチェーンソーが急にブルブル震えだした。
「おわッ!チェーンソーが喋った!」
「話はあとでしゅ!目の前に向かって思いっきりあたちを振ってくだちい!」
「あぁ!?わ、分かった。なんかよくわからんがやってやんよ!」
かじかむ手でスターターロープを思いっきり引っ張る。ブゥォオンと一気にエンジンを吹かすと目の前の空間を切り裂く。
すると空間に裂け目が出来た。寒く無ければどこだって良い、迷い無くアタイはその中に入っていった。
―――ここは一体!?
裂け目の向こうは可愛らしい部屋が広がっていた。6畳ほどの部屋だろうか?部屋の家具が全てピンク色に統一されており、部屋の隅に設置されたベッドの上には不自然な大きさの熊のぬいぐるみがおいてある。それ以外は普通の女の子の部屋だ。
「ひとまずこれで安心でしゅ」
次元の裂け目が消え、身体が徐々に暖まっていくのを感じながら、アタイは声の主を探した。しかし、辺りを見渡せど人の姿は見当たらない。
そんな時、手元のチェーンソーが突如光りだした。
余りの眩しさに手を離してしまったがチェーンソーは落ちることなく正面まで移動して人の形をつくった。
やがて光が収まると、目の前に8歳くらいの小さな女の子が現れた。部屋に負けずピンク色の髪にピンク色のワンピースを着ている。
「改めてご挨拶しましゅ。あたちはあねごの剣。グラムでしゅ!」
ペコリとお辞儀をする幼女。
「か、可愛いッ!」
アタイは思わず幼女を抱きしめてしまいたくなってしまったが、中身は男。いくら今の身体が(硬派な?)美少女だとしてもyesロリータnoタッチの精神は忘れてはならない(戒め)
「あねご?どうちたのでちゅか?」
トテチテと幼女特有の歩法を用いてそばに来たかと思えばムギュッと抱きついて来た。ちょうどアタイの腰の位置に幼女の頭が来る。
そして顔を上げたかと思えばウルウルと瞳に涙を浮かべての上目遣い。
ようじょの※はかいこうせん!こうかはばつぐんだ!
※破戒。
おちつけ!おちつくんだオレ!……いやアタイ!
前世なら逮捕収監されただろうが、アタイは今世では女の子だ。倫理的にもOKに違いない。うん!
必死に頭の中で言い訳を見繕いながらも、幼女のスキンシップ攻撃は止まらない。「あねごいいにおいでしゅ!」とか言いながらヘソ下辺りに頭をワシャワシャと擦る幼女。
このまましばらく幼女を堪能して……ハッ!いかんいかん!
ふと我に返ったアタシは幼女の肩に手を添えると身体から優しく引き離した。
「アンタがあのチェーンソーなのかい?」
もしそうならあんな不潔じじいを切るために使ってしまったのが悔やまれる。
「気にしなくて良いでちよ!あたちは武器でちから!それにあのじじいはあたちも嫌いでしゅ!」
……………
プクーっと頬を膨らませるグラム。可愛い。
「あたちはじぶんの意思で攻撃できないでちから、使っていただいて嬉しかったでしゅ!」
性格は結構過激なんだな………
「そういやあ、ここは一体どこなんだい?」
なんかザ・女の子の部屋って感じで心なしか良い匂いがする。
「あたちの部屋でちよ。あねごに会うまでずっとここにいまちた。」
そういやあ、最初に手を取った時も次元の裂け目から出てきてたよな。まさか向こうはこんなファンシーな世界だったとはあの時は想像すらできなんだ。
グラムの部屋はどの世界にも干渉されず。時も止まったままだという。―――精○と時の部屋みたいだ。
「とても可愛らしい部屋じゃないか!でもなーずっとここに篭ってても仕方ないよな。一体どうしたもんかねー?」
ここなら寒さはしのげられるが、ずっとという訳にもいかない。あれこれ考えているとグラムがニコニコ笑いながら応えてくれた。
「心配無用でち!あねごには戦乙女魔法があるでち!」
マジキュリー?なんだそれ?
「ワルキューレの固有魔法でち!いちばん近い英雄の所に転移できましゅ!」
えっ!?それ初耳なんだが………
「クソじじいはお喋りでしゅが、肝心な事は言わないでしゅ!」
マジか!………アタイの殺意ゲージがフルを振り切って青天井になった。
「でも安心してくだちい!あたちがあねごのサポート役になりましゅ!分からない事はなんでも言ってくだちぃ!」
グラムは腰に手を当て胸を張った。―――とりあえず頭を撫でてみる。
「ん?なんでもって言ったか?」
アタイはお約束には忠実だ。
「はいでち!もちろん………下の方でも良いでちよ………」
グラムは頬を赤らめて両手の人差し指をくっつける仕草をした。可愛い。
「い、いや!それは流石にマズイ!これでもアタイは不触の誓い(破戒済み)を立てているから!」
今のアタイは硬派なスケバン。あのクソじじいではないがせめて外見通りの女になると決めている。
「あねごならあたちはいつでもいいでしゅからね!」
グラムは念を押すように言った。可愛い。
「ご、ごほん!と、とにかくだ!まずはその【マジキュリー】とやらの説明をアタイにしてくれないかい?」
これからやるべき事もそうだが、何より異世界を満喫には力が必要だ。まずは自分はこの身体で何が出来るのか確認する必要がある。そう思いグラムの教えを乞うた。
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