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七不思議はここにいる

お題

『ポシェット』

『カルボナーラ』

『トイレ』


 放課後。

 ホームルームが終わると、僕はすぐに荷物をまとめて教室をでた。

 部活に向かう生徒は体育館やグラウンド、もしくはそれぞれの部室へと足を運ぶのだが、あいにく僕はどの部活にも所属していない。厳密に言えば一応将棋部に所属していることになっているのだが、幽霊部員である。

 そんな僕がどこへ向かうかと言えば、教室棟二階の一番西の男子トイレである。その男子トイレに並んだ五つの個室の中で奥から二番目の個室の中が目的地だ。

 と言っても、僕が用があるのはその個室の中ではなく、その奥だ。

 和式便所をまたぎ、壁に貼られたタイルのある一枚をぐいっと押し込むと、壁が横にスライドして空間があらわれた。


「よう」


 その小さな空間を一言でいうなら旧家の和室だ。

 敷き詰められた畳の中央に、昭和を感じさせる服装をした小学生のようなおかっぱの女の子が鎮座していた。

 その子は、肩からポシェットをかけて体に見合わぬ大皿でカルボナーラを食していた。


「……なんでカルボナーラなんか食べてるんだ」

「この前学食のメニューだったって聞いて、食べたくなったの」

「ああそう」


 鞄を壁際にどっかと置いて、座布団の上に腰を下ろした。

 この少女、見た目に反して大食らいであることはひとまず置いておくとして、自分の想像した物を自分の手元に出現させることが出来るのである。


「なあ、そのカルボナーラでもいいんだが、どうにか僕にも食べられるものを出すことは出来ないのか?」

「無理よ。なんでかは前にも言ったでしょ」

「……聞いてみただけだ」


 その理由は、少女自身も想像の産物だからだそうで、僕はその出現させたもの、つまりカルボナーラや少女に手を触れることすら出来ない。

 どうしても僕がそれを食べたいのであれば、僕自身も同じ存在になるしかないのだとか。

 さすがにそれは遠慮させてもらう。

 さて、僕が何故ここにいるのかといえば、僕のどうしても叶えたい願いをかなえるためにこの少女の力が必要不可欠であるからである。

 だから、こうして足しげく毎日この隠し部屋に通っているというわけだ。


「それで? 何か進展はあった?」

「……その前に、いつものがあるでしょ?」

「はいはい」


 少女の催促に対して、僕は鞄からあるものを取り出して少女に渡す。

 今日の昼休みの間に摘んでおいたカキツバタだ。


「ん、ありがとね」

「……まあ、お前の力の源だしな」

「うん。あたし、()()()()()だけど、命あるものは作れないから」


 少女は、受け取ったカキツバタを何のためらいもなく口へと運び、丸呑みした。


「それで、進展だけど……あったよ」

「本当か!」

「うん、その、君の友達がいなくなったって言う桜並木について、妙な噂を聞いてね。多分、これで君の友達を助けられるよ」

「そうか……やっと、やっとか!」


 僕の友達は先月末、突然いなくなってしまった。

 僕の目の前で、陽炎に消える様に、まるで神隠しにでもあったかのように、だ。


「……助けないとね、彼が『七不思議』になっちゃう前に」

「もちろんだ」


 ちなみに、この少女の名は花子だ。

 そう――トイレの花子さんとは、彼女の事である。

なんか前々回と似たような感じに……。

ほぼトイレからの発想。

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