BLOOD LINE TEMPEST〜満月は惨劇の全てを眺める〜
そう、全てはあの時失った
取り戻せない
それは解かりきっていた
幼い自分ですら、それはわかっていた
「レーン、おいで」
母親に呼ばれて少女は笑顔で駆け寄った
「かーさま」
飛びついて頬をこする
ここは蒼国の中心にある花畑
レーンはよく、この花畑に遊びに来る
その時はいつも母親が一緒だ
蒼国上級貴族であるレーンの家系は有能な人物
すなわち<英雄>とされる人物が多く存在する
レーンの父親も、英雄といわれている
日はすでに傾いている
「レーン、かえるわよ」
母親が立ち上がった
「うん」
レーンもそれにつられて立ち上がる
屋敷は蒼国の首都にあった
高層ビルが立ち並ぶ中に豪邸が一つ立っている
この高層ビルのほとんどがアトミックコーポレーションだ
「今度はいつ、遊びに行くの?」
その言葉に母親は笑顔で答えた
「いい子にしていたら、またすぐに行きましょうね」
「うん!」
レーンは物心つく前から英才教育を受けていた
なので、まだ8歳にもかかわらず屋敷の使用人顔負けの知識をもっている
空が割れた
灰色の線で夕焼けの空は分断され
後方のビルは爆発炎上した
「きゃ!」
レーンは母親の胸の中に飛び込んだ
頭を抱え、小刻みに震えている
空気が震えている
それはミサイルの音
人々の悲鳴、又は断末魔
崩れ落ちるビルの残骸が霧のように世界を覆う
「奥様!お嬢様!こちらでございます!!」
家中が車の二人を誘導する
目の前にミサイルが落ちた
悲鳴をかき消す音と炎の中に屋敷が包まれた
「!!!」
レーンは目の前で人が焼けるのを見た
それは永遠に心に刻まれる
「あなた!あなた!!」
母親がレーンを置いて屋敷に走った
「かあさま!!」
レーンは叫ぶ
しかし、その声は様々な声に飲み込まれる
次々にミサイルが飛んでくる
もうワケがわからない
しかし、一発の銃声がハッキリ聞こえた
否、一発ではない
何発も何発も聞こえる
その音の中、母親に紅い水が降り注ぐ
「かあ・・・さま?」
声が思うように出ない
「かあさま!!」
思いっきり声を出して駆け寄る
しかし、レーンは母親の元にたどり着けなかった
2つ目の爆弾がまたは巨大な銃弾が屋敷に直撃した
屋敷は爆発した
その衝撃でレーンは吹き飛ばされた
そして、吹き飛ばされる中
少女は母親が瓦礫に飲み込まれていくのを見た
満月が劫火の中で見えた
「ぁ・・・さま・・」
「かぁ・・・さま」
揺らぐ炎を少女は見つめる
その手前に瓦礫の山がある
一機のSPが飛び出してきた
両腕に銃口が付いている
それはACの機体、ガンボーイだ
写真でレーンは、ACが所有する全ての機体を見ている
ガンボーイが瓦礫の山を通り越して行った
「ぁ・・・」
ガンボーイの通り過ぎた後で見た瓦礫の山は、よりいっそう存在感をだしている
「ぁあ・・」
涙がコンクリートの地面に落ちた
「ああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
叫ぶと同時に黒い闇が少女を包み込んだ
いつの間にか夜は明けていた
目の前には崩れたビルや人の死体が散乱している
銃声が聞こえる
まだ戦いは続いているのだろうか
「あ・・・」
レーンと都市が変わらないほどの子供が泣いている
「うわぁぁぁぁん!!!」
その子供は激しく泣き叫ぶ
しかし、一発の銃声と共にその声は途切れた
少女は初めて、惨劇の真ん中に居ると気づいた
銃を持った兵士が見える
その銃は、今まさにレーンを撃とうとしている
しかし、その銃は地面に落ちた
瓦礫の隙間から女性が走り寄ってくる
解かっていた
あの時間は取り戻せないと
でも
あの時間と同じ幸せは、また得られる
しかし、あの時に居た愛しい母は永遠に帰ってこない
でも
今、周りには、愛しい人たちが居る
BLOOD LINE TEMPEST
レーンの過去です
この話が大きく反映されるのは第二章の後半です
わかる人にはわかると思いますが、今回のこの襲撃にはいくつか矛盾点が存在します
まぁその全容は本編で!
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