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その10、修行は続くよエンヤラヤ

 その10、




(修行って案外地味なもんだなあ。まあ、こんなかもしれんけど――)


 名前も知らない森の中、ゴローはそんなことを考える。


「雑念があるわよ」


 そこに、けっこうな速度でバレンシアの拳骨が降ってきた。


 ゴローは現在樹木の家の前に座らされ、瞑想の途中である。


 まずは魔力操作の基本を覚えること。すなわち体に叩きこむこと。

 これがゴローに与えられた課題なのだった。


 瞑想で体に流れる魔力を感じ取り、それを無駄なく全身に巡回させる。

 それがごく自然に、さらに意識のない睡眠中でさえもできるようになること。


 バレンシアの言によれば、


「これができれば体力も自然に身につき、病気にもなりにくくなるの。野宿をしても超一級のベッドで眠ったような効果を得られるようになる! 高レベルに至ればだけどね」


 魔法使いというものは、研究のため山野を駆け巡り、不眠不休で過ごすことも多い。

 野に付し、山に眠ることくらい当然であるそうだ。


 魔力によって身を守り、疫病や暑さ寒さなどを防ぐ必要もある。

 バレンシアに言わせると、


「あなた、潜在魔力はバカ高いけど体にあんまり馴染んでないし、操作も不器用でドンくさいことオビタダシイワネ。下手に魔力があるだけに厄介だわ。面白くもあるけど」


 そして、身体、魂に宿る魔力を自覚して、針の穴を通すような精密作業をも無意識レベルでできるようになること。


(道は遠いのか、近いのか……)


 瞑想によって魔力の流れや動きはだんだんとわかるようにはなってきている。

 しかし、それを緻密に操作したり何かに付与するというのは困難だった。


 ゴーレムはあの魔女のサービスなのか自然と扱えるようにはなっていた。

 だが、他のことはいずれも難しい。


 例えるなら、巨大な重機のごときものでプラモデルを作ったり、編み物をするようなものであると言えようか。


(何て扱いづらい……)


 自分の魔力がけた外れらしい、とはわかったものの、その加減の困難さよ。

 ゴーレムを操る時の感覚を参考にしてみると、ある程度状況は好転したものの――


(いてえ……)


 気を抜くと全身に筋肉痛が走り、座ることさえできなくなりそうだ。

 魔力の循環による身体強化が行き過ぎたせいである。


 この筋肉痛も、


「魔力の操作と循環ができていない証拠。ちゃんとクリアするように」


 と、バレンシアからありがたい言葉をもらっている。

 ちゃんと魔力が馴染めば、痛みも自然とおさまるそうだ。


 そもそも魔力とは、何ぞや。

 これは魔法使いによって考えかたは異なるが、バレンシアによると、


「現実世界の法則に干渉できる根源的な力」


 なのだそうだ。

 そして、自然発生的に生じたモノでもないらしい。


「誰か、いつかはわからないけど、意思……もしくはそれに近しいものを持った存在が最初に魔法、そして原初の魔力とも言うべきものを生み出したんだと思うわ」


 それを悪魔とするか神とするか、祖霊とするかはそいつの勝手だと。


 とにかく、魔力は濃度や操作技術によって世界を自分の好きなように変えてしまう。

 まさしく神に通じる力と言える代物である。


 例えばゴローが土からゴーレムや鉄のくわを作ったのもその一例だ。

 無論それは個人個人の資質によって、魔力量や操作する力は違ってくるが。


「究極的には世界そのものを造ったり壊したりしてしまうかもね」


 私にとってはまるで現実感のない話だけど、とバレンシアは語った。

 もちろんゴローにとっても同じだ。


 今はただ己の魔力を支配下に置くことに汲々(きゅうきゅう)としている。


 瞑想を続ける時間はとにかく長い。

 初日から今に至るまで半年間というもの、睡眠と食事以外はすべて瞑想だ。


 そのおかげか、毎日わずかながら前に進んでいる実感もあるが。

 しかし、子供の肉体であるせいか時間の経過はひどく遅い。


 村を出た日のことがずっと昔のように感じる。

 やがて太陽が沈み出す頃、ゴローは解放された。


 瞑想中に実感はなかったが、そこから離れた途端筋肉痛と精神的な疲労が雪崩のように押し寄せてくる。潰されそうだ。


「この分ならもう半年もすれば、次のステップに行けそうね」 


 肩で息をするゴローを見ながら、バレンシアは言うのだった。


「はんとし!」


 それは今のゴローにとっては殺人的な長さに感じた。

 瞑想漬けの時間が後半年も続くのだ。


 ぐらり、と眩暈がしたのは精神的ショックのせいばかりではない。

 空腹も加わっていた。


(この世界でも、太陽は東から西に沈むんだよなあ……)


 暗くなる視界の中でそんなことを思いつつ、ゴローは両手を地面につける。


「そんなところでへばってないで、家に戻るわよ」


 バレンシアの声に促され、ゴローは樹木の家にヨロヨロと入っていくのだった。

 その後、しばしの休憩の後は食事の時間になるのだが。


「さ、それじゃ始めて?」


 バレンシアの声を合図に、ゴローはまだ震える手で食事の準備を開始する。

 これも初日からやらされたことだった。


 一応何をどうするのかは指示を出すが、基本全てゴローだけでやらされる。

 村でやって来た家事手伝いや前世での経験を踏まえればそう大した作業ではない。


 しかし、長時間の瞑想やら何やらで疲労困憊した身にはなかなかハード。

 そういうことも踏まえて修行なのだろうが、ある意味メインの修行よりもきつかった。


(……とはいえ、二人だけだし食事の用意自体はいいんだけど……)


 他にも保存食の作りかた、薬草の判別法など、色んな知識が詰め込まれる。

 最初はとても覚えきれないと焦ったが、何故か知識はうまく吸収できてしまう。


「魔力は脳みそも鍛えられるけど……これは楽で良いわね。教えるのが」


 ゴローの飲み込み具合にバレンシアは破顔するのだった。


「瞑想がクリアできたら、次は何をするんですか?」


 十数分後。質素だがなかなか美味な食事をとりながら、ゴローは尋ねていた。

 フランスパンを思わせる硬めのパンに、鳥の肉が入ったスープ。


 それに各種の野草類がここの主なメニューだ。

 前世日本に比べると全般的に薄味だが、村の食事よりはるかに良い。


「そうね。あなたは一応ゴーレムも作れるし、私の魔法の基礎を叩きこませてもらうわ」


 パンをスープに浸し、バレンシアはニッと微笑む。


「魔法使いも色々あるけど、私はゴーレムが専門なのよねえ」


「初耳ですね」


「言ってなかったかしら……。ああ、言ってなかったわね」


 マヌケな会話である。

 そう思いながらも、ゴローは一日終わりの休息を静かに味わうのだった。


 次の半年が過ぎた時には、ゴローは七歳だ。

 前世の年齢をプラスすると、あんまり考えたくないことだが。





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