遠い世界からこんにちは
お題
『おみくじ』
『触覚』
『宇宙船』
思えば、今日は朝からついていなかったように思う。
いつものように私を起こしてくれる目覚まし時計は壊れて音を奏でなくなっていたため、今日は朝食を抜く羽目になっていた。家を出る時にちらりと視界に入ったリビングのテレビは、私の星座が最下位であることを告げていた。
登校中の電車の中でスマホのアプリで引いたおみくじは初めて見る大凶だったし、昨日の雨でできた水たまりに足を取られてしまった。まあ、最後のは私の注意不足もあるのだけど……。
とにかく、何が言いたいかと言えば、今日の私はすこぶる運が悪かったというわけだ。
だから、こんな目に遭うのも仕方がないのかもしれない。
こんな――クラスメイトが宇宙人だった、と言う事実を知ってしまったのは運が悪かっただけなのだ。
事が起こったのは、昼休み。
案の定トイレットペーパーがなくなるというトラブルを何とか乗り越えて、トイレから出てきた私の視界にクラスメイトが映った。あ、トイレットペーパーは普通に隣にいた人に頼んだから。別に変な事はしてないから。
そう、で、そのクラスメイトの話。
そのクラスメイトは、まあ端的に言えば浮いていたのだ。クラスの中で唯一の赤い長髪のその女子は、明らかな校則違反にも関わらず先生に注意を受けている所を見た覚えはない。先生ももしかしたらすでに諦めているのかもしれないけど。
さらに、彼女はクラスの誰かと話している様子はない。常に孤高であり、他のクラスメイトもそれが当然のように過ごしている。まあ、私も別に話しかけた事は無いけど……まあ要するに、ミステリアスとも言えたのだ、彼女は。
で、視界に彼女が映っただけなら特に問題はないのだけど、問題は、その彼女の行動にある。
触覚のようなアホ毛を一本ぴょこぴょこと跳ねさせながら、彼女は屋上へとつながる階段の方へと向かっていったのだ。あんなところに行っても何もないのに。
というのも、ウチの学校で屋上に出るなら、別に三つの階段を使わなきゃいけない。それぞれ別に屋上に出るのだが、何故だか、一つだけ屋上に出るドアにカギがかかっていて屋上には出られないのだ。つまり、踊り場で行き止まりになる。
彼女が昇って行った階段こそが、その行き止まりになる階段だったのだ。
疑問を覚えた私は、彼女の跡をつけることにした。どの道用事なんかなかったし、彼女が何を考えているのかが気になったからだ。
とはいえ、ある程度の見当はついていた。
校内に自分が心を落ち着かせて過ごせる空間を持っている生徒というのは、想像しているよりも案外多い。トイレだったり、部室だったり、屋上だったり、図書室だったり。
もっと言えば、その人の特等席になっている場所もある。どこかにある資料室なんかは、とある先生がずっと占領している、なんてうわさも聞いたことがある。まあ、それはさすがにガセネタだろうけど、火のない所に煙は立たぬとも言うから似たような話はきっとあるのだろう。
きっと、彼女も行き止まりとなっている踊り場が彼女の個人的なスペースになっているのだろう。あんなところ、普通なら人も来ないだろうから一人だけの空間になる。
だから、ちらっと覗いて彼女がそこにいるのを確認したくらいで引き返そうと、そう思っていた。
けれど、事実は小説よりも奇なりと言うか、そこに彼女の姿は無かった。
ドアにはカギがかかっているはずだし、彼女の姿を見失ったわけもない。
おかしいな、と考えて踊り場まで行った私は、なんとなしに屋上へとつながるドアのドアノブを捻ってみた。
ガチャリ。
――開いている。
私は校内の探索が割と好きな方で、この踊り場にも何度も訪れている。けれど、ここのカギが開いていることなんて一度もなかった。
先生か用務員さんがカギをかけ忘れた?
でも、かけ忘れるためには一度カギを開けなければならない。何のためにここのカギを開けるんだ?
そして、彼女がここにきたと言う事は、きっと彼女はここのカギが開いていることを知っていたのだ。
いろんなことを訝しみながらも、私はドアを開けた。その先に広がっていた光景は――
「あ」
「え?」
その名をきけばだれもが思い浮かべるようなテンプレート的な宇宙船。と言うよりも、灰皿をひっくり返したようなその宇宙船は、UFOという表現のほうがきっと的を射ていることだろう。
そのUFOに、今まさに乗り込もうとしているミステリアスな彼女がそこにいた。
ひたすら主人公のモノローグで。
お題に『モノローグ』出てないけど。




