ぼっちだけど現実を受け入れます
秋は涼しくもあり悲しくもあるそんな僕の人生と同じ季節。
by 田多野一人
俺の名前はぼっち。またの名をのりぴー。のりぴーとはただ『の』ひと『り』に愛称『ぴー』がついてのりぴー。幼稚園の頃まだ友達がいた時代に付けてくれたあだ名だ。
ちなみにぼっちもあだ名だ。本当の名前は田多野一人。名前の通り、ただのひとりだからぼっち。ひとりぼっち。俺はぼっち。誰がつけたのか知らないが気付けば俺のあだ名はぼっちになっていた。
悲しいかな俺は幼稚園児の頃はそれはもう人気者だった。「のりぴーのりぴー」なんて右に呼ばれて左に呼ばれててんやわんやの引っ張りだこだったさ。それが今はどうだ。成績は普通、運動も普通、おまけに顔はブサイク。こんな俺が小学校中学校で人気者になれると思うか? 思わないだろう。そう、無理だ。俺は人気者どころか光の影。教室の隅にいるような存在だ。
サッカー少年やバスケ少年がクラスを明るく照らし、成績優秀者がクラスの尊敬の的となり、イケメンが女子にモテモテだ。
俺のどこに人気者になる余地があるというのか。いや1つだけある。それは笑いものにされることだ。高校生となったブサイクな俺に残された道は笑いを取ることだけだった。
だが俺はそんなことしたくない。ブヒブヒ言いながら床に這いつくばってモップを舐めるようなマネだけは断じて御免だ。
今の楽しみと言えばアニメとパソコン、あとはせいぜいゲームくらい。どうして俺はこんなオタク趣味に走ってしまったのか。全て容姿のせいだ。容姿さえ良ければ成績が普通だろうと運動神経が普通だろうと、楽しい人生が送れたはずだなのにどうして俺の人生ぼっちモードになった。いや、そもそも根本的に名前が悪い。なにが一人だ。母さんは俺を一人にさせたくてこんな名前を付けたのか?
ただのひとりって、救いようがないじゃねえか。
……。
まあ俺だってこうなりたくてこうなったわけじゃない。日々の俺が積み重なり今の俺があるわけで何かを否定したいわけじゃない。あぁ俺の人生はこうなのだなというだけだ。
俺がひとりぼっちだろうがクラスに居場所がなかろうが世界は回っていくわけで、俺の人生が秋のようにうら寂しく過ぎていくというだけだ。
例年通りの暑さとはいかない今年の8月も、残すはラスト1日。蝉も鳴いていないような、むしろ肌寒く長袖のパジャマを着なければ風邪を引いてしまいそうな夏休み最後の1日。今日が過ぎれば、行きたくない高校にも通わなければならない。ぼくなつのように永遠の32日が来れば良いのにと願わずにはいられない。
俺は一人、来たる明日に備えて、長袖のパジャマに着替え、布団を被っていた。
時刻は午後の10時を回ったところ。後1時間もすれば日付は9月に変わる。
高校生活初の二学期。またあの窮屈な電車に乗り、周りからじろじろと見られながら登校する日々が始まるのか。
そう思うと、涙が出てくる。
授業以外の時間が全て苦痛だった、学校での生活。一人の辛さが蘇る。頼る人もなく、時間を潰す友達もいない。
ブサイクでコミュ障であるがゆえ、誰も寄ってこない。ただ遠目に苦笑されるだけの存在。
ただのひとり。まさにただのひとりである俺の為に与えられような名前である。
考えていても仕方がない。
寝よう。
そう思い、現実を無理矢理受け入れるようにして、俺は悲しみに暮れる重い目蓋を閉じた。