青春の味
お題
『港』
『モノローグ』
『磯辺焼き』
少しばかりのぬるい風が吹く昼休み、俺は一人屋上にいた。
「ああ、どうして神様は……いや、世界は俺に優しくできていないのだろうか」
灰色の雲に覆われた空にそんなことを愚痴っても、現状が変わる事は無くむしろ悲しさがあふれてくるばかりだった。
ああ、人間は、孤独だ。
溜息をつきながら視線を眼下の街並みへと移せば、遠くの港にひっきりなしに漁船が出入りしているのが見えた。
「こんな世界なら、いっそタコにでも生まれりゃよかったな……あ、それだと捕まって食われんのか。それは嫌だな」
「……何しょうもないモノローグ言ってんだ。アホかお前は」
突如かけられた声に慌てて振り向くと、そこには俺の友人である原野が立っていた。
「どうしてお前がここに」
つい口を出たその言葉に、原野は呆れながら答えた。
「そりゃこっちのセリフだ。俺が忘れ物を取りに屋上に戻ってきたらお前が妙な事を口走ってんだからな」
「忘れ物?」
「ん? ああ、これだよ。俺、たまにここで弁当食ってんだよ」
そう言いながら原野は屋上の隅に置いてあったペットボトルのお茶を拾い上げた。
「お前、いつもこんなところで昼飯食べてんのか……」
どうりで昼休みになると姿が見えなくなるわけだ。
「で? お前はなんでここに?」
「ああ……いや、別に……」
いくら友人と言えど言えないこともある。
原谷の疑問には答えず、適当に言葉を濁した。
しかし、そんな俺の気持ちを無視して、
「ま、大体分かるけどな。どうせフラれたんだろ」
なんてことをさもなげに言いやがった。
「な! なんでそのことを! お前、見てたのか!?」
「見てなくても、授業中お前がそわそわしてるのを見れば大方見当はつくわ。どうせ昼休みか放課後にでも告白しようとか考えてるんだろうってな。相手は、まあ北城あたりじゃないか?」
「う……」
実のところ、すべて原野の言うとおりである。
つい10分前、俺はクラスのマドンナ的存在である北城に告白をし、見事玉砕されたのである。
北城が言うには、
『ごめんね、天音君。私、好きな人がいるの。だから、天音君とは付き合えないのよ』
とのことである。
別に、告白が成功する算段があったわけじゃないし、むしろその可能性は低いとさえ思っていた。
けれど、実際にこうしてフラれるのはかなりメンタルにダメージを受けた。
ずきずきと心の奥が痛み、悲しみがあふれてくる。
「まあ……元気出せよ。また、新しい恋を始めればいいじゃないか」
そう慰めてくれる原野だったが、俺はその気持ちを素直には受け取れない。
「分かってるけどよ……」
フラれてしまった俺に北城との幸せな未来なんてものはもう存在しないのだけど。
「俺、まだ北城の事を諦められないんだ」
俺の気持ちはまだ変わる事は無かった。
「……ま、数十分で恋心が消えるのもどうかと思うしな。それでいいと思うぜ」
「ああ、ごめんな、変なこと言っちゃって」
「良いって良いって。ほら、これでも食えよ」
と、原野がポケットから取り出しで俺に投げ渡したのは、小袋に包装された磯辺焼きだった。
「なんでこんなもん持ってんだ?」
「それ、ばあちゃんが好きでウチに大量にあるからな。時々もらうんだ」
「ふうん……」
包装を破り、磯辺焼きを口に運ぶ。
香ばしい醤油の香りとサクサクとした食感がたまらないけれど。
その味は、少しだけしょっぱかった。
相変わらずお題と全く関係ない話に。
状況説明だけで終わってしまっている感じが。




