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その12、メドゥチさん

 その12、




「あたしの名はメドゥチ。魔法使いミンツチの弟子だ」


「はあ」


 胸を張って名乗る少女。その時わかったことだが、かなりスタイルが良い。


 それはさておき。


「で……その、メドゥチさんがどうしてまたこんな森の中で?」


「この森に住むある人を訪ねてきたんだ。その途中でダルにやられちまった」


 未熟だな、とメドゥチはひどく恥ずかしそうに肩をすくめる。


「ダル?」


「知らないか? 森や山の中で急に腹が減って動けなくなるヤツさ」


「ああ、そういう呼びかたをするんですか」


「それであのざまだ。お前が来てくれなきゃ危なかった」


「良かったです」


「しかし……お前、どうも魔法使いらしいが……」


 メドゥチは周りにいるゴーレムに目を走らせながら、


「まさか、お前がマスター・バレンシアなんてことは……」


「違いますよ。それは自分の先生で」


「そ、そうか。まあ、そうだよなあ」


 ゴローが否定すると、メドゥチは安心したように破顔した。


「どういう人か聞いてなかったんですか?」


「魔法使いは姿を変えて生活することがある。特定されるのを嫌ってな」


「なんで?」


「そりゃ色々と面倒になることも多いからさ。盗賊に狙われるとかな」


「盗賊にねえ」


 ゴローは考え込む。


 確かにバレンシアを見るに生活に不自由はなく、小金を貯めているかもしれない。

 彼女が大金を所持しているところを見たのは、ゴローが実家から引き取られる席。


 その、ただ一度きりだ。

 後は基本自給自足。普段の暮らし向きは質素なものである。


 家の中で見かけたお金といえば、銅貨が数枚程度だった。


「魔法使いは金持ちが多い。そういう誤解や偏見がな」


「あるんですか」


「かなりな。言っとくがお前だって他人事じゃないぜ」


 と、メドゥチはうなずいた。


「ま。それはいいや。悪いけどマスターのところに案内してくれ」


「……あ、いや、それは。ええと」


「なんだよ?」


 ゴローの煮え切らない態度に、メドゥチは若干苛立ったような顔をする。

 しかし、すぐに何かを察したような顔で、


「ああ。確かにいきなり知らない人間が家に連れていけって言われても困るわな」


「まあ、そうなんですよ」


 バレンシアのことだから、これが盗賊か何かの罠だとしても見破るだろう。

 しかし、危険人物かもしれないを家に連れ帰るのはごめんだった。


「だったらあたしを縛るか何かして、そんで連れてけ。なら、いいだろ」


「ええっ?」


「頼むよ。また森の中をウロウロしたくない」


「ううん……」


 両手を合わせて拝むように頼んでくるメドゥチに、ゴローは困る。


「……でも、こっちがバレンシアさんの弟子だって嘘を言っている可能性もありますよ?」


「それはないな」


 ゴローの言葉に、メドゥチはすぐに首を振る。


「何でそんなこと断言できるんです」


「そのゴーレムさ」


 メドゥチは再度人型や四つ足のゴーレムに視線を送り、微笑する。


「そいつらをお前が操っているのは、わかる。それだけで十分だってのさ」


「わかりませんねえ」


「まず、その年でこんだけゴーレムを巧みに操るってのは普通じゃない。ゴーレムってのは、作るだけでも何年も修行・勉強がいるし、さらにそれを操るのにも厳しい訓練がいる。そんなのを年端もいかないガキ……じゃない、子供が簡単にやってるんだ。となればだ、ゴーレムに関しては、その人ありと言われてるマスター・バレンシアの弟子以外にゃありえん」


「………………………………。はあ」


 ずいぶんな誉め言葉をもらい、ゴローは当惑する。


 確かにチートはもらった。

 才能はある、とバレンシアからもお墨付きをもらっている。


 しかし、あまりそれを実感できたことはない。

 バレンシアの弟子となってからも、ひたすら地味な修行の日々だ。


 それが見目麗しい少女に、こうも称賛されるとは。


「そんなにいけてますか?」


 ちょっと良い気分になって、ゴローは聞いてみる。


「何だお前、ちょっと気持ち悪いな。あ、いや、すまん」


 そんなゴローの反応に、メドゥチは少し首をひねる。


「…………」


「いや、ほんと、すまん。ちょっと口が滑っただけなんだ。何か子供のクセに一瞬オッサンのような雰囲気になったというか」


「…………」


 ゴローは沈黙する。


(そりゃ中身はオッサン……うん、生前年齢を足すと完全にオッサンだからな)


「まあ、何でもいいですけど……。バレンシアさんにご用があるんですよね。案内しますよ」


「お、そうか。このままでいいのか?」


「ええ、いいです。別に何でも。どーでも」


 色々と複雑なものを抱えながら、ゴローは四つ足ゴーレムに乗り、人型を土に戻した。


「おい。せっかく作ったのに。いいのか?」


 土になったゴーレムを見て、メドゥチは驚きの声をあげる。


「? いいですよ、別に。誰も怒りゃしませんって」


「そりゃそうかもしれねーけど……」


「じゃ、ついてきてください」


 メドゥチを振り返った後、ゴローはゴーレムを動かす。


「いや、さすがマスター・バレンシアの弟子だ……」


 メドゥチは一人で何でも感心しながら、ゴローの後を追う。

 家路につく中、会話らしい会話はない。


 ゴローが若干不機嫌であったことと、メドゥチが何やら思考に没頭していたせいである。

 そして、樹木の家についた途端――


「あら、おかえり……って。めーちゃん?」


 家の前に作った畑で根菜類を抜いていたバレンシアは、メドゥチを見て言った。


「めーちゃん?」


「おひさしぶりです、マスター・バレンシア」


 訝しげなゴローの横を通り過ぎながら、メドゥチはそう返事をする。


「ずいぶん珍しいお客を連れて来たものね」


 農作業用のエプロンで手をふきながら、バレンシアは首をかしげる。

 それから、新芽をちゃんと採ってきた? とゴローに尋ねるのだった。





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