その06、魔法使い参上
その06、
「こいつはバレンシア。魔法使いだ。ゴーレムを使う」
使い魔はその小さな指を黒いフードに突きつける。
「その小悪魔はシャグマ。異世界の魔女の使い魔、らしいわ」
同じようにフードは使い魔を指し、笑みを含んだ声で言った。
「あの……」
「私が誰で、何でここに来て、どういう用件があるのか」
ゴローが何か言おうとする前に、早口でフードは語る。
「それが気になのもわかるけど、今はそれどころではないのでは?」
言われて、ゴローは気づく。
森の奥にいる盗賊たちが早足で動き始めていることに。
「あの連中が始末できるか。つまり、殺せるかということだけど」
「それは……」
自分は難しい、とゴローは返答に窮した。
「では、殺さずにうまく始末をつける考えは?」
これにも返答できない。
「適当に脅すか何かして追っ払うとか……」
「悪くないアイデアね。うまくいけばだけど」
「あ」
話しているうちに、警護に回られた土ゴーレムの一体が――
「何だ、これ……!」
「土のバケモノだ……」
盗賊たちの焦った声や表情が脳裏に飛び込んでくる。
「う……」
とにかく、他のゴーレムも応援に呼ばねば。
指令を送っているうちに、盗賊たちに動きがあった。
盗賊の中でも体格の良い者が手斧を振り上げている。
「あわてるな、ただの土人形だ」
バコン、と土ゴーレムの頭部に斧が突き立ってしまう。
無反応のゴーレムはただそこに立っているだけ。
「やばっ」
これに驚いたゴローは思わずゴーレムに反撃をさせた。
土の大きな手が盗賊に張り手を食らわせる。
「ぎゃっ……!」
盗賊はうめき声を上げてひっくり返った。
この反撃に盗賊たちに恐怖の色が浮かぶ。
「……このヤロウ!」
おびえた表情になって、盗賊たちは刃を振り上げてゴーレムに飛びかかる。
ゴーレムは土の塊だから刃を突き立てられても堪えない。
しかし、中には棍棒をもった奴もいて、これが効いた。
横から一撃を食らって、片腕がもげてしまう。
刃物は無駄と理解したのか、男たちは獣のような形相になり、ゴーレムを殴る蹴る。
盗賊たちの顔が迫ってくる感覚が脳裏に走り、ゴローは思わず吐きそうになった。
黄色い歯の不潔な顔が迫ってくるというのは不快極まる。
やっているうちに興奮状態になってきたためか、盗賊たちは狂乱状態になってゴーレムへの攻撃を繰り返し続けた。
客観的に見れば、それは体力を消耗させるだけの無為な行動だったが。
「あっ!」
バカバカしい土人形への暴行は、不意に止んだ。
盗賊たちの周辺に、いつの間にか人影ができていたせいである。
土ゴーレムがボコボコにされている間、他のゴーレムたちが集まってきたのだ。
集まったゴーレムは土製の他に岩石製のものもいる。
岩石が相手では棍棒もあまり意味をなすまい。
「な、何なんだコレは……!」
盗賊たちは肩で息をしながら、真っ青になった。
「何で、こんなもんがぞろぞろ出てくるんだよ!」
「冗談じゃねえ……!」
もはや、盗賊は完全に逃げ腰になり出している。
元がただの農民らしいからあんまり度胸も据わってないのか。
「びびるな、こんなもんコケオドシだ!」
一人が口から泡を漏らしながらゴーレムを蹴る。
しかし、蹴ったのが岩石製のゴーレムであったのがまずい。
ぐらり。
どうしたはずみか、衝撃でバランスを崩したゴーレムが、揺れた。
「あ」
気が動転していたゴローもゴーレムの操作がおろそかになっている。
ゴーレムが傾き、蹴った男に向かって倒れかかった。
「うわ!」
「どうしたの?」
「……」
まあ、たちの悪い偶然だったというべきか。
あるいは自業自得とでもすべきなのだろうか。
盗賊は倒れたゴーレムの下敷きになった。
そのまま、うんとすんとも言わない。即死だ。
「……死んじゃった」
「殺したの?」
思うわずつぶやくゴローに、フードが尋ねかけた。
「いや……」
とんだ事態にゴローはどうしていいかわからず、首を振るのが精一杯だった。
「死んじまった……」
「ど、どうすりゃいい」
「どうするって……」
一方でマヌケな事故で仲間を失った盗賊たちもあわてている。
お互いにオロオロと顔を見合わせた後、唐突に――
「やるっきゃねえ!」
いきなり一人が叫び、山刀を手に走り出した。
その方向には、ゴローたちの村がある。
「そうだ!」
「もうやるしかねえ……!」
盗賊たちはわけのわからないことを叫びながら、どんどん走り出していく。
「何だよ、これ……」
その祭りにも似た狂騒に、ゴローは呆然としてゴーレムを操ることも忘れてしまう。
「何が起こってるの?」
「あいつら、ここに来る……」
フードの問いにゴローは顔を青くして答えた。
今さらながら、殺意・害意を持った連中が迫っていることを自覚したのだ。
それまではゴーレム越しで、どこか非現実的で、他人事だったかもしれない。
「仲間が死んでプッツンしたか。なるほど」
事情を飲み込んだらしい使い魔シャグマはウシャシャ、と笑う。
それで、どうする? と、静かだが厳しい声でフードが言うのだった。