湿度の高い夜
お題
『アイスクリーム』
『潜水艦』
『帽子』
これは地球温暖化の影響なのだろうか。
深夜になっても、じめじめとした肌に張り付くような空気が街を支配している日本の夏。
そのしつこさに怒りを覚えた私は、その気持ちを発散するために家を飛び出してコンビニへと向かった。
まあ、要するにアイスクリームを買いに行ったのだ。
白いタオルで滝のように流れる汗をぬぐいながら月明かりの下夜道を歩いていた。
お気に入りの長い黒髪も夏になると邪魔でしかないな、なんて考えながら歩いていた私は、学校の脇の道へと差し掛かった。
相変わらずだだっ広い敷地だな、なんてことを考えていた私の耳に、ふいに、ぴちゃぴちゃと妙な音が飛び込んできた。
まるで、何かが水面をはねるような、そんな音。
最初は近くで誰かが水たまりの上を歩いたのかと思っていたが、周りを見渡しても人っ子一人いないし、そもそも最近はピーカンの天気模様で雨なんか一切降っちゃいない。
冷静になってその原因を探してみれば、なんてことはない、少し離れたところにあるプールから出た音というのが妥当な線だろう、と言う事に思い至った。
……と、そこまで考えたはいいのだが、あんなところの音が果たして私の耳元にまで届くのだろうか。
それに、プールで起きた音だとしたら、その原因は? 虫や鳥が有力だが、どれも納得できるものでもない。
しばらくの思案の後、好奇心に負けた私は、一旦アイスを諦めてフェンスに開いた穴から敷地内へと侵入した。
プールのそばまで行ってみると、やはりと言うかなんというか、ここにも人の影はなかった。
もしかしてさっきの音は私の気のせいだったのだろうか? とも思い始めた頃、
――ぴちゃん――ぴちゃん
と、さきほど聞いた音が、はっきりとプールの中から聞こえてきた。
何かが。
何かがこのプールの中にいるのだ。
背伸びをして中を覗こうとしてみたが、ここからではプールの中は確認できなかった。
仕方がないので、フェンスをよじ登ってすわり、高い位置からプールの中を確認する。
すると、中央に、何か妙なものが沈んでいるのが見えた。
……あれは……潜水艦なのか?
なんでこんなものが……。
「ねえ」
その瞬間、どこから何者かに声をかけられた。
ふと顔を挙げれば、幼い少女がプールの縁に座っているのが見えた。
……小学生くらいかな?
少女は深く帽子をかぶっているため、顔は判別できないが……声からして、笑っているのかもしれない。
ぱちゃぱちゃと足をばたつかせる少女は、
「なんでこんな時間にこんな場所にいるの?」
なんてことを訊いてきた。
「……それは……こっちのセリフでもあるんだけど」
「あたし? あたしは、そういう存在だから」
わけのわからない事を言う。
「私は……水の音が聞こえてきたから」
「ふうん。まあ、あたしが見えるってことは聞こえるってことだもんね」
だからなんだというのだ。
……とにかく、音の正体も分かったわけだし、もう帰って……じゃなくて、アイスを買いに行かないと。
「もう遅いし、もう帰りなよ。おうちは?」
「なにそれ? あたしのこと心配してるの? ばっかみたい!」
「……そういうのはいいからさ。家出でもしてきたの?」
「んーっていうか、ここがあたしの家みたいなものだし」
……まったく要領を得ない。
もう帰ろうかとも思ったが、こんな小さな子を放って帰れるわけがない。
「いいから、帰ろう、ね? お家に帰りづらかったら私も付いて行ってあげるからさ」
「だからもう……お姉さんも話の分からない人だね!」
……話の分からないのは君の方だと思うけど。
「んーじゃあもういいや、また明日ここに来てよ。今日はもう時間切れみたいだから」
「時間切れ?」
それってどういう……と、口にするより先に、少女はその姿をふっと消してしまった。
「えっ……えっ?」
あとには、プールに沈む潜水艦と、縁に佇む私だけが残されていた。
……潜水艦はなんだったの?
今は冬ですが、夏のお話。
久々にホラーテイストになりましたかね。




