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魔法使い

「僕は、魔法使いになる」


 何言ってんだこの人は。

 現在、部室には俺と部長の2人だけだ。男2人だけの時は、ふざけた話だけでなく真面目な話をしたりするのだが、今回は前者のようだ。

 ちなみに、今部長はホワイトボードの前でラ○ウよろしく拳を天高く突き上げている。


「魔法使いって何ですか……部長、遂に頭がおかしく――あ、元々か」

「失礼なことを言わないでくれよ。僕ほど出来た人間は珍しいよ?」


 自分で言っちゃう辺り、やはり残念な人だ。


「んで、どうして魔法使いに?」

「よくぞ聞いてくれた。実は、昨日テレビで特集をしててね」


 確かに、昨日テレビで『魔法使いは実在するのか!? ロケ中に起こった奇跡!!』とかいう番組があってたな。胡散臭すぎて途中で見るのを止めたけど。


「まさか部長、あんなの信じたんですか……」

「おい止めてくれ。哀れみの視線を向けないでくれ。信じたわけじゃないんだよ。寧ろ、胡散臭すぎてね……だから、僕は考えたわけさ」

「……はあ」

「魔法使いが存在しないのなら、僕が魔法使いになればいいんだってね!!」


 滅茶苦茶な理論だな。つーか、魔法使いは信じてないんじゃなかったのか。結局信じてるってことじゃないのか……?


「甘いな終ちゃん」

「当然のように俺の心を読まないでください。プライバシーの侵害ですよ」

「人々がある事象を信じない理由は何だと思う?」


 あれ、意外と真面目路線なのか? いや、だとしても話が見えてこない。

 一応、乗ってみるか。


「そうですね……自分が実体験していないからでしょうか」

「その通りだ。幽霊にしても、超能力にしても、実体験したことがないから信じることが出来ない。陰謀論だのなんだの言われるけど、結局人間は自分の目で見たことしか信じられないんだよ」

「あの、サラッと本編をディスらない方が……」

「つまりだ!!」


 さっきから俺の話を全く聞いてないなこの人。

 部長は右手を後ろに振り回し、ホワイトボードを思いっきり叩きながら得意気な顔をして言う。


「僕が魔法使いになれば、僕は魔法使いの存在を信じられるってことなんだよ!!」

「…………」


 鼻息を荒くして熱弁していたが、俺には全く意味が理解出来ない。結局、部長は何が言いたいんだ?


「ふふふ、僕が言いたいことはもう分かるね」


 いえ、全く。


「そう、胡散臭いとか嘘でしょとか思うことはまず自分でやってみるべきなんだよ。超能力なんかあるわけないと思ったら、自分が超能力に目覚めてみればいい。幽霊なんていないと思うのなら、自分で廃墟にでも言ってみればいい」


 何となく、部長の言いたいことが分かってきた気がする。

 つまり、自分でロクに調べもせずに物事の真偽を決めるなということか。自分が体験してみて、それでも尚信じないというのならそれでもいい。だが、実体験はおろかそれをする努力もせずに評価をするのは間違っている。

 何だ、結構真面目な話じゃないか。


「その通りだ終ちゃん!」

「俺のプライバシーはどうなってんだよ!?」

「さ、というわけで君も魔法使いになってみよう」


 まあ、読心の件はさておき。

 妙に説得力のある理論だったな。確かに、俺は魔法使いになる努力なんかしたことがない。だからこそ、軽々しく胡散臭いとか言っちゃダメなんだな。


「分かりました部長、俺も頑張ってみます!」


 つっても、魔法使いになる方法なんかないと思うんだが……。


「よく言った終ちゃん。じゃあ、これを着てくれたまえ」


 そう言って、部長は俺に大きめの紙袋を渡してきた。中に入っていた物を取り出すと、それはピンク色のフリフリの衣装が入っていた。

 どう考えても男が、しかも高校生が着るものではない。しかも、服が入っている袋には『魔法使いコスプレセット』と書かれている。


「いやあ、見つけるのに苦労したんだよ? 買うときには店員さんから白い目で見られたし」

「あの……一体どうしろと?」

「もちろん着るんだよ、君が。今度の文化祭で披露してもらおうと思ってね」

「は?」

「ああ、今更拒否は出来ないよ。言質はとったからね」


 部長がポケットからボイスレコーダーを取り出した。先ほどまでの会話を録音していたらしい。部長が再生ボタンを押すと、


『さ、というわけで君も魔法使いになってみよう!』

『わかりました部長、俺も頑張ってみます!』


 最悪だ。


「終ちゃんが快く承諾してくれて助かるよ。女性陣に着せるわけにはいかないからね。ささ、試着してみてくれ」


 真面目な話だと思っていたら、ハメられたのか!!


「魔法使い終ちゃん、ここに参上!! ぶふっ」

「自分で言っといて笑うんじゃねぇよ!! ああ畜生、最悪だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 結局、俺は後の文化祭でこの衣装を着て、目にピースを当てながらその台詞を言うことになる。だが、あの思い出は心の檻に閉じ込めて2度と出したくないので、語らないことにする。

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