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ケーキ

 今日も俺は部室に向かった。

 え、もう1日経ったのかって? そこは気にするな。

 部室にいたのは、月宮姉妹だけだった。


「先輩たちはともかく、二宮たちもいないのか」

「ええ、2人は別の部活にも入ってるから」


 月宮姉が言う通り、二宮と金原は別の部活にも入っている。というより、そちらの方が本業だ。この歓談部はその性格上、掛け持ちしやすい部活だ。つっても俺は歓談部にしか入ってないがな。


「あ、そうだ黒神君っ。今日のテーマは何にするのっ?」


 この、語尾に星マークが付きそうな喋り方をする方が月宮妹だ。どうしてこんな話し方かは分からないが、髪形以外の見分け方としては分かりやすい方だろう。

 ちなみに、部長がいない時は俺が雑談のテーマを決めている。実際、誰が決めてもいいんだがな。


「じゃあ、今日は……ケーキについてだ!!」


 ケーキ。俺の大好物だ。

 1番好きなのは、苺のショートケーキだ。色々なケーキがあるが、あれを超せるものはない。王道こそ至高ってところだな。


「ねえ黒神君っ。おーいっ」

「ん、ああすまん。じゃあ、始めようか」


 お茶を淹れた月宮姉が座ったところで話を始める。


「2人はどんなケーキが好きなんだ?」

「私はチーズケーキかなっ。あ、でもチョコレートも捨てがたいっ」

「黒神君は苺のケーキだっけ。んー、私もそれかなぁ」


 なるほど。2人とも王道派か。最近では奇をてらったケーキが人気らしい。例えば、チーズとチョコレートの所謂ハーフアンドハーフのケーキとか、凍ったケーキとか。逆に熱々のケーキもあるようだ。


「へえ、お姉ちゃんは黒神君と同じものが好きなんだっ」


 月宮妹は何故かニヤニヤしている。


「は!? いや、偶々よ偶々!! 別に意味なんて……ないし」

「おやおや、言葉に詰まったねっ。うんうん、妹は分かってるよっ」

「とと、とにかく私は好きなの!!」

「誰がっ?」

「ケーキの話よ、け・え・き!!」


 月宮姉は顔を真っ赤にして怒っている。そんなに怒ることではないと思うが……まあ、何か知らんが彼女の琴線に触れたのだろう。


「そういえば、双子の割には好きなものが違うんだな。二卵性だっけ?」

「ううん、一卵性よ。二卵性でここまで似てたら奇跡なんじゃないかな。でも、何故か好みが違うのよね……早苗がわざと私と違うものを言ってるってこともありえるけど」

「……そうだよっ。私はわざとお姉ちゃんとは反対のことを言ってるんだよっ」


 どことなく棒読みな気がするが、勘違いだろうか。


「そうそう、好きな男の子のタイプも反対なんだよねっ」

「ちょ、早苗!?」

「私はゴリゴリのマッチョで、身長が高くて超イケメンが好きなのっ」

「早苗、それ以上はダメ!!」


 ふーん、月宮妹はそんな男がタイプなのか。俺とは正反対のタイプだな。いや、イケメンの部分が正反対ということは否定しておくが。

 ……あれ?


「黒神君、それ以上何も考えないで」

「え、あ、はい」


 ずいっと寄せられた月宮姉の顔は凄く怖かった。だから、言われた通り俺は考えるのをやめた。何か引っかかるが、まあ、月宮姉から怒られるよりマシだろう。


「で、何の話だっけ?」

「だから、お姉ちゃんの好きなひごふぇっ!?」


 ゴツンとかいう生ぬるい音じゃない。ゴキッ!! って鳴った。それほどの威力で月宮姉の拳骨が月宮妹の頭に突き刺さった。

 月宮妹は涙目になりながら頭を押さえて、椅子から転げ落ちた。


「お、おい月宮妹……大丈夫か?」

「い、痛いようっ」


 この状況でも語尾を変えない辺り、寧ろ尊敬できるぞ。


「月宮姉……恐るべし」

「い、今のは早苗も悪いもん。とにかく、ケーキの話でしょケーキ」

「ああ……あ、確かこの前新しいケーキ屋が出来たって話を聞いたな」

「へえ、どこに?」

「コルンだよ。しかも、ケーキ専門店らしくてな。かなりレベルの高い場所のようだ」


 コルンは、ここホープの隣に位置する町だ。多少時間はかかるものの、歩いて行ける距離である。


「じゃあ、今度3人で行ってみないっ?」


 痛みが治まったのか、月宮妹が再び座る。実はさっき転げまわってるときにハッピーマテリアルが見えていたことは黙っておこう。白は男子高校生の理想である。


「それ、いいね。私も行ってみたいし……黒神君はどう?」

「ん、ああ。俺は元々行くつもりだったし、もちろんオッケーだ」

「よしっ。それなら今から行こうっ。善は急げ、だよっ」

「今から!? いや、私は別にいいけど……」


 やっぱり、ケーキ屋の格を決めるのは王道ものの完成度だよな。俺のお気に入りの店は苺のショートケーキの完成度が高い。苺の品質もさることながら、あの生クリームの絶妙な甘さがエクセレントだ。

 苺の酸味と生クリームの甘さ。この均衡がショートケーキの美味しさを決めるといっても過言ではなかろう。


「黒神君、おーい。ちょ、(よだれ)が……」

「これは、オーケーってことかなっ。よかったねお姉ちゃんっ」

「何で私に言うのよ! 提案したのは早苗でしょ!?」

「ふふーんっ。妹にはわかるのですっ」

「何がよ!!」


 やばい、涎が出てた。さすがにこれはマズイな。

 つーか、また月宮妹が殴られてるし。あの姉妹、仲が良いのか悪いのかよくわからん。


「ぐぐぐ……と、とにかく行ってみようよっ」

「おう、多分もう他のメンバーは来ないだろうし鍵も閉めていくか」

「それがいいかもね」


 そう言って、俺は置いていた鞄を取って外に出た。忘れ物が無いかを確認して、部室に鍵をかける。

 ふむ、結構楽しみだ。本当は週末に行くつもりだったが、早く食べたい気持ちはあったから良い機会だ。


「それじゃ、出発っ!!」

「なんで早苗が仕切ってるの……」

「まあまあ、一応提案者だしな」

「お、分かってるねっ。さすがはお姉ちゃんが惚れぐふえっ!!」

「ちょっと見直した瞬間にこれなんだから!!」


 月宮妹の頭がかなり腫れ上がってる気がする。どんな力で殴ってるんだよ……。

 何はともあれ、俺たち3人はコルンに辿り着き、各々好きなケーキを買って食べた。あそこのショートケーキ、中々いいな。また今度行ってみるか。  

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