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4、従者の失敗

 ここ三日、登下校は四人でしている。

 私と、アシュレイ。それからレイラ。あと何故か、アリシア・キャンベル伯爵令嬢。

 どんな風の吹き回しか、アシュレイが彼女の同行も頼んできた。登下校だけではなくて、昼食も。

 ミス・キャンベルはアシュレイに相変わらずべったりくっついている。変わったのはアシュレイの方。ミス・キャンベルに微笑みかけて、会話の最中にこやかに相づちを打つ。それだけでなく、彼女のことをアリシア、と呼んでいる。たった数日で一体何があったっていうの……。

 私の隣では、ミス・キャンベルと同じように私の腕にべったりはりついているレイラがニヤニヤしている。


「あーあ、あの性悪に寝取られちゃったんだ?」

「どこでそんな言葉を覚えて来るの。可愛い顔して……」

「いいんじゃないかな。俺たちは俺たちで楽しもうよ」

「小学生の男の子って何が好きなのかしら。サッカー?かけっこ?」


 ガキ扱いするなと言うレイラを宥めながら少し考える。


「まあ、私からしたら子供なのよね」

「俺は!もうトータル二十九になるんだからな!」

「ああ、いいえ、レイラのことではなくて…」


 アシュレイは知らないだろうけれど、私はもう別ルートから情報を得てしまった。だからこそ余裕でいられるのだけど……。

 また、随分と子供っぽいことをするから驚いてしまった。アシュレイにしては珍しい。……こともないかもしれない。昔から割と、大人みたく振舞ってもやっぱり年下だなあと思うことがあった。

 ミス・キャンベルと話しながら、アシュレイの視線が時折こちらに向くのを気づかないふりをする。この子はバレていないと思ってるんだろうなあ…。

 思惑に乗ってあげてもいいんだけど……それは少し悔しい。この子は私に意地悪しているんだもの。少し痛い目をみせてあげてもいいくらい。

 教えてあげないと。私はアシュレイのご主人様で、一枚上手な年上のお姉さんだって。




***




「こんにちはローナ。少しよろしい?」

「え?僕?アシュレイじゃなくて?」


 昼休みにアシュレイのクラスへ行くと、すでにミス・キャンベルと一緒にいた。これはむしろいい機会。

 よく考えれば今この時期だったら私が誰といようとアシュレイは文句を言えないし、私もローナと色々話したい。ゲームのことから普段私の見ていないアシュレイのことも。


「ええ。よければお昼、ご一緒してもいいかしら?アシュレイはミス・キャンベルとお話し中だし。それにほら、お昼を必ず私ととりなさい、なんてアシュレイに言ったことはないもの。今日は貴方とお話したい気分なのよ」


 少し言い訳くさくなっちゃったかも。まあ誰も気にしていないのでよしとしよう。


「えー…いやいやいや。彼氏持ちの女の子と二人でお昼って~」

「じゃあ貴方のお兄さんも巻き込みましょう」

「んー…それならまあ……」




In食堂。


「ええー、私的には最近だとルフアレがベストカップルね」

「違いますよお!その組み合わせならアレルフでしょう!アレクが攻めでルフレが受け。あ、でもベストカップルはアレグレ」

「この間まではねー!私も好きだったんだけど、貴方のお兄さんのおかげでキャラのイメージがねえ」


 あまり大きな声ではできない会話なのでヒソヒソやる。キャッキャする私とローナを、グレイ先輩は恨めし気に睨んでいる。


「俺を解放しろ」

「やだよ。僕一人で先輩と話してたら後でアシュレイが怖いんだから」

「俺を巻き込むなってんだよ!!せめていたたまれない会話をやめろ!」


 だったら混ざればいいのに。ねーっとローナと顔を見合わせる。まあ、先輩が入って来れないことはわかっているんだけど。


「そういえば貴方、一人称は『僕』に統一するのね」

「そうしないと今の性別じゃ生きづらいじゃないですかー」


 どこかの主人公にも聞かせてあげたい。最近じゃ隠しもせずに汚い言葉を使うんだから。あれじゃあ嫁ぎ先がない。いざとなれば……王妃様にしてもらえないかしら。フリューゲルも元々はレイラが好きだったんだし。

 今時王族で恋愛結婚なんて滅多にないだろうし。グレイ先輩やアシュレイがうまく手引きすればできなくはないかも…。そのレイラは今もフリューゲルとオズウェルにちょっかいを出して親睦を深めているし。


「だけど、ローナも大変ね。男色家として生きていけば、結婚はできないもの…」


 家は先輩がつぐからいいとしても、この世界はいずれの国も同性婚が許されていない。フリューゲルが王様になったら改善してくれればね…。そうすればローナもレイラも問題なく結婚できるのに。

 王位を継承するまで時間がかかるし、そこから法律を変えていくのも時間がかかる。

 グレイ先輩もやや同情の目でローナを見ている。


 のに、当のローナはケロッとしている。


「え?全然大丈夫ですよ。男でも女でも愛せますから」


 ……。


「ちょ!汚い!何噴いてるんですか!」


 お茶かけないでくださいよ先輩。


「ゲッホ!!…っ、これが冷静でいられるか!お前正気か!?」

「え。だって兄貴知ってるじゃん。あたしギャルゲもやってたじゃん」


あ、一人称が戻った。


「それで妹の性癖が曲者とまで疑うわけねーだろ!」

「そもそもね、性別に重きを置こうとするのが不思議だよ。顔が好みで相性のいい人なら惹かれるものじゃないですか?」


 私に同意を求められてもノンケだからなんとも……。ここまでくると清々しいわねーとしか。


「前世じゃ兄貴が悔しがると思って言わなかったけど、彼氏も彼女もいましたからね。同時進行で」

「うわ最低!!」


 二股のかけ方が究極すぎるでしょう!レイラもこれくらい器用に立ち回れたら、同性の恋人だってできたでしょうに。


「教育を疎かにしすぎじゃありませんか?」

「それはお前にもそっくり返してやろう。お前の従者、いつだったか風呂で俺に殺害予告してきやがった」

「それは……すみません…」


 あまり物騒なのはよくないって、あの子にも言ってはあるんだけど。アシュレイもローナも、ゲームのタイトルに合っている。血まみれの思考とか。


「目標は!ウッド先輩とコスグローブ先輩のダブルゲットです」

「あの二人には貴方に近づかないように言っておくわね」


 声高らかに二股宣言をされたら阻止するしかないじゃない。


「えー応援してくださいよー。折角乙女ゲームの世界なんですから、攻略してなんぼじゃないですか」

「貴方は攻略する側じゃなくてされる側じゃない」


 こっちはこっちで問題ありだ。性別を違えて生まれてくる子はどうして問題が多いのかしら。

 ……異性でも同性でもいいということは。


「あ…貴方…同室で、その、アシュレイの、き、着替え…」

「あー、がっつり見てますねー」

「わ…っ、私だって見たことないのに!」


 別に!別に別に別に見たいってわけじゃないけどね!だけど私じゃない人にアシュレイのは、だかを見られるのは複雑だ。

 それも、ただの同性じゃなくて、同性の裸を見て欲情できてしまう特別な性別のローナに。


「あれ先輩、想像しちゃいました?」

「してないわよ!」

「したな」


 たとえしててもしたなんて言わないし。気づいても、想像しましたかなんて訊くものじゃない。いいえ、想像なんてしていないけど。断じて。

 どうして今まで気づかなかったんだろうか。アシュレイとローナは同室。ローナの中身は女の子。特殊な性癖らしいけど。


「大丈夫ですよ。手出したりしないし、僕大浴場使って男の裸なんて見慣れちゃいましたから。むしろ今は女の子の柔らかい体が恋しいなーなんて」

「レイラのお仲間かしら」


 私もあまり近づかない方がいいかしら。


「僕は変態なんじゃなくてセクシーなんですよお」


自分で言うことじゃない。


「ちょっと待て!お前まさかと思うがこの間の長期休みで泊まりに来た男子生徒……」

「野暮なこと訊かないでよー、に、い、さ、ん」

「お前!婦女子の恥じらいを…!」

「もう男だし?」


 あらぁ、もう彼氏がいるの。その上でルフレとサラを狙っているの。恐ろしい。念のためアシュレイにも警戒するよう言っておこう。


「あ、なんだったら先輩も仲良くします?」

「遠慮します」

「冗談ですよー。先輩綺麗だしおっぱい大きいけど、手出したらアシュレイに殺されちゃうもん」


 なんだろう。レイラと同じ香りがしてきた。もっともローナはアシュレイのちょっと危ない思考を持っていると知っているから、何もしないでしょうけど。


「距離が近い。手を握らせるな」

「ひっ!?」


 ガシッと肩を掴まれかと思えば椅子ごと回転させられた。いきなりだったものだから変な声が出てしまった。

 顔近い!二重でびっくりした!!


「アシュレイ!心臓によくないわ!」

「どう考えてもおかしいでしょう。どうして僕がよそへ行っても気にせず他の男と談笑するんですか。見向きもしないんですか。おかしい。こんなはずでは……」

「貴方は少し女々しいわね…?」


気持ちはわからないでもないけど。そういうところも含めて好きだけど。


「ローナ、君は僕に協力的だったのでは?」

「不可抗力、っていうか」


 なるほど。情報源はローナだったのね。

 アシュレイの後ろからはミス・キャンベルが駆け寄ってくる。


「ちょっとアシュレイ!何してるの、彼はまだ……」


 でも更にミス・キャンベルに駆け寄る人が来る。


「アリシア!お前は何をしているんだ!」


 ミス・キャンベルの頬がひくつく。可愛らしい顔がくしゃりと歪んだ。


「せ…せんせぇ……」


これまでの彼女とは比べ物にならない弱弱しい声に少し噴き出しそうになってしまった。


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