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27、華麗なる種明かしをしました

 どこで仕入れたのか、生徒会室へ連れて行ったオズウェルはローナが用意した鎖で拘束された。夜中の生徒会室でなんだかいけないことをしている気分になる。

グレイ先輩も、自分の弟だか妹だかが何故そんなものを持っているのかと顔をひきつらせている。気持ちはわかる。私もアシュレイがこんなものを持っていたらかなり動揺する。そして持っていそうだと思うから複雑だ。


 運んでいる最中気を失ったオズウェルは、拘束されて五分も経たないうちに目を覚ました。そうして自嘲気味に笑みを浮かべる。


「はめられたのか」

「……そうね」


ローナからオズウェルの正体を聞いた朝から、アシュレイは私に近づかなかった。警戒を解くためだ。ただ、私も防御一切なしで出歩けるほど腕に自信がない。非力だし、運動音痴だし、魔法だって学内で優秀と言われる程度で暗殺者撃退を可能にするほどの力はない。

 ランドルフ兄弟は共に桁違いの実力を持っている。日中は彼らが私の周りを監視していた。


 そして私の従者は、他人、今回についてはランドルフ兄弟に自分の役目を一時的にでも完全に任せるのをよしとしなかった。息をひそめて私の傍で監視をし、夜はばれない様に女子寮で待機、朝早くに見つからないように帰って行った。同室がローナだったからなしえたことだ。


 今日の昼、とうとう隠しキャラがレイラをファーストネームで呼んだ。ローナはそれを確認すると、イベントが終わった。今晩確実にオズウェルは来る。すべての準備を整えようと言い、私たちは腹を決めた。


 結局、ローナの言う通りオズウェルは来た。外に人の気配がすると言いベッドの下に即座に隠れたアシュレイは、オズウェルが決定的な言葉を口にするまで待って攻撃に出た、ということだ。


 まだ駄目。まだ出るな。とベッドの下に手で指示を出していたからよかったものの、よくオズウェルに気づかれなかったなと思う。ずっとベッドはガタガタ揺れていた。心配してくれるのはすごくすごく嬉しいんだけど、計画をパァにさせるわけにはいかなかった。


「アシュレイ、貴方は眠ったほうがいいわ。あとはどうにかなるから」

「いえ。不眠だったわけではありません。不本意ながら会長とローナのおかげで日中睡眠時間をいくらか確保できたので」


不本意って、本人たちがいる前で言っては駄目よ。

 それにいくらかってことは十分ではないでしょう。睡眠不足はイライラが溜まるのよ。兄弟がびくびく震えているわよ。


「私のせいで貴方が疲労で倒れてしまったら、今後貴方と距離をおくことも考えるわ」

「ご心配にはおよびません。後ほど貴女が癒してくれたら、疲労など消えます」


やっぱりちょっとピリピリしているせいで怖い。

 すぐに攻撃に移れなかったストレスも溜まっているのかもしれない。後が怖い。


「オールディントン先輩!お取込み中申し訳ないのですが!話を進めないと!睨まないでアシュレイ!」


ローナはもう膝が笑って仕方ないみたいだ。私を殺そうとしていたこと、ばらさないであげたのに感謝してほしい。後で恩を着せよう。


「ええ。オズウェル、貴方が仕えているのはフリューゲル・ロディルネッゾ様で、間違いない?」

「……」

「沈黙は肯定とみなすわね」


それに貴方は言ってしまったものね。『フリューゲルを侮辱するな』って。今更誤魔化せないわよね。


 フリューゲル・ロディルネッゾの名前を知らない人間は、多分この国にはいない。


 ロディルネッゾには、たとえ公爵家であってもたてつくことはできない。なぜならロディルネッゾはただの貴族ではないから。


 この世界には二つの国しか存在しない。そのうちの一つの国、この学園があり、この学園に通う生徒の家が所属する国の名前が、ロディルネッゾ。

 つまり、この国を支配する王族の名前もロディルネッゾ。


「オズウェル・アークライト。貴方はロディルネッゾ王国第一王子、フリューゲル・ロディルネッゾ殿下の従者なのね。そして彼の命令で、私を殺そうとした」


そんなに目立つ存在なら、学園にいればすぐにわかる。そんな目立つ存在がいたら、隠しキャラだとすぐに疑った。

 私たちは知らなかった。いずれこの国を束ねる存在が学園に潜んでいることを。それは、王族が民衆の前に姿を現すことが極端に少ないからなのに加え、学園もわかっていたからだ。王子を預かっていることがしれれば、校内の風紀は多少なりとも乱れる。

 国の上層に不満を抱く人間がいるのは、どの世界でも共通だ。逆に、王子に取り入ろうという人間も大勢出るだろう。子供の喧嘩であっても、親を巻き込めば戦争にだってなりかねない生徒の通う学校だ。原因が王子ともなれば子供の親もさらに必死になる。


 だから、彼は名を明かさず、ひっそり学園で学ぶべきことを学んでいる。いずれ国をまとめるために、下々に混ざりながら。


「殿下はレイラに恋してしまったのね」


そして、私を殺そうと考えた。


 だけど納得がいかない。

 フリューゲルが私を殺す理由が、いまいちわからない。ゲームでは、私はレイラをいじめ、それを哀れに思ったフリューゲルが私を殺し、彼女に安息を与えようとした。

 けど私は、レイラをいじめていない。むしろ私が彼女にセクハラされた分慰謝料を請求したい。

 遠くから見ていたならまだしも、フリューゲルの従者であるオズウェルは比較的私の近くにいた。だから、私がレイラをあしらっていたのもいじめでないことはわかっているはずだ。その上で、なぜ。


「なぜ私は殿下に命を狙われたのかしら?」

「君が、邪魔だったからだ」


焦点の合わない目で、オズウェルはポツポツ言う。


「レイラ・モートンが最も親しげにしているのが君だった。だからあいつは、君に嫉妬した」

「私は女なんだけど?」

「関係ないさ。レイラ・モートンに近づくなら君は邪魔な存在だ。君の次はルフレ・ウッド。その次はサラ・コスグローブを始末する予定だった」


つまり彼は、嫉妬で狂ってしまったということか。

 ゲーム上では彼がルフレやサラを殺す描写があるとは聞いていない。ローナもひどく動揺しているから、これは筋書から外れた話なのだろう。


「随分立派なご主人様ね?従者に汚れ仕事をさせるなんて」

「それは違うな、ミス・オールディントン」


オズウェルの声はかすれて、弱弱しくも思えた。


「あいつは……確かに狂ってしまった。誠実な男だった。優しくて慈悲深くて、王の器を持っていた。だが俺があいつの狂う原因を作った。俺の私欲のために俺が狂わせた。俺が責任を撮らなければいけなかったんだ」

「貴方は私を庇おうとしただけだわ」


どこか馬鹿にしたように、オズウェルは私の見上げて笑った。

 私の知っているオズウェル・アークライトは、まったくの偽物だったのかもしれないと疑わせる笑みだった。私の知っているオズウェル・アークライトは、飄々とした笑みで軽口をたたきながら、それでも誰かのためにひっそり動くような男だ。

今のオズウェルの笑みは、ただ悲しそうに、苦しそうに見える。


「俺は君が好きだよ、セシル・オールディントン。少しでも君と過ごす時間が欲しかった。だから君と組んだんだ」


あの、テストのペアを。


 何を言っているのかはわかった。

 私はもう、フリューゲルが誰かを知っているから。


「あいつは、あのテストでレイラ・モートンと組まなければ狂うこともなかった。俺が、君との時間を欲したばかりに、あいつはレイラ・モートンと接点を持ち、彼女に心を奪われた」


フリューゲル・ロディルネッゾは偽名を使って学園で生活していた。

 自分の名前と遠い偽名を使うのは日常生活で不便になる。そこで、自分の愛称を使い、国名に響きの似たファミリーネームを用いた。



 ヒュー・ロディネット。



 彼こそ、隠しキャラ。

 レイラが、ゲームの始まりとなるテストでペアを組んだ生徒だった。予行舞踏会でレイラのパートナーを務めたのも彼。オズウェルと彼は友達ではなかった。主人と従者という関係。


「あいつは元々、正義感の強い真面目な人間だった。けど王族だ。女に免疫は薄くて、気さくなレイラ・モートンに惹かれていった。初めは、いいことだと思った」


だけど次第に、箱入りの王子様は初めての恋に溺れておかしくなってしまったということね。

 気さく、なんて聞こえはいいけれど、中身が男だから話しやすかったのを勘違いしたのだと思ったり。というか、十中八九そうだ。顔がいいだけに学園の女子に迫られまくって戸惑っただろう。そんな中で、下心も見せず、気取らないレイラに、他の女とは違う…!と惹かれたと思われる。そりゃあ違うでしょうよ。そもそも女じゃないんだから。


「俺はあいつを裏切れない。裏切るくらいなら死んだ方がマシだ。できるならいっそ君の手で殺してほしいけど」

「嫌よ。馬鹿じゃないの。どうして私が貴方のために手を汚さないといけないのよ」

「はは……本当に君って性格が悪いな。どうして惚れたのか不思議で仕方ない」


泣きそうな顔で言うのね。


「そうね、不思議ね。貴方のように素敵な人に好いてもらえる私は、きっととても幸せな人間ね」

「セシル・オールディントンは男を泣かせて喜ぶ趣味があるのか?」


そんなことない。できれば皆で笑って過ごす方が私も嬉しいわ。貴方にもそうやって涙を流されるより笑ってほしいわ。


「先に言っておくわ。結末はオズウェル・アークライトやフリューゲル・ロディルネッゾには残酷なものになる」


瞬間、オズウェルの顔がこわばる。

 主人に害を加えられると思ったのだろうか。私たちの誰も、王族に抗う権力なんて持っていない。オズウェルが考えているようなことは起きない。


「けれど最善の策です。死人もでない。レイラ・モートン様々の策ですね」


アシュレイが苦々しい顔で言う。レイラに頼るのが嫌なのね。それに、貴方は最後まで血なまぐさい策を推していたものね。怒りは仕方ないけど、やっていいこととダメなことがあるのは、ローナとアシュレイにしっかり教えてあげないといけない。


 そろそろ、フリューゲルとレイラの対峙が終わるころだろう。なんて思っていると、大慌ての女子生徒が生徒会室にかけこんで来た。

 レイラではない。


「大変よセシル!ロディネットが倒れてしまったわ!」

「……どういうことか説明していただけるかしら、サラ?」


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