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その嘆きに価値はない

お題

『自然』

『コーヒー』

『海』

 夏の日差しは弱まることを知らず、もう放課後だというのに、教室には明るい光が尚も差し込んでいた。

 殆どの生徒はもう部活に行くか家路についており、どの部活にも入っていないくせにだらだらと話し込んでいる俺達三人だけが教室に残っていた。


「そういえばさあ、来週だっけ? 林間学校」


 自販機で買ってきた缶コーヒーを飲みほした雨音(あまね)がそう切り出した。

 スマホでネットサーフィンをしていた笠野(かさの)がそれに答える。


「そうそう。来週の水曜から」

「行きたくないなあ……」


 やけに憂鬱な表情の雨音。

 まあ、その気持ちも分からないでもない。


「雨音が行きたくないのって、虫がいるからだろ?」

「そうに決まってるじゃん」

「男のくせに虫が嫌いなんて、情けない奴だな」

「うるさいな、苦手なんだからしょうがないだろ! なんでわざわざあんな虫の王国みたいな所に行かなきゃいけないわけ? ほんっと学校の考える事って意味わかんないよね」

「確か……『自然とふれあい豊かな人間性を育むのが目的』だったっけ」


 数日前に配られた林間学校のしおりにはそう書いてあったと記憶している。


「まったくさあ、ちょっと自然と触れ合ったって人間性なんか育つワケないじゃん! 少し考えればわかる事なのに、なんでわかんないのかな!」

「まあまあ……先生たちも、こんなこと真面目に考えてるわけじゃないだろ」


 その笠野の意見に関しては、俺も賛成だ。

 この林間学校は毎年の恒例行事であるし、生徒からもそれなりに人気のある行事だ。実際に、昼休みの時間、教室に残っていた女子連中の話を聞けば、やれ肝試しが楽しみだのやれ告白をするだのときゃいきゃいと騒いでいた。

 学校側としても生徒の絆を深めるためにやりたい行事なのだろうが、何の理由もなくイベントは起こせないだろう。


「行くんだったら海にすればいいのに。クラゲやらはいるかもしれないけど、林間学校よりはよっぽどマシだよ」

「それは俺が困る」


 雨音の挙げた代案に俺はたまらずツッコミを入れた。


「俺は泳げないから海なんて行ったって楽しくないだろ」

「泳げないなら泳げるように練習すればいいのに……海なら浅い所もあるんだから」

「なんでわざわざそんなことしなくちゃいけないんだよ。生きていくのに泳げるかどうかなんて関係ないだろ?」


 そんな俺の主張に反論したのは、スマホをポケットにしまった笠野だった。


「いやいや、泳げるかどうかって結構大事だろ。船とかが沈没した時とか、生き残れるのは泳げる奴だけだぜ?」

「俺はそんな沈没するようなしょうもない船には乗らない」

「何言ってんだ。あの豪華客船、タイタニックですら沈没したんだぞ。沈没しない確証がある船なんかないだろ」

「じゃあ、俺は船に乗らない」

「強情だなあ……じゃあ離島にはどうやって行くんだよ」

「離島には行かない」

「笠野……悪いけど、僕も離島に行くシチュエーションは無理があると思うな……」


 そう言って呆れ顔になる雨音。


「いやいや、分かんねえって! もしかしたら、謎の人物から手紙が来て離島に招待されるかも……」

「俺達は名探偵じゃねえんだからあるわけねえだろ」


 笠野の妄言をぴしゃりと一刀両断する。


「ま、海でも山でもどっちでもいいわ。そもそも俺インドア派だからこういう行事自体面倒だし」

「でもさ、せっかくだったら楽しみたいじゃん」

「……まあな」

「彼女の一人でも出来たらいいんだけどな~」

「……そりゃ、無理だろ。俺達にはさ」


 モテない男三人衆の嘆きが、ガランとした教室内に消えていった。

モテない男同盟ここにあり。

でも、書かなかったけど雨音は多分女子人気は高い方。

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