その03、魔法炸裂、初チート!
その03、
「ナンダ、コレは……」
地面から出現した人型の土塊を見て、魂だけのゴローは目を丸くした。
首のない、とりあえず頭部らしきものを持った人型は、ただそこに立っている。
――ゴーレム。
頭のどこかで答えが浮かび上がった。
「……歩け」
どうやら自分が出現させたらしい人型に、とりあえ命令を出す。
すぐに土人形はピョコピョコと動き始めた。
改めて見ると、その大きさは標準的な成人男性程度。目鼻というか顔はない。
「……畑を耕せ」
ふと思いついて、次の命令を発する。
土人形は屈みこみ、土の手で地面を掘り返し始めた。
「ひょっとして、これ使える?」
しばらくゴーレムの労働を見ていたゴローはつぶやく。
今直面している問題に、こいつは大きく貢献してくれるのではないか。
「それにしてもこれは何だろう……」
自分がいきなり使えてしまった魔法のような力は。
ゴローは魂の状態で首をひねって考え込んだ。
――他の物体や生物に魔力を付与し、ゴーレムや使い魔を生み出す魔法。
その途端に頭に浮かぶ答え。
「うううむ……」
もしやするとこれは、あの銀髪に赤い瞳をした少女の仕業ではないか。
そうゴローは思う。
――魔女の女王の得意とする魔法の一つ。
またも答えはすぐに浮かんだ。
何だか、インターネットで検索したような感触だ。
(あいつは魔女だったのか……。しかも女王って……)
彼がまだ山田氏であった頃、突然移動してしまった白い空間。
そこにいた奇妙な少女の突き出した紙。
『急募! 異世界転生してチートするだけの簡単なお仕事です』
あの文章通り、山田氏は異世界でゴローとして生まれ変わった。
どういうわけか名前は転生前と同じで、今の環境では珍名である。
「すると俺はこの五年、まじめに仕事をしていたわけか……」
そんなことをつぶやき、ゴローは何故かひどく虚しい気分になる。
ゴローは嫌な気分を払拭すべく、首を振って再び土ゴーレムを見た。
観察してみるとこのゴーレム、あんまり器用には耕せないようだ。
「やっぱり素手だからなあ」
どうせなら鍬でやったほうが効率的か、と考え、家の鍬を取りに行かせようとする。
「いや、待て」
もしかすると両親が起きてくるかもしれない。
それに、思いつくこともあったのだ。
「よっ……」
ゴローはさっきゴーレムを作った時の感覚を思い出しながら、再度魔法を使った。
――道具生成魔法。
再び脳裏を走る情報の波。
それが通り過ぎると、下には歯も柄も鉄製の鍬が完成している。
土と鉄という素材の違いか、鉄製の道具を作ると疲労感のようなものがあった。
どうやら土から何かを作るのでも、ものによって力の消費量が違うらしい。
「そうなると鉄製のゴーレムなんてのはやめたほうがよさそうだなあ……」
――魔法のレベルアップ過程。
流れる情報によると、魔力は筋肉と同じで使えば使うだけレベルアップするようだ。
ただし限界量の魔法を使うと、ゴーレムを操ることもできなくなる。
「ちょっとずつ鍛えていけばいいわけか――」
そのうちにゴーレムも複数操れるようになる、と情報にはある。
しかし今はこの畑を耕すことに集中しよう。
やがて。
ゴーレムによって耕作が完成した後も夜明けにはまだ時間があった。
「こいつはおきっぱなしにはできんから……戻すか」
ゴローは鉄の鍬と家屋の壁に立てかけると、ゴーレムを土に戻した。
それから部屋まで戻って、肉体に入る。
目を開けると、ずしりとした疲労感で瞼が重くなった。
疲れ果てるというほどではないが、慣れないことをしたという感覚。
(何事も初めては疲れるもんなんだな……)
そう思いながら、ゴローはゆっくりと眼を閉じたのだった。
かくして、翌日――
いつの間にか耕された畑と、見覚えのない鉄鍬に両親は目を丸くする。
後で鍬を持って村中に聞いて回ったそうだが、当然ながら持ち主は出ない。
それから、毎晩のようにゴローはゴーレムを操って色んな仕事をこなした。
後でわかったことだが、ゴーレムはその場でいちいち作ったり壊したりとするよりも、一度作ったものをどこかに隠しておくほうが良いとわかる。
言うなれば作り置きしておくほうが、余計な魔力を使わずにすむのだ。
さらにはゴーレムの材質。
土で構成されたゴーレムは魔力消費も低いが、パワーも劣る。
試した結果一番良いのは、岩石のゴーレムに鉄製の道具を持たせるというもの。
石は土についで消費が低いし、パワーも申し分ない。
試しに一度鉄製のゴーレムを作ってみたが、やたら魔力を使うのでよろしくない。
鉄のゴーレムを一体作るより、石のゴーレムを十体使うほうが効率が良いのである。
作ったゴーレムは近くの谷間に待機させておき、夜になると呼び寄せた。
もとが岩石なので、変形させて岩場にしゃがませておくとほとんどわからないのだ。
谷間はあまり動物もおらず植物もさしてはえていない。
なので村の住民はあまり近寄らないのである。
ゴローがゴーレムを働かせるようになってから、余計にそうなった。
毎晩やってくる石人間は谷間から来る……そんな話題と共に。
中には物好きもいて谷間に行くやつも出てきたりしたが、動かないゴーレムはただの岩。
あれこれうろつき回って、結局無駄足だとぼやいて帰ってくるだけだった。
そしてあっと言う間に一年がたち、ゴロー六歳の時。
村は以前よりも豊かにはなっていた。
何しろ毎晩疲れ知らずで働く石人間がたくさんいるわけだから。
ゴローは最初自分のうちの仕事だけだけやっていたが、だんだんと魔法に慣れてゴーレムの操作も巧みになり、ついには複数同時に動かせるようになると――
「こりゃ面白いわ」
かえって気分が良くなって村中の仕事をさせるようになった。
最初村はパニックになった。
毎晩変なものがやってきて、黙々と働き黙々と帰っていくのだから。
だが、悪いことをするわけでもなし、この村を出ていったところで行くあてもない。
なので村人はおっかなびっくりでゴーレムの動向を見守るだけだった。
けれども、案外図太いもので毎晩やってくるゴーレムにも慣れ出して、ついにはその夜して欲しい仕事を用意して寝るようになっていく……。