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その13、修行の新メニュー

 その13、




「すみません、ゴタゴタしてたんで新芽のほうはちょっと……」


 ゴローが謝ると、バレンシアはため息をつく。


「……じゃ、しょうがないわねえ」


「はい」


「だったら急いで採ってきてちょうだい。ちゃんと非常食も持って」


「え」


「いや、半端なとこしてたら修行にならないでしょう?」


「そうですけど……」


「じゃ、すぐに準備して。ボヤボヤしていると日が暮れるから」


「はい……」


 まあ、こういうようなわけで――


 ゴローは一人、いやゴーレムたちを伴って再び森に。

 それから野草の新芽をどうにかつみ終えて帰宅するのだった。


 戻った時にはバレンシアとメドゥチの話はすでに終わっていたようで。

 さらにテーブルには三人分の食事の用意が完成していた。


「ご苦労様でした。それじゃ、すぐに食事にするから手を洗ってきて」


 と、新芽の入った袋を受け取りながらバレンシアは言う。

 食事の内容はいつもより若干豪華で、香辛料をきかせたウサギの肉が加わっている。


 どうやらゴローが新芽を採りに行っている間に準備したらしい。

 すなわちウサギを捕まえてきて、さばいて料理したということだ。


 それに根菜類をじっくり煮込んだシチューと、キノコを炒めたもの。

 このキノコはバレンシアが家の近くで栽培したものである。


「食事の前にちょっと知らせておくけれど」


 ゴローが手を洗って席についたと同時に、バレンシアは良く通る声で言った。


「あなたは明日からめーちゃんと一緒に街に行ってもらうから」


「……えらく急な話ですね」


 席でかしこまったまま、ゴローはメドゥチを見ながら応える。


「ついさっき決まったばかりだから。街で彼女のお手伝いをしてくること。これが次の課題」


「やっぱり修行の一環ですか」


「当然」


 バレンシアは微笑して、軽く髪をかき上げる。


「ゴーレムを複数、色んな作業に使うからかなりしんどいわよ。覚悟しなさい」


「はあ……。それでバレンシアさんは?」


「何で私が行かないといけないわけ」


「でも、メドゥチさんはバレンシアさんを訪ねてきたわけですし」


「だから用事に私が出向くとは限らないでしょう。ま、がんばりなさい」


 バレンシアはピシャリと言った後、フッと微笑する。


 これは何を言っても無駄だ、とゴローは判断した。


「わかりましたけど……。街に行って工事の手伝いでもするんですか?」


「まさにそんな感じさ。あたしの手伝いだな、正確には」


 横で肉を貪っていたメドゥチはうなずきながら言った。


「あたしの試験に関わることなんだが、ちょっと面倒なことになっててなあ……」


「具体的にはどんなことをするんですかね?」


「知ってのとおり。あたしは水系の魔法使いだろ?」


 と、自らを指して言うメドゥチ。


「……いえ。知りませんけど?」


 ゴローが首を振ると、メドゥチはアレ? と目をパチクリ動かす。


「そうか。お前さんには何も言ってなかったか……? ま、ともかく水系の魔法使いなんだよ。そう思ってくれ」


「別にいいですけど、何ですか水系の魔法使いって……。水の魔法しか使えないとか」


「水に関わる魔法を専門に学んでるってことだ。お前がゴーレム専門みたいにな」


「ははあ。しかし、お互いあんまり関係なさそうな気がしますけど」


「それがあるんだなあ。あたしの流派は水関係の中でも治水の技術も学んでるんだよ」


 メドゥチは指を振り、やや自慢そうに言った。


「治水? つまり、川なんかが氾濫しないように工事をする?」


 ゴローは頼りない知識でとりあえず答えてみる。


「ああ。知ってのとおり、あたしはトロルだろ」


 するとメドゥチはまたも初耳のことを口にするのだった。


「……知りませんよ」


「ん? そうか……。そうか、お前さんとは今日会ったばかりだからな。でも、この髪とかでわかりそうなもんだぞ」


 メドゥチはその青い髪をかき上げながら、少し不思議そうに言う。


「私がエルフだっていうのは、すぐわかったのにね」


「そりゃね……」


 隣でクスクス笑うバレンシアをちらりと見ながら、ゴローは肩をすくめた。


 バレンシアの場合は、まさに『エルフ』というイメージの姿をしている。

 長い耳と人間離れした美貌。優れた魔力と知識。ついでに森の奥に住んでいるときた。


 しかし、メドゥチの場合はどうか。

 トロルだと言われても、こちらの世界で生きてきた数年間トロルなんて種族のことは聞いたおぼえがなかった。


 エルフはある。その美貌と魔法の力は村でも噂になることが多かったのだ。


 また生前の知識で、トロルという名の種族を思い返してみても――

 ゴローには、何となく醜く凶暴な巨人という曖昧なイメージしかなかった。


(確か妖精のようなものを指す言葉だったかなあ……)


 頭をかきながら思い返すゴローだが、元の知識が貧弱だからどうしようもない。


「まあ、恥ずかしながらトロルという言葉もほぼ初耳でして」


「東のほうじゃ一般的な種族だぞ?」


「ここは西ですからね……」


 メドゥチの言葉にゴローは苦笑する。


 現在ゴローたちが住んでいるのは西午賀州せいごがしゅうと言われる大陸だ。

 その中でもこの辺りは西部に位置する場所であり、元々エルフの住む土地だったという。


 が、長い時間の中でエルフたちは違う土地に移り住み、大陸に残っている者は少数。

 特に西部は人間が多く住む土地となった。


 こういった知識は、バレンシアから教えられたことである。

 村にいる間は幼いということもあったろうが、隣の村はどうだという程度のことしか知ってはいなかった。というか、村だけが世界であった。


 恐ろしく狭い世界観だったとゴローは思う。


「トロルといえば元は河川の民だからな。舟とか治水に関してはお家芸なのさ」


「ははあ」


 そうメドゥチに言われて、ゴローは思い出す。


 前世で読んだ絵本に、トロルというのが登場したことがあったと。

 その本では確か橋の下に住みつき、山羊を襲う怪物だったように記憶している。


「ひょっとして、山羊の肉とかお好きで?」


「? いいや。何でだ?」


「いえ、何となく……」


 思わず聞いてみたが、メドゥチから帰ってきたの否定。

 まさか山羊を襲うお化けに重ねてみたとも言えず、ゴローは誤魔化し笑いをする。


「よく食べると言えばキュウリだな。あたしはそんなに好かないが」


 それじゃ河童だ、とゴローは内心で苦笑した。





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