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その05、使い魔現る

 その05、




(何だ、こいつは――)


 ゴローは目を見張った。


 小悪魔。

 そう表現するのがぴったりの存在が目の前にいる。


 背にはコウモリのような赤黒い翼。銀色の髪に黒い眼、赤い瞳。とがった耳。

 頭には小さな角。臀部でんぶにはえる尻尾にはやじり型の突起がついている。


「ウシャシャ、驚いて声もでないかいボンクラ」 


 そいつは毒舌を吐きながら、音もなくゴローの周辺を飛び回った。


「ななな……」


「うるせいな。お前は猫か」


 ボワンと音がして、その小さなモノはゴローよりも大きくなる。

 そうなってわかったことだが、見た目は十四、五ぐらいの少女だった。


 さらに、その赤い瞳は猫のような縦長の形状をしている。


「あ、おんなじだ……」


 ゴローこと山田氏を転生させた、あの魔女とそっくりなのである。


「ふん。気づいたかい」


 言って、小悪魔は手の平に乗りそうなミニサイズに戻る。


「ひょっとして、お前はあの魔法少女の……」


 魔女という表現がちょっとはばかられたので、そんな風にゴローは言う。


「うちはあのかたの使い魔、インペットである」


 可愛い小悪魔は胸をそらして自慢げに言ったのだった。


「ぺっと……?」


「インペット! インプとも言うかな」


 小悪魔は声を荒げて訂正する。


「うちらはあのかたの魔力から分離させて生み出された存在だ。それゆえあのかたの目や耳を代理することもあるのだ」


「つまり、あんたの見聞きするものがあの……人にも伝わると」


「左様さ。ま、お前が操るゴーレムと近い感じでもあろうかな」


「なるほど……」


 わかりやすい、とゴローはうなずく。


「それで、その使い魔さんが一体何でいきなり突然……」


「別に今になって突然出てきたわけではないぞ」


 と、ゴローの言葉を否定する使い魔。


「うちは今までずっとおまえの近くにいたのだ。ただ、特にイベントも起きないし必要もないので顔を見せなかっただけだ」


「……てことは、今必要になったと?」


「そうだ。お前も気づいているだろうが、もうすぐこの村を盗賊どもが襲うぞ」


「やっぱり」


 ゴローはうなずき、ゴーレムたちの周辺を確認する。

 さっき作った土ゴーレムはまだ接触していないが、監視に使っているミニゴーレム周辺では胡散臭い連中が数を増しているのだった。


「一体何であんなのが寄ってきたんだろ。盗賊なんか話でしか聞いたことなかったのに」


「そりゃお前のせいだろ。ゴーレムのおかげで暮らしが豊かになったので、噂を聞いた連中がハエみたいに集まってきたんだ」


「あああ……」


 納得するゴローだが、はいそうですかと受け入られる事態ではない。


「何とかせんと……。しかし、どうしたもんか」


「簡単だよ」


 小悪魔は笑う。


「さっさとゴーレムたちにあいつらを始末させろ」


「始末って……」


「殺せってことさ」


「そんなバカな!」


 あまりな意見に、ゴローは思わず叫ぶ。

 いきなり殺人を要求されるなど冗談ではなかった。


 この世界で数年生きてきたが、日本よりも命は軽いが、それでも殺人は罪だ。それをすすめるなど非常識である。


「しかし、奴らは食い詰めてヤケクソにもなっているしな。ほっとくと何をするかわからん。ああいうのはなまじやり慣れていないから、やることも無茶だぞ」


「う……む」


 確かに貧困者が強盗になることもよくある話だった。

 しかし、それでもじゃあ殺して良いというわけでもない。


「そういうことは官憲に……」


 言いかけてゴローは虚しく口を閉じた。

 確かにそのような職種というか役割を持った人間はいるが、現代日本ではない。


 土地をおさめる領主も、そのへんはかなり雑に扱っている。


「褒められはせんが、それで咎められもせんぞ。正当防衛だ」


「うむむ……」


 確かに役人がやってきても、そんなところで片づけてしまうだろう。


「ついでに。あいつらはよその土地から流れてきた連中だぞ。そんな流民が悪さをして始末をされた――そんなもんじゃないか」


「ぐむむ……」


 やっぱりこいつは悪魔らしい、ゴローはうなる。

 何しろ色んな理屈をつけて殺人を推奨してくるのだから。


「場合によってはお前の家族も殺されるぞ」


「……む」


「あの手の連中は尻に火がついているからな。犯す殺すは当たり前だぞ」


 そう言われても、ゴローには決断ができない。


 前世では哀れな失業者であったし、現世でも単なる貧農の子供だ。

 別に戦士として育ったわけでも、殺人をするほど荒んだ環境だったわけでもない。


「まだうなってるだけか、ヘタレめ!」


 小さな使い魔は決断できないゴローを侮蔑の眼で見る。


「まあせいぜい下手を打って後悔しくされ」


「――やらずに後悔するより、やって後悔すると言うしね?」


 いきなり、どこからか見知らぬ澄んだ声が聞こえた。


 ハッとなるゴロー。使い魔も同じような表情だ。


「忘れていたぞ。魔法使い」


 使い魔は黒い翼をパタパタさせながら、ぐるりと首を動かした。

 夕闇の中に、同じく闇に溶けそう黒い装束の者が立っている。


 フードを目深にかぶっており、顔は見えない。

 しかし、さっきの声からすると女性であるらしかった。


「まだ十にもならぬ身で、人を殺める決断とは。大人でも難しいのに」


 フードは穏やかな声音で言いながら、ゆっくりと近づいてくる。


「う……」


 妙な気配にぞくりと震え、ゴローはいつの間にか足元の土でゴーレムを作っていた。


「ほう、見事な。師匠もなくこれだけのことを簡単にやってのけるとは……」


「その手の才能だけは保証する。うちのご主人様からの授かりものさ」


 驚くフードに、使い魔が偉そうな態度で言う。

 こいつら、知り合いか――と、ゴローは両者の顔を交互に見るのだった。





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