第六章:涙雨
五年が経った。
桜が咲く、温かい春。
桜の木々は風に揺れ、ほのかな香りと共に花びらを散らす。
ついに春弥は、初めて教員として働き始める。
今までいろいろ準備はしてきたつもりだったが、いざそれを目の前にすると自信を無くしてしまいそうになる。
なかなか慣れない新生活、期待と不安がせめぎあっている。なんだか落ち着かなかった。
しかし、赴任先の学校に到着するや否や、得も言われぬ安心感が春弥を襲った。
目の前に広がる風景は、昔と何ら変わりがなかった。
母校で教師として働くと聞いたときは、正直驚いた。しかし春弥にとって、心の準備の面もあってかなり好都合だった。
「お?」
鞄を持つ手に、冷たい雫が一滴、ぽつりと落ちた。
次第に雫は多くなり、コンクリートの地面に斑点を描きながら、雲無き陽の光の下、細かい雨が降り注ぐ。
一滴一滴が太陽を浴びて、きらきら輝く雨粒となって、春弥を優しく包み込む。
こんなこともあろうかと、常に持っている折りたたみ傘を広げる。
周りのものすべてが、雨に濡れて輝き出した。
春の暖かい空気が、雨に洗われてゆく。
幻想的な風景に感動していると、ふと、春弥の視界の端に留まったものがあった。
ほこり被っていた記憶が呼び起こされ、激しく現実に干渉する。
春弥の鼓動はだんだんと早くなる。
いつか味わった、あの高揚感が、安心感が、心の奥底からこみあげてきた。
春弥は、大きく目を見開いた。
確かに目の前には、かつて自分が求めて止まなかった存在があった。
透き通った瞳を見た。流れるような髪を見た。
昔と変わらない姿で、そこに立っていた。
そのワンピース姿は、ゆっくりとこちらを見つめ返し、そして微笑んだ。
「シュン君、お帰り!」
時が止まったかのように感じた。
体中がじわじわした。
そして、なぜだろうか。涙が溢れて、止まらなかった。
-END-
-あとがき-
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
どうも、Sharp♯と申します。
勉強の合間に書いていたら、いつの間にか完成していました。
実は、この物語は初め、凄い説明じみた物でした。
自分の作風がそういった傾向にあるので、そうなってしまったようで。
四か月くらい寝かせて(放置して)、読み返してみたら、まあ分かりにくかった読みにくかった。
色んな設定だらけでしたね。
現実の世界は、階層構造である。
色々な要素が積み重なってできている。
だとか、
レインの正体についての描写があったりだとか。(実は元設定では、地方で崇められていた神様だったり)
大幅にカットしちゃいました、これで、原文よりはだいぶ読みやすいかなと。
自分の作風を裏切って書いてみた作品です。
皆さんに気に入ってもらえれば、自分は光栄です。