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自力でなんとかしてみた の巻

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子供を見つけたのはたまたまだ。


最初は火竜の食べ残しの動物の死骸だと思った。ボロボロで血だらけなので。

普段なら火竜のテリトリーには入りたくないので、獲物に近寄ったりはしない。だかその時はたまたま死骸のそばに貴重な薬草があり、それを取ろうと近寄った。

そうしてそれが子供であること。生きていることに気がついた。

ウメは魔法協会に登録した魔女なので、意味なく人を傷つけられない。さらには傷ついた人を見捨ててはいけないという規律を背負っていた。仕方なく連れ帰って治療した。

顔は原型をとどめないほど腫れ、内臓にも炎症があった。手足の骨は折られていた。

あそこに捨てられたのは火竜の餌にするためだろう。火竜が留守だったのは幸運だった。


結論から言うと、子供は淫魔だったので、規律の保護対象ではなかった。子供を殺そうとしたやつは、ご丁寧にも大半の魔力まで抜いていたので分からなかった。

子供相手にここまで悪意に満ちたやり方をするなんて、一体どんな悪魔なんだろう。

万が一命が助かったとしても、この子供に救いはない。

拾ったのが悪人なら奴隷商人に売りつけるだろう。淫魔は娼館に高く売れる。子供は弱く調教しやすいと言われているので、尚更売れるだろう。

そうでなくても、子供なら使役魔として服従させてることだって出来る。魔術師や魔女なら、人型で知性の高い淫魔を使役する事をステータスとして、喜んで調教するだろう。


しかしウメは、とにかくめんどくさがりだった。

知性の高い魔族の調教とか、マジだりー、と思ったし、こそこそ奴隷商人と連絡取り合ったり金銭交渉したりとか、超めんどい。と思った。


それに・・・・ちょっとだけ同情もしていた。

ウメ自身捨てられた身だが、師匠のお陰で飢えも恐れもない子供時代を過ごせた。手に職も付き、なんとか一人で生きていくこともできるようになった。

この子の過去がどうだったか知らないが、今は最悪の状況だし、これからも楽とは言えない子供時代になるだろう。

面倒臭がりのウメがこんなとこまで来たこと。

ありえない偶然から彼を助けたことには何か意味がある気がした。


というわけで、少しだけ面倒を見てやろうと思った。

ある程度回復したら街に薬草を卸に行く時に連れていき、役所まで連れてくぐらいはしてやろう。役所ならば淫魔とはいえ保護してくれる。そう思ったのだ。


拾った子供が目を覚ましたのは3日目の深夜だった。

色々聞き出そうとしたが、虚ろな目を空に向けたまま、声もなくただハラハラと涙を流す様に聞き出すのを諦めた。


薬湯を飲ませて眠らせる。次に起きたのは5日目の昼。起きたというよりウメが起こした。

流石に薬湯だけでは体が持たないかもと思ったのだ。

どうにかこうにか重湯を飲ませ、傷の手当てが終わるまで話しかけ続けて眠らせない。濃いめの薬湯を飲ませて数時間眠らせる。

そしてまた夜間に起こして重湯。

少しづつ重湯からお粥へと移行しながら7日が過ぎる。

10日目には上体を起こして、柔らかめの果物まで食べられるようになった。

何本か歯が折れてしまっていたので手足と一緒に魔法で治療したが、本来の歯根に根付くまで硬いものが食べられないのだ。


「明日か明後日にはもうちょっとまともなの食べられるからね。我慢してね」

「ふん。こんなボロ屋にまともなものなんかあるわけ無い」

「ボロ屋っていうな。ボロいけど・・・。それより、もういいの?あんまり食べてないね。淫魔の子供も食物から栄養を補給するって書物にはあったけど。やっぱり魔力補給いるのかな?」


そう尋ねると、拾い子は少し頬を染めてモジモジし出した。

眉間にシワがよっている。怒っているようにも見えるが、多分照れてるのだろう。


淫魔でも下話で照れることあるんだ。


「やっぱ違うのか。あいにく魔女とはいえ処女なんでそっちの栄養補給はできないんだよね。魔力回復した方が体も早く治るんだろうけど」

「お前みたいに色気のないツルペタは、こっちが願い下げだ・・・」


攻撃魔法の呪文が脳裏をよぎる。

耐えろ。相手は子供だ。


生意気な口を叩いているが、顔色は悪く指先は震えている。

どこかが痛むか低魔力状態なのだろう。

淫魔の子供どころか、成体すらその生態は詳しくはわかっていない。

お師匠から譲り受けた書籍は国宝とも言えるほど博識なものだったが、それでも『淫魔の幼体は、人族と同じ飲食にて体を生成できる。しかし、その魔力を製するに当たっては成体のまぐわいにより生じる淫汽または汽水を糧とする。』としかなかった。


そっち方面にはとんと疎いので良く分からないが、いわゆる大人の行為で魔力を回復させるらしい。

ウメの回復魔法と言っても、骨を繋いだり炎症を抑えたりしかできない。本来なら魔族は回復力が高いので、この子供の魔力さえ戻れば、長々と痛い思いをせずとも自力で回復できる筈なのだ。


「馬車に乗れるようになればねぇ。花街まで行けるんだけど」

「面倒なら放り出せばいい」

「せっかくここまで回復さたんだよー。放り出すわけないじゃん。もう少し回復したらお役所まで連れてったげる。それまではちゃんと面倒見るよ。安心して治しなよ」


子供は見た目は就学児(12歳)にもなっていないようだが、しっかりした話し方や振る舞いを見ると、もう少し上かもしれない。

殺されかけたのは別として、最近までそれなりに大切に育てられたように見える。

言葉遣いは上流階級。傲慢な感じや語彙からは貴族っぽい感じも受ける。

治療をした身体も、栄養が足りていないというところは見られなかった。知能は高そうだし知識もありそうだ。学校かどうかは分からないが教育は受けている。

育ちが良く、希少種で魔族の中では比較的位の高い淫魔の子供が、なぜあんな姿であんなところに?


まぁ、考えても仕方ない。助けると決めたのだし、後のことは役所がなんとかするだろう。


暗い顔で俯く子供の頭をポンポンと撫でる。

するとおずおずと頭を寄せてきたので野良猫を抱きとめる要領で頭を抱えてやった。

子供は抱きついては来なかったが、ウメの袖をギュッと握った。


あんな態度をとっていても不安で辛かったのだろうなぁ。ツルペタ発言は忘れてやろう。





「微熱も下がってきたね」


先の安心が得られたせいか、子供の回復は早まり13日目には自分で体を起こせるようになり、短い時間だが本などを読んで過ごせるようになった。

今も魔術書が面白いらしく読みふけってしまっている。

会話だけでなく、人間の文字がわかるかを試すつもりです与えたのだが、普通に読めている。人に育てられたのか、人族の言語を学んだのだろう。


「お手洗いぐらいなら自分で行けるんじゃない?行ってみなよ。そろそろ歩かないと」

「嫌だ。・・・・したい」

「あ、おしっこ?もー、これっきりだよー。次は早めに自分で行くんだよー?」


ウメは尿瓶を持ってくると、ブランケットをばさっとはね上げて子供の下着を下ろそうと掴んだ。


「いいっ!自分でする!」


今更照れるのか?と思ったら怒っているようだ。

一体何なんだ。子供の扱いは難しい。



15日目には一人で歩けるようになった。疲れやすく弱々しいが。

傷が回復してくると、ある問題が出てきた。

子供だからか淫魔だからか判断できないが、とにかくスキンシップが激しいのだ。

食事中はウメのは膝に座りたがるし、作っている間は腰に抱きついて離れない。自分で出来るくせに着替えさせたり体を拭いて欲しがる。ウメが身だしなみを整えてると手伝いたがる。

食材を取りに行くのにそばを離れると不安がり、怒ったり泣いたりと忙しい。

子供は甘えるものだとは思っていたので、大概のことは適当に合わせたり無視したり出来たが、その状態が続くと流石に疲れる。

食料もお金も底をついてきた。そろそろ乾燥させた薬草なりを街に卸して換金しないとだが、出掛けるに出掛けられない。


18日目にはとうとうギブアップした。


その日は朝から森奥の泉に呪具の素材を取りに行った。

朝が早いせいか子供は起きてこず、ウメも面倒なので起こさなかった。もちろん、朝食とオヤツ替わりの果物をおいてきた。

平民は1日2食だが子供は足りないのでオヤツがあるのだ。

素材は意外と豊富にあり時間を忘れて採取する。ホクホク顔で帰路に着いた頃には日は落ち、何時もの夕食時間ぐらいになってしまった。


これ売れば子供役所に連れてく前に服買って与えてあげれるな。(今はウメのお古を着てる)

あーでも夕飯の仕度めんどいなー。子供いるから果物で済ませるとかダメだしなー。あー、めんどーい。


そう思いながらの帰宅だったので、ウメの怒りの導火線は結構付きやすくなっていた。

戻ってきたウメに体当たりしてきた子供は、子供とは思えない程の語彙で罵ってきた。

子供に何かトラウマがあるのも承知しているし、置いていかれて長時間一人になった子供の不安はわかる。しかし、頑張って慣れない共同生活をしているのに、一方的に酷い言葉を投げ付けられれば、呑気なウメでも腹が立つ。


「明日、街に降りる。服も買ってあげるし食べ物も持たせる。だけど私が面倒を見るのはそこまでだから」


ウメがそう言うと、子供は真っ青になって静かになった。お互いこれ以上一緒にいても不満が貯まるだけだから、と嫌味たらしく続けようとした言葉は飲み込む。

しかし放ってしまった言葉は取り戻せない。胸のムカつきを摩って誤魔化しながら、項垂れる子供から目を逸らした。


「果物と薬、ここおいておくから」


疲れがどっと襲ってきた。夕飯作りは諦め、子供に声をかけて沐浴に近くの池に向かった。

酷いことをしているという後悔が胸を占める。可愛げこそなかったが、家に誰かがいる嬉しさも手放し難い。しかし一方では、家を空けることが多く怨みや蔑みの対象にもなりやすい魔女が子供と暮らすなど無理だと諦めもある。

そうこう悩んでいるうちに、池にかかる大木の枝の上で寝てしまった。

目が覚めたのは下腹にかかる暖かい重みにがついたから。


子供はウメの脚を開き、その間に体を置いてウメの腰を抱きしめるようにすがりついていた。

ウメが上体を起こすと更にきつく抱きつく。


「何か?どうしたの?」

「・・・ここに居させて」


絞り出すような声で子供が言った。

寝ぼけ頭のウメは一瞬混乱する。そして、ウメの突き放すような言葉が意図せず子供に恐怖を与えてしまったようだと理解した。


「さっきはきつい言い方をしてごめん。大人気なかった。放り出したり置き去りにしたりしない。ちゃんと保護所に入るまで見届けるよ。安心して」

「貴方のそばがいい」

「えーっと、それは無・・」

「どうかおそばに置いてください。失礼な態度は改めます。なんでも致します。・・・何をされても従います。お、お傍に侍る許しをください」

「あなたが怖がる気持ちはわかる。知らない場所は怖いよね。でも子供の世話なんて出来ないんだよ」

「子供ではありません。私は種族の中では成体と認められています」

「ええ!?それで!?いやぁ、でも人界では無理があるわぁ。役所も子供とみなすだろうし、独身ペーペー魔女に保護権は認めないと思うよ。君、淫魔でしょ?狙われる可能性もあるし、ちゃんとしたとこで面倒見てもらうべきだよ」

「花街に売られるのがオチです」

「それはないよ。君、字が読めるよね。言葉遣いも綺麗だし、魔族の中ではそれなりの位にいたんじゃないの?人界でもそこらへんは考慮されるはずだし。私もちゃんと落ち着き先見届けるからさ」

「・・・っ!」

「え?」

「どこに行っても厄介もに扱いされるんだっ!!」

「・・・そうされてきたの?」

「なんでもするって言ってるだろ!お前、処女っていったよな?魔女の癖に処女だなんて、魔力が完全に開放されてないってことじゃないか。俺が相手をしてやる!」

「はぁぁ!?」


子供はいったん体を離すとワンピース型の寝巻を捲り上げ、ウメが裾を抑える前に秘所に手を添える。


「気持ちよくしてやる。だから俺を傍におけ!」


下腹部から睨み付ける目は子供の目とは言い難いほどの迫力があった。しかもなんだか淫靡だ。

とはいえ、ウメとて一人で人に恐れられる森に済むほどには力のある魔女だ。相手は性別こそ男だが、まだ小柄な子供。

ウメが片手をひょいと振ると同時に、大木からするすると蔦が降り子供の身体に回る。

大人であれば腕力で引きちぎりそうな蔦だが、子供には手に負えないようだ。


「お、おい!」

「おいたはそこまで。」

「外せっ!気持ちよくしてやるって言ってるんだぞ!」

「いや、無いわー。子供に触らせるとか」

「子供じゃないっ」

「はいはい。しばらくそこで反省してなさい。お利口になったら家に入れてあげる」

「ばっ・・・!こんな格好で置いていくなっ、おいっ!」


ぷらんぷらん揺れる子供を置いてスタスタと家に戻る。

後ろ手にパタンと扉を閉めて・・・・


「あっぶねーーーーっ!何あれ!?体は子供で中身は大人って、なんの設定だっ!やばい、いつかヤラれる。同意の上でやられてしまう・・・・」


色気の漂う視線を思い出して、背筋がゾクリとした。


「なにこれ・・・」


恐るべき子供に背筋が凍ったのか、はたまた淫蕩な眼差しに酔ったのか。

いずれにしても、あの小悪魔は早く何とかせねば。

明日にでも街に連れてこう。そうだ。そうしよう。


「とりあえず、今夜はあのままでいいかな・・・・いや、ダメだよね。・・・縛りはアリだよね」


今夜を乗り切る方法を考えながら呟くウメ。超、いっぱいいっぱいである。



そしてウメの健闘が始まる。~冒頭へ戻る~

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