人それぞれの
お題
『カルボナーラ』
『謎解き』
『どんぐり』
「え、じゃああんたはミステリの楽しさを全く分かってないってこと!?」
がやがやと騒々しい学食で、あたしの向かいに座る加奈美が大きな声でそう叫んだ。
おかげで周りの生徒達に睨まれてしまった。
「ちょっと加奈美、声大きいって!」
「ご、ごめん……いや、でも、声を荒げたくもなるよ。そんな風にミステリー小説を読んでる人がいるなんて。楽しくないでしょ、そんなの」
声のトーンを落とした加奈美に呆れたように言われてしまった。
けど、その言い草はちょっとだけ不愉快だ。
「いや、別に楽しんでない訳じゃないよ」
「楽しんでないっていうか、楽しめないでしょ絶対」
「楽しめるって。加奈美も一度やってみてよ」
「やるわけないでしょ! 読む前に最終章を先に全部読んじゃうなんて!」
憤る加奈美は日替わり麺メニューのカルボナーラを勢いよく口に運んだ。
ちなみにあたしはヘルシーにかけ蕎麦を選んだ。美味しそう。
「っていうか、そんなことする位なら先に一回読んじゃえばいいじゃない。そのあともう一度頭から読めば、同じことになるし」
そう提案する加奈美だったが、あたしは大きく首を振った。
「それこそ意味わかんない。なんで二回も読まなきゃいけないのよ」
「面白い話は何回読んでも面白いと思うんだけどな」
頭を抱える加奈美に、あたしは蕎麦をすする口を止めて高説する。
「いい? あたしは、小説は好きだけどめんどくさいのが苦手なのよね。ミステリー小説って、断片的に情報が増えてくだけで結局最後の最後まで何もわからないじゃない」
「だって、それがミステリー小説じゃない」
「ああやって、わけのわからない情報ばかりが増えていくの、キライなのよ。その点、先に最終章を先に読んじゃえば、その情報がどんな意味を持つのかが分かるじゃない」
「……まあ、めんどくさいなら仕方ないけど、ならなんでミステリを読むのよ」
「ちりばめられた伏線って言うの? あれを確認するのが好きなのよ。ああ、こうやって手掛かりが繋がっていくのねって」
言いたいことを言いきったので、あたしは食事を再開した。
けれど、佳奈美は尚も納得できない様子だった。
「その手がかりからの謎解きがミステリの醍醐味なのに……それに、その読み方だと先に誰が死ぬかとかの展開が全部わかっちゃうじゃない」
「あたしは、分かってる方が楽しいのよ」
どうしたら佳奈美に納得してもらえるかを考えてみる。
あ、そうだ。
「ねえ、こんな問題知ってる?」
「何よ急に」
「いいからいいから。『今この場に、どんぐりが5つあります。そこにリスがやってきて1つくわえていきました。では、ここにはいくつのどんぐりがあるでしょう?』って問題なんだけどさ」
すると、特に悩むそぶりも見せずに佳奈美は答えた。
「知ってるわよ、それなら。『くわえる』の解釈によって答えが変わるから当たりっこないのよね。口にはさむ方の『銜える』なら4つだし、足す方の『加える』なら6つになるわ」
「うん、正解正解。まあ、有名なやつだしね」
「で、さっきの話とこの問題に何の関係があるのよ」
ジト目でにらんでくる加奈美。
怖いなあもう。
「要するに、話の解釈、ひいては小説の楽しみ方なんて、人それぞれってことよ。何が正解ってわけでもないし、誰に押し付けられるものでもないしね」
「……一見良い事言ってる風だし、その意見には私も賛成する。読み方に正解なんてないわけだし」
「でしょ?」
「でも、あんたのミステリの読み方だけは間違ってるって断言してあげるわ」
あれー?
謎解きからミステリを連想する安易な発想。
ミステリはちゃんと推理するけど当たらない派です。