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このサイレンと共に
なんだ? なぜ、僕は泣いているんだ? なぜ、なんだ? 泣く「理由」があったか?
ああ、そうか。みんなの背中を見ているから、か。
ありがとう。僕をここに連れてきてくれて。
皆には見えないけれど、それでも頬に伝わる涙を見られたくないと思いながら、背中を押すように僕は声をかける。僕らしからぬ言葉で。
「あと…あと、一つだ。みんな、夢を掴みにいってこい!」
もちろん、僕の声は「全員」には届かない。
でも、唯ちゃんはその声を聞いて涙をこらえながら笑うし、うえっちは右手の親指を立てたこぶしをベンチから見えるように肩口に持ってきてサインを送る。
夏の地方球場に決勝戦のサイレンが鳴り響き、我が守川高校ナインはグランドに走り散っていく。
さあ、甲子園はもうすぐそこだ。