近所のお姉さんなんていません
俺は家を出て自宅を振り仰ぐ。
見慣れた俺の住んでいる家だった。
周りを見回すも、見知った閑散とした住宅街。なんらおかしなところはない。
違うのは……
「遅いのだ! もう、次の電車に間に合わないだろうが!」
「……。」
目の前で俺をわーわー怒りつける、俺の幼なじみだと名乗る制服に着られた茶金髪のおさげロリ少女。
「おはよう。ひとりくん」
「ワン!」
「……だれ?」
そして犬を連れクマ少女の隣にいる、俺の名前を呼ぶ背の高い若い女性。
背の割に童顔で縁なしの四角い眼鏡をかけ、片側サイドを結び上げている桃色髪のお姉さん。
「ひっどーい。私は近所でも有名な美人なお姉さんよ。忘れちゃったの?」
口を尖らせて不満げに言う。
いやマジでだれ?
このごま粒娘もそうだけど。
記憶になさすぎて、頭がおかしくなりそうだ。
そもそも、ここは本当に俺の知ってる世界なのか?
どう考えてもおかしいだろう。俺の知ってる昨日までの日常とはまるで違う。
しかも母親すら違うなんてことがあり得るだろうか。
あり得ないこんなの認められない。
「いや知りませんけど。」
「ふぇぇ、なんでぇぇ?」
「こいつは今朝から様子がおかしいんだ。きっとどこかおかしなところをぶつけたんだろう」
「はぁ? 俺はおかしくない! てゆーか、お前も俺の幼なじみなんて認めてないからな!」
「どーいうことなのだ! 私とお前は幼稚園の頃からの幼なじみで、ヒロインなのだ!」
「だから、ヒロインヒロインって、痛々しいんだよ! どこのアニメですか! 京アニですかシャフトですか!」
「むうー!! せっかく待っててやったのに……もう知らないのだ!」
ロリ少女は顔を真っ赤にして目に涙をためて俺に背を向けて歩いていってしまった。
「あーあー! おーこらせたーおこらせたー。先生に言っちゃおーかしらー」
「そうですか。言いたければ言って下さいよ。別に俺は悪いと思ってませんから。それに貴方、俺の先生知らないでしょう」
「へえー。それ、本当に言ってるのかしら?」
言って、これ見よがしに携帯を見せびらかす近所のお姉さん(仮)。
「ええ。いくらでも言って構いませんよ」
「ひとり君、君、本当にどこかおかしなところをぶつけたみたいね。大丈夫? 病院行く?」
俺が精神異常者か何かのように本気で心配される。
俺は近所のお姉さんの言動に苛立ちが隠せなくなっていた。
「おかしくありませんよ。」
「だって今日の君、とても変よ」
「おかしくありませんって!」
「ちょっと、何よその言い方は。お姉さんに向かって。心配してあげてるんでしょう」
「だからその上から目線な言い方をやめてください」
「あーわかった。反抗期なのね? だからあんなに甘えてたお姉さんに、こんな口を聞いて……」
「うるさい! もう俺のことは放っておいてください!!」
俺は頭がパンクしそうになり、一刻も早くこのお姉さんから離れたかった。
そして気付けば、俺は近所のお姉さんに悪態をついて走り出していた。
「ちょっと!」
走り出してから、俺はやってしまったと思ったがもう遅い。
これだからコミュ障は。俺は人の優しさを踏みにじった自分に対して腹を立てた。