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その18、街での第2ミッション

 その18、




「ゴローくんの先生に連絡を取ってみましょうかねえ?」


 唐突なティタニアの提案に、全員の視線が集中した。


「へ?」


「いえ。ですから、ゴローくんのお師匠であるバレンシアさんに連絡を取ってみましょうかと言っているのですよ。お師匠の許可があればしばらく残っても大丈夫でしょう?」


 ティタニアは手を広げながら、にこやかに言ったものである。


「そりゃまあ、そうですけど……」


 連絡って、どう取るんだよ――とゴローは内心突っ込む。

 まさか電話やインターネットがあるわけではないだろう。


「こいつが残って良くても、あたしは明日には出発だぞ?」


「そうそう。自分だけ残ってもしょうがないでしょう?」


 メドゥチに続き、ゴローが発言する。


 ゴローはゴーレムを操れるだけで、魔法使いとしての技術も知識も未熟そのもの。

 素人同然と言ってもよい。


 まして、メドゥチのような水系魔法は完全に門外漢なのだ。


「あんた、何かできるわけ。魔法使いの卵なんだから何かあるでしょ。鼻からウンチ出すとか」


 それが何の役に立つんだと言いたくなるような例えを出すソムニウム。

 冗談を言っているのか、本気で言っているのかよくわからない。


 多分適当なことを言っているのだろうが。


「ゴーレムを使えます」


「ほお! ゴーレム、便利だね。あれは便利。一家に一台欲しい代物ですよ。必需品」


 ソムニウムはパンと手を打って、それから軽くゴローをはたいた。


「なにすんですか!」


「工事に使うくらいだから、けっこういけてるんでしょ。能ある鷹は爪を隠すんでしょ?」


 と、またも意味不明なことを言い、メドゥチを見るソムニウム。


「まあ、年を考えるとかなりのもんだと思うけどよ……」


 工事を思い出しているのか、腕組みをしてうなずくメドゥチ。


「よし決まった。これを借りますよ。レンタルです。ゴーレム万歳、人形愛ですよ」


「お待ちを。まだ確認をとっていませんので」


 いきなりゴローの腕をつかもうとするソムニウムを制するティタニア。


「じゃあ、早くしてくださいよ。こちとら気が急いて、興奮してるんですよ。フンガー」


「せっかちなかたですねえ」


 やれやれと首を振りながらティタニアが取り出したもの。


 それは、一羽の小鳥だった。

 青い色に輝く、夢のように美しい鳥である。


 何となく幸運を呼び込みそうな、気が付いたら家にいそうな雰囲気の小鳥。


「この子を使います」


「伝書バトみたいなものですか?」


「ハトではないですけれどねえ」


 ゴローの質問に、ティタニアは微笑んだ。


 が、その小鳥を見るうちにゴローは奇妙な違和感をおぼえた。

 何か魔力の流れらしきものをうっすらと感じるような。


「あのティタニアさん、それって……」


「気がつかれましたか」


 ティタニアはそっと手に乗せた小鳥をゴローのほうに差し出した。


 瞬間、小鳥は宙をはばたいてゴローの肩にとまる。


「これは……」


 身近で観察をして、ゴローはようやく気付く。


 この小鳥は、いつかバレンシアが乗っていた馬と同じだ。

 すなわち、精巧につくられたゴーレムの類なのである。


 触った感触も温度も、本当に生き物のようだ。だが、未熟ながらゴーレム使いとして学んでいるゴローには、その微妙な差異がわかった。


「それに手紙でも運ばせるってわけか」


 メドゥチがゴローにとまる小鳥をつつきながら言った。


「ええ。この子なら、往復で半日もかかりませんよ」



 と、まあ。

 こういうような運びとなったのである。



 青い小鳥はすぐにティタニアの書いた手紙を持って空に舞い上がっていった。

 帰ってきたのは夕暮れ前である。


 小鳥の持ち帰ったものは二通あり、一つはティタニア、一つはゴロー宛だった。


「どうやらソムニウムさんのお手伝いに行けるようですねえ」


 手紙を読んだティタニアは妙な目つきで言うのを見ながら、ゴローも手紙の封を切る。


『メドゥチの手伝いごくろうさま。ついでだからもっとゴーレムを操る訓練をしてきなさい』


 手紙の内容はこんな感じだった。

 間違いなくバレンシアの文字であり、彼女の魔力もほんのり感じる。


 何とも言い難い気持ちでいると、横から鼻息がふーとかかった。

 ギョッとしてゴローが飛びのくと、


「何かの暗号じゃなきゃ、師匠は良いと言ってるみたいだな」


 メドゥチがその額を撫でながら笑っていた。


「街でゴーレムの操縦訓練をしてこい、だそうです……」


「やっぱり書いてあるまんまか。しかし適当だな、おい。かわいい弟子をさ」


「幼児ですが、中身はオッサンですからね」


「人間年とりゃ成長できるもんでもないさ。ていうか、その話マジなのか、やっぱ」


 面白いものでも見るようにメドゥチはゴローの顔を見つめる。


「そうですねえ……。まあ多分マジでしょう」


「まあ、妄想か本当か、調べようもねえしな。どうでもいいことだし」


 メドゥチはそう言って、軽くゴローの鼻をつまんだ。


「けど、もしお前の話が本当なら闇のエルフの住む天空の国っていうのも本当かもな」


 闇のエルフ。ダークエルフ。


 ゴローの脳裏には、ピチピチのレザーを着た褐色の肌に銀髪の美女が浮かんだ。


「その闇のエルフってなんですか。フツーのエルフとどう違うんです?」


 ゴローが尋ねるとメドゥチはふむ、と顎を撫でて沈思するのだった。

 ややあってから、青髪の美女は顔を上げて天井を見上げる。


「まあこりゃ伝聞というか、おとぎ話だが――」


 メドゥチはやや芝居がかった仕草で髪をかき上げ、目を細めた。


「魔法を使うのに必要な魔力はわかるだろ」


「ええ。それがないとゴーレムも使えません」


「その魔力を根源までさかのぼると、まっ黒な混沌に行きつくという話がある」


「何ですかソレ」


 ゴローの頭に、ドロドロとした真っ黒なヘドロのごときものがイメージされる。


「それがどういうものかは知らん。事実かどうかもわからんしな。しかし、魔力がそういった混沌の暗黒から生じたって話は昔から語られてるんだ。で、その闇の魔力は根源だけあって、強力かつ万能でさ。他ではできない奇跡みたいなこともあっさりできるんだとか」


「へー……」


「魔法使いの元祖とされてるのは、一般には魔女の女神だな。その女神の魔法はまさに暗黒の魔法だったと伝えられてる。」


「いかにも悪役のそれっぽいですね……」


「そうか? しかし、あたしらというか生き物が生まれてくる母親の腹の中は暗闇だ。その中から生まれてくるあたしらはまさに闇の申し子と言うべきじゃないか?」




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