1 森の広場
逆さ虹の森は昏く、暗く。、くらく。年々そこで暮らす動物たちはお互いの動物を見ることがすくなくなっていました。動物たちが減っているのです。
今ではこの森に住んでいる動物たちはみんなか馴染みで数えるばかりです。
とある夜更け。
森の広場の樫の木の枝には歌上手なコマドリがとまってご機嫌に8ビートで歌っています。
「♪、いーつも、いーつも、聞こえるよポポポポチャン、、、、♪♪。ドングリ池の近くでポポポポポチャン、そして悲しそうな、ため息と、ポポポポチャン、、、、♪♪」
「止めてよ、そんな怖い歌は」
怖がりのクマが大木に隠しきれない体を隠しながら言いました。
コマドリの歌は続きます。
「♪、いーつも、いーつも、聞こえるよ、ポポポポポチャン、、、、それは涙のおーとか、いーけの水音か、ポポポポポチャン」
食いしん坊のヘビはいつも無表情です。そして今も無表情でコマドリの歌を聴いています。
「うわぁーーーー」
怖がりのクマが大きな悲鳴をあげました。
いたずら好きのリスがクマの後ろ足を小さな小枝でくすぐったのです。
みんな驚いてコマドリまで歌うのを止めてしまいましたが、食いしん坊のヘビは無表情です。
いたずら好きのリスはそんなクマを見てクスクスクス。
「おい、駄目だろう!」
暴れん坊のアライグマが強烈な右フックでリスを打とうしますが、いたずら好きのリスはヒラリと避けて樫の木の枝の上へスルスル。
「まぁ、まぁ、まぁいいじゃん」
お人好しのキツネは気にせず、間を取り持ちます。食いしん坊のヘビはずっと無表情のままです。時折青い舌をピリピリって出すだけです。誰もその行為の意味がわかりません。
ヘビが大きな椰子の実を丸呑みして体の形が変わっても無表情のまま幾日か経ち元の姿に戻っていました。元に戻っても無表情のままです。
「ドングリ池ってドングリを投げて願い事をしたら叶うところだろう?」
クマが言います。
「へん、馬鹿らしい、そんなのも叶うもんか」
暴れん坊のアライグマはそういったことは信じません。アライグマの顔中には傷跡と拳には拳闘だこがたくさんあります。北極グマとクジラを倒しその肝を喰らったとよく言っていますが、誰も信じていません。暴れん坊で実直な人は居ないので、こういうときかなり損です。みんな知っていることですが、この逆さ虹の森には氷山はなく、海もありません。
「行ってみよっか」
あまり細かいことに気にしないお人好しのキツネが言い出しました。動物たちの毛ぐらい細い細い目はいつも笑っています。怒ることはあんまりありません。
「いいねぇ、俺が行って確かめてやるぅ」
暴れん坊のアライグマは首をくねくね、足をぶらぶら、もう指をパキポキいわせています。もうみんななんとなく知っていることですが、アライグマは早死にしそうです。
「えー」
クマは一番にして最大の懸念を表しましたが、とおりそうにありませんでした。
「♪みみみみ、みんなで、みみみみ、みんなで行ってみよう、イェイイェイ。みみみみみんなで、みみみみ、みんなでイェイイェイ♪」
歌上手なコマドリが新曲を発表しました。キーはBシャープのメジャーでテンポは16ビートです。コード進行はルート音から4度5度でルート音に戻るというとても簡単な曲です。逆さ虹の森チャートでの赤丸急上昇を狙っていますが、概ねいつでも聞ける曲なので誰もあまり気にしません。どこ世界でも同じですがこの森でもヒット曲はだいたいすぐあきられます。
動物たちは基本、動物なのであんまり深く考えません。その場の流れにいとも簡単に準じます。
コマドリがシャカシャカ16ビートリズムを刻みながら羽ばたき飛んで、全員月の明かりを頼りに広葉樹の森をドングリ池目指して歩いていきます。
もちろんヘビは無表情のままニョロニョロ這っていきます。いつものことなので逆にみんな安心です。