質問
「伊予これだけは忘れないで。生きる努力はしなさい。例え最後に死が待っていても」
いつの日の思い出であっただろうか。繊細で皮の薄さが伝わる程の手で、自分の冷え切った頬を包んで温めてくれた、懐かしい母と暮らしていた時の記憶。
それはいつも、何か大切なものを失う前夜に見る不思議な夢で、母の愛情の甘さの後にやってくる、ほろ苦さに溶かされて鼻から抜けてゆく。
そして、失うものはいつも自分が起きて目の前に映る存在である。
「ニーニ起きろ!」
ベットに上がって、勢いよく兄を蹴ってみたら思いの外、うまく布団ごと剥がれて転がって、す巻きになったところを見て、快感とテンションが上りドヤ顔をしながら笑みを見せて、話を切り出した。
「ニーニー大切な話があるから早くご飯にしよ」
「あ・・あ・・」
意識の代わりに夢が吹っ飛んで、唸り声をたてながら視界が徐々にはっきりして映ったものは、幅広く開いたカーテンの隙間からホコリが舞い込み輝く背景に、腰に手を当て足を開いて威厳漂い立つ妹の四季の姿であった。
まだ意識にまどろみが残っていたが、四季の髪型が昔の母の髪のゆい方だと気づき、少し安心した。
いつもなら頭に団子を作っているが今日は、肩甲骨あたりまである瑠璃紺色の髪を下ろして、右耳にかかるほどの髪の束が結われていた。
この髪型は母が親父と付き合っていた頃、周りからは地味で清楚にも見えるが、結っている方に人が立つと、とても可憐で偽り嘘のない自分をさらけ出される。
意味としては、君にだけ見せる和多志と言うものがあるらしく、母方の先祖代々それで男を射止めていきた。
ここまでの話をまとめると、今日失うのは四季でわあるが、まだ自分が会ったこともない男とデートということだ。
場所を食卓に移し、自分の正面で顔を赤らめて、束ねた髪を指で何度も巻き付けてアピールをしてきてるが、ネタがバレてるため四季がやってる行動に、ためらいもなく無駄感があったから、ネタバラシを急かすことにした。
「そんなに彼氏を自慢したいならはっきり言え」
「げ、何故バレた」
「そりゃ~髪型が母さんが親父とつきやってたときの髪型だからな」
「覚えてたんだ・・」
わざと声を出し目を丸くして驚いてみたが、正直なところ兄が見たものを鮮明に覚えられる能力があるから、髪型に気づけるのは当然のことだとはわかっていたから、驚きは薄かった。
それよりも、最初に結果論持ってくんなという、イラつきの方が感情的には勝っていた。
そんなことより、どうやってこの兄をシューに会わせるかが重要である。
「ゴホン。そこまでわかっているんだったら私が言うことわかるでしょ」
「のろけ話なら、聞かんからな」
「違う。そんな話じゃなくてニーニー会わせたいの!」
「めんどくさ」
余裕があったのか少し人差し指の関節を立てて、拳を作り咳払いをして質問してきたから、パッと考えついたのが自慢という名ののろけ話だろうと思ったから、すぐさま吐き出してみれば、返ってきた答えが(熱心に直接自慢させろ)的な発言となれば、あざとさしか感じられなかったから、呆れて嫌味のように言葉を漏らした。




