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お役人さんに何とかしてもらおう の巻

『子供の淫魔拾いました。誰か貰って下さい。

たぶん10歳ぐらい。』


真っ黒なローブをきた魔女が役所の掲示板にチラシを貼っている。それを見ていたイアンは、ため息ついてカウンターを出た。

すっぽりとフードに覆われた小さな頭をスパーンと叩く。


「いたーっ!!」

「何やってんだ、お前は」

「貰い手探しです」


頭を押さえつつ振り返ったのは、おどろおどろしい古ぼけたローブに反し、若い女だ。

この町に数年前から師匠と住み着いた魔女だ。師匠はどこかへ出て行ったが、弟子は残ったらしい。

師匠は魔女らしくボンキュッボンだったが、こちらは顔も身体もおうとつに乏しい地味な魔女だ。


「猫の子じゃねーんだ。んなもんで里親探すな」

「ええ!?でも仲介屋雇うお金とかないし。これだったら対面でやり取りできるじゃないですかー。一応保護した手前、里親先とは面識作っときたいですしー」

「阿保か。里親が拾い主と会いたがれば面識作りもあるが、普通は会いたがらねーよ」

「なんでですか?」

「恐喝されるかもしれねー相手と顔会わせたいと思うか?」

「えー。しませんよ。そんなこと」

「お前がどーって話じゃねーよ。とにかく、書類作って受付してって、ちゃんと手順を踏んでやれ」

「そんな悠長な!!早く追い出さないとあいつやたらと手間もお金かかるんですよー!不可抗力で後生大事にとっといた貞操も危ういし・・・・」


泣き叫びながらすがり付いてきた。最後はボソボソとして聞き取りづらかったが・・・。

それを引き離しながら周りを見渡すが、淫魔の子供は見当たらない。


「で、肝心の子供はどこにいるんだ?まさか、お前の家においてきたんじゃねーだろーな?」


コイツならありえる。

知る限りでは子供どころかペット、いや使役魔すら飼った様子がない。

この魔女、ウメというが、の家は冒険者でも安易に近づきたがらない森にある。

本人曰く、年頃の乙女の防犯対策らしい。確かに盗賊などからは守られるだろう。だが大昔のトラップ(呪い)がそこかしこにあったり、獣や知能の低い魔物がうろつく森に住む乙女がどこにいるっていうんだ。

そんな森だからこそ淫魔の子供なんて拾い物をしたのかもしれないが、魔族だろうと子供を一人にさせていい場所ではない。

それに何より保護対象の子供、拘束した人族以外の生物、魔道具などは役所に届け出る義務がある。それぞれ扱いが異なるので、魔族の子供がどれに該当するのかちょっと悩むが・・・・。

まぁ、それはともかく掲示板で里親探しなどはもってのほかだ。非常識なウメが知っているとは思えないが。


「あの悪魔は娼館に預けてきました。イゾルデさんのとこですよ。ほら、同じ種族だし。魔力低下もあったんで。でも・・・・お金取られるんですよーー!保育料にあんな額搾り取られたら、生きていげばぜん~」


最後は号泣しながら床に崩れ落ちる。


「悪魔じゃなくて淫魔だろ。よりにもよってイゾルデなんて。そりゃぁ街一番の売れっ子に子守頼んだんじゃ金かかるだろ」

「他にサキュバスとかの知り合いとかいないしー!1時間で1000ペソー!なんどがじでーーー」

「まあなぁ・・・拾い子は役所に届ける決まりだが、うちにも淫魔の子供みる施設は流石にねぇなぁ。暫く拾い主が面倒みるしかないよな」

「ぞんなぁ゛」

「拾っちまったもんは仕方ない。保護手続きと親探し、受け入れ先探しは協力するから、見つかるまでまぁ頑張れ。おまえなら真面目に働けば淫魔の一人や二人養えるだろ」


絶望の色を浮かべるウメの目を見ないまま言い切る。

ウメは非常識だし不真面目でやる気の欠片も見せたことがないが、当代一の魔女と呼ばれた女の一番弟子だ。ギルドの最高金額の依頼も受けれるし、宮廷からの依頼だってこなせる。

こうして気軽に城下街をふらふらしているが、本来なら宮廷魔女にだってなれるだろう。そうなれば城内に居住出来る。危険な森にすむ必要などないのだ。

・・・もしもウメが望めば、であるが。


「できるだけ急いで受け入れ先見つけてやるから、とにかくまずは書類作るぞ」

「はひぃ」

「見つけたのはどこだ?」

「火室の森の火口近くです」

「なんでそんなとこに行ったんだ・・・・」

「いやぁ、しばらく森を離れてたんで見回りに」

「見回りに小国並みの広さの森を一周すんのか、お前は」

「えへへ」

「・・・どうせ禁止されてる採取区にでも行ったんだろ。で、拾ったのはいつだ?」

「20日前です」

「おまっ!!20日も届け出なかったのかよ!!」

「すびばぜーーん!!遠かったんですよー。疲れてたしぃ。怪我してたしぃ。色々あったしぃ」

「イラッとくるから語尾を伸ばすなっ(ゴツッ!)」

「いでっ!!は、はひぃ」

「で、拾った時の状況は?」

「瀕死でした」

「てめぇ!!(ドスッ)」

「ゲフゥ!!ちょ、え!?いやっ!おかしいでしょ!?鉄拳おかしいでしょ!?私、命の恩人ですよ!?手当したの私だし!あ、そうそう。それで怪我人を早々には動かせないしぃ、ほっとけないから届け遅れたしぃ」

「後半は嘘だっ!話盛んな!!(ガッ!)」

「ぐはっ!!・・・・こ、これでもか弱い婦女子なのにぃ」

「けっ、腐女子が」

「悪意に満ちた変換!?」

「で、子供の怪我とやらは襲われた怪我か?」

「スルー!まぁ、想定内です!えっと、怪我は多分暴行を受けた結果ですね」

「獣じゃないのか?」

「打撲痕などから判断するに、人か人の形態がとれる種族によるものですね」

「・・・虐待か?淫魔は部族ぐるみで子育てするって聞いたことあったがな」

「ですね。普通は成人、淫魔の場合は男なら精通。女なら初潮を迎えた後、自力で栄養を取れるまでは部族内で大切に養います」

「ならなんでだ?」

「考えられるのは放逐。つまり犯罪を犯すかなにかで私刑を受け捨てられた可能性です。単なる親の虐待なら部族の大人が止めるか引き取り世話をします。淫魔は出生率が低いですからね」

「子供が放逐は・・・・。で、本人はなんて言ってるんだ?」

「名前も生まれも、怪我の理由すら話しません」

「ふむ。となると本来の親は見つからない可能性が高いな。一応迷子の通達は出しておくが、里親探しの手配も進めとくか」

「そのほうが良いですねぇ」

「年は10歳?性別は?」

「男です。顔つきは幼いけど話し方とか振る舞いは大人びてるので意外と14、5歳ぐらいかもですね。淫魔は成人までの成長が早く老いが遅いらしいですよ」

「へぇ。羨ましい話だな。よし、ちょっと待ってろ、これまとめて申請書作ってくるから。本人にも調書取るから、書類起こしたら昼飯でも食って迎に行くか」

「はぁ?昼ぅ?待てません!あぁぁ!!もうすぐ子守時間終了です!追加料金取られちゃうから引き取りに行かないと!!さぁ行きますよ!さあさあ!!」

「ちょ、待っ・・・!!」

焦り出した守銭奴に腕を引っ張られる。舌打ちしつつ、まぁ実物見とかないとだしなと諦めて、イアンは娼館へとむかった。


娼館は下町にあるので役所からは遠いのだが、ウメの強引な先導で意外に早く着く。

ここで待ってろと言われ、待合室らしきところに止め置かれる。支払い客しか部屋には入れないらしい。

しばらく待つとウメが青年を連れて降りてきた。子供の姿は見当たらない。

(・・・・は?子供?どう見積もっても15は超えてるだろ?)

子供と言うより青年は、ウメの左に立ち左手で左手を繋ぎ、右手はウメの肩に回すという絡まりぶり。

長い脚も絡めたいのか、時折ウメの短い足の間に差し込むものだから、ウメが転びそうになっては青年の腕が支えると言う、不効率な歩き方になっている。

(おいおいおい。これは保護対象の子供って括りじゃないだろう・・・・。明らかにウメを異性として、つーか捕食対象としてみてるよな?)

確かにあどけない顔をしているが、どちらかと言うと甘い顔立ちと評するのではないだろうか。ウメの幼いという表現は相応しくない。

淫魔は容姿が整ったものが多いというが、まさに素晴らしく整っている。若いながらも均整のとれた肢体は、既に色香を放ち、子供でしかも男だと分かっていても思わず誘惑されそうだ。

ところが、隣に立つウメときたら迷惑そうに繋いだ手を振り払ったり、押しやったりしている。何度もすがりつき直されているが。

あんな美しく艶めかしい生き物に触れられているというのに、ウメの感覚は一体どうなっているんだ。


その麗しい生き物は、イアンを呼ぶウメに反応して睨みつけてきた。

子供とはいえ魔物。しかも娼館で補給したのか魔力が戻っている。

イアンとて元冒険者。耐えることはできたが、子供の割に高い魔力と殺傷意志に足がすくんだ。


「お役人様ー。これが拾った子供です。なんかここに預ける前に比べてでかくなっちゃってるんですが・・・・」

「魔力回復させたから相応の姿になったのよ」


ウメの背後から麗しい女神が現れた。噂通り目が潰れそうな美しさだ。これがイゾルデか。貧乏役人のイアンでは一生お目にすることすらできない高級娼婦。

その一挙手一投足に滴るような色香が漂う。

へどもどと自己紹介をしている間に、ウメが拾い子の様子を確認している。


「へー!あ、ほんとだここも治ってる。良かったねー。おお!肉付きもよくなってる!魔力回復するとこんなに違うんだぁ」


殺気の上に、美貌と色香までもが倍増した室内において、なおマイペースなウメは、事もあろうに男のシャツをめくり腹をさすった。

滑らかな白い腰骨をチラ見してしまったイアンの方が心拍数が高まり、あらぬところが反応しそうになって困った。


べたべたと腹を触られた男はと見ると、嬉しそうにニコニコしている。その表情だけ見ると確かに無邪気で子供らしくも見えなくは・・・ない?


「連れてきた時は本当に10歳ぐらいだったんですよー」

「魔力を食べさせるために営業中の部屋に放り込んでおいたから」

「営業・・・?・・・ええ?!」

「イゾルデさん、それダメじゃないですかー?見た目おっきくなったけど、まだ子供なんですよね?大人の営み見せるのはまだ早くないですか?(私もみたことないですよ?)」

「淫魔の男は精通すると成体とみなされるのよ。この子もとっくに成体になってるわ。私の生まれた村は大体10歳くらいで成体になってたわね。淫魔の食事の風景なんて、この子は見慣れていると思うわよ?と言うか、きっと自力で食事出来るわよ。」

「・・・(確かにこいつなら女たぶらかせるな)」

「・・・(私、処女なのに。10歳が精通・・・)」


二人の葛藤に気付いた風もなく、イゾルデは白魚のような手で子供の顎を捉える。

子供は嫌そうな顔をしたが振り払うことはなかった。


「十分食事できたんじゃないかしら?無駄な力を使わなければ、暫くは魔力の食事は必要ないと思うわよ」

「よ、よかった~。通えって言われたらどうしようかと」

「ふふふ」

「えーっと、それじゃあどっかで飯食いながら調書取るか。ウメ、踊る雄山羊亭で良いか?」

「やったー!おごりだー!」

「奢りじゃねーよ!」

「お役人様、給料いいんでしょー?」

「ふざけんな。絶対にお前には負けてる!・・・って、言わせんな!」

「あらー。お二人は仲がいいのねー。無粋かもしれないけど、私もご一緒させてもらえるかしら?今日は賄いを食べ損ねちゃって」

「は、はい!イゾルデさんにはわたくしめがご馳走させてください!是非!」

「いやいや、イゾルデさんが一番稼いでるって!ここはひとつ、イゾルデさんじゃなくてわたくしめにご馳走してくださいよー」

「ウメちゃんの分は私が持つわよ。いつもお世話になってるもの。さっきはごめんなさいね。店で預かる以上は支払ってもらえってオーナーがうるさくて」

「あのオーナーうざいですよねー。お役人様、今度なんか仕込んどくんでガサ入れで絞めといてくださいよー」

「さらっと捏造宣言すんな。俺は警邏隊じゃねーし。・・・・てかお前、俺の名前覚えてなくね?さっきからお役人様って」

「や、やだなーっ!お役人様がカッコ良すぎて名前呼べないだけっすよー。よっしゃ、イゾルデさんの奢りなら思いっきし食うぞー!」

「じゃぁ、私の分はお役人様が宜しくお願いしますね。ふふ」

「は、はい!!・・・・あれ?」


イゾルデさんがウメ分を持って、俺がイゾルデさんの分を払うって事は・・・あれ?

俺の困惑をよそに、万歳しながら駆け出すウメ。両手を振り払われた青年が、思いっきり殺意を込めた目で睨んでくる。


ええっ!?俺!?俺が悪いの!?


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