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夕暮れの摩訶不思議

お題

『背伸び』

『充電器』

『密室』

『体育館倉庫の入り口は古くなってるから、強く閉めるとカギがかかるから気を付けろよ』


 そんな、体育教師からのありがたいお言葉を思い出したのは、俺がこの体育館倉庫に閉じ込められてからだった。

 授業終わりに、先生から体育で使った道具を仕舞うように指示されてやってきた。そこまではいいが、倉庫に入ってすぐにドアをバン!と閉めてしまったのが運の尽き。

 焦ってガチャガチャとドアノブを捻るが、一向に開く気配はなかった。

 とりあえず、道具を棚にしまい、どうしたもんかと考えながらマットに腰を下ろす。

 この体育館倉庫は現状密室状態である。

 入り口はカギがかかっており、老朽化からか内側からカギを開けることは出来ない。わざわざ倉庫の中に入ってカギを閉める奴などいないから壊れていても問題ないだろう、と思って学校側は放置しているのかもしれない。さっさと直してくれればこんな事にはならなかったのに。

 他にある窓は、入り口の反対側の壁に小さな窓が一つだけ。緩やかに傾きだした西日が差しこんでいる。

 カギは内側から空きそうだし人間がギリギリ通れるサイズに見えるが、あまりにも高い所にあるのであそこからは出られそうにない。


 とはいっても、絶望するほどの事でもない。

 さっきの体育で今日の授業はお終いだが、この後にはホームルームがある。そこで俺がいないとなれば、さすがに探し出すだろう。

 そうなれば、体育委員の俺が体育の片づけを命じられてここに来ることは予想が付くだろうし、きっと探しに来てもくれるだろう。

 あまり焦る必要はないかもしれないな。





 ……。


 …………。


 ………………。


「遅くないか!?」


 あれから、30分ほどが経過した。

 ホームルームで俺がいない事などとっくに気づいているだろうに、何故誰も助けに来ないんだ。


「……とにかく、自力で脱出するか」


 もう外部からの助けは諦めて、自分で脱出するほかにない。

 改めて周りを見渡すが、ドアの破壊以外にここから脱出できるとすれば、それはきっとあの小窓だけだ。

 普通にすればあの窓へは届かないが、マットや跳び箱といった器具を使えばもしかしたら脱出できるかもしれない。

 他に何か使えるものが無いか、棚を漁ってみる。

 見つかったのは、ビブスやストップウォッチに野球ボールにテニスラケット……体育関係の道具が所狭しと並んでいるが、脱出には使えそうもない。

 もっとよく探してみると、


「あ? なんだこれ?」


 体育館倉庫には似合わないものが出てきた。

 漫画にゲーム、ポテチにスマホの充電器まである。


「なんでこんなもんがここに……」


 まるで、誰かの個室のようなラインナップだ。


「……充電器だけあっても、スマホが無けりゃ助けは呼べないんだよな」


 当然俺は体育の授業が終わってすぐにここに来たため、スマホなんて持ってはいない。

 とにかく、ここにこんなものがあるということは、もしかしたらここは誰かが常用しているのかもしれない。

 ……もう少しだけ、待ってみよう。






 待ってはみたものの、誰も来やしない。

 やはり、自力で脱出するしかなさそうだ。


「ったく、こんなことしてたら日が暮れて……ん?」


 そこで、何かおかしいことに気づく。

 部屋に差し込む西日の角度が、この倉庫に入った時からまったく変わっていない。


「な、なんで!?」


 あれから、もうすぐ一時間以上が経過しようとしているはずなのに、日差しの角度が変わらないなんて、どう考えてもおかしすぎる。

 これじゃ、まるで時間が――。


「……出ないと」


 跳び箱をずりずりと引っ張って、小窓の真下に移動させる。ためしにその上に載ってみるが、まだわずかに届かない。

 仕方がないので、さっきまで腰を下ろしていたマットを折り畳み、跳び箱の上に乗せる。

 多少アンバランスだが、これでなんとか小窓に届くはずだ。


「……ぃよっと!」


 精一杯背伸びしをして、なんとか小窓の鍵を、そして小窓開ける。

 勢いをつけて体をあげ、窓から思い切り上半身を乗り出す。


「うおっ」


 小窓の高さを考えればすぐに思い至ったのだが、窓から頭を出してみるとここが意外に高い。

 ここまでたどり着いたはいいが、さあここからどうやって降りようかと思った瞬間、



「……お前、何やってんだ?」



 という同級生の間抜けな声がきこえてきた。

 声のする方を見れば、その同級生は着替えが終わったばかりのようで、怪訝な表情でこちらを見ていた。

 ……本当に、時でも止まっていたのだろうか。

 混乱する頭を強引に落ち着かせ、そいつに声を返す。



「あー……とりあえず、先生を呼んで、倉庫の鍵を開けてくれるようにたんでくれないか。大至急で頼む」

背伸び(物理)したいお年頃。

充電器の登場と、同級生が助けに来ない理由をこじつけたらこうなった。

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