出会いは偶然を装って姿を現す(あーやさんより頂き物)
「君はリリーを知っているか?」(http://ncode.syosetu.com/n7753bx/)×「オワリノハジマリ」(http://ncode.syosetu.com/n0854bz/)コラボSSいただきました!
あーやさんありがとうございます!
「ひょおおおおおおっ!久々の日本だー!!」
「あんまりはしゃぐんじゃねぇぞ」
「はしゃがずにいられますかーい!」
空港に降り立つなり興奮した声を上げる金髪の美女。隣に立つのはこれまた絶世の美形と言うべき男だ。美女もその高いヒールを合わせてそこらの日本人男性より背が高そうだが、男はそれを超える長身であった。ふたりとも英語であるため外国人であることは分かるが、男の方は一見日本人にも見える。
金髪の美女は、リリアン・マクニール。美形の男は西野隆弘という。
「イベントのためだけ(・・)に日本に渡れる日が来るなんて…!!通販じゃなくて直接買えるんだよ!?しかも時間を気にせずに、延々と回っていられる…何て至福のとき…!」
「それはいいが電車の時間があるんじゃねぇのか」
「あ!そうだね!!ちょっと待ってて荷物受け取ってくる!」
「あぁ」
リリアンは巨大なキャリーバッグを持ってきていたが、隆弘は機内に持ち込める範囲のものしか持ってきておらず、小さめのリュックを肩に軽く引っ掛けているだけだ。袋の口に猫耳がついた可愛らしいデザインだ。服装にもファンシーな動物の絵柄が散りばめられている。見た目や長身と合わせて隆弘はとても目立っていた。
多くの視線をものともせず、隆弘は待合のソファに腰を下ろした。荷物の受け取り所はかなり遠くにあるようだし、キャリーバッグの大きさを思い浮かべて、相当時間がかかりそうだと判断したからだ。
座ったソファの隣には、男が座って寝ていた。特に大きな荷物も見られず、何故ここにいるのか不思議なくらいだ。さほど気にすることなく座っていたが、肩に軽い衝撃があった。見ると、隣の男が傾き、隆弘の肩に寄りかかっている。軽くため息が出た。この男、起きる気配がない。と。
「ん~…」
隣が身じろきした。俯いていたため分かりにくかったが、男は丸いレンズの眼鏡をかけていた。短く刈り込まれた黒髪で額があらわになっていて、そこに一筋傷跡がある。かなり若く見える顔だ。
「あっ…ごめんなさいー」
「かまわねぇぜ」
「…ん?日本語ー?」
「俺が日本語使ってて問題があるか?」
「あ、いやー…目が緑色ですから、外国の方かと思ってー」
「!」
「それに、さっき金髪の女性の方と英語でおしゃべりしてましたよねー。よく通りますね、あの女性の声。お連れ様ですかー?」
「…てめぇ、何者だ」
「そんなに警戒しないでください。怪しい者じゃないですから」
「そりゃ自分から怪しいとは言わねぇな」
『ホントに、大丈夫です。何もしません』
「!!!」
脳内に直接響いてきた男の声。途端に、確信した。普通の人間なら幻聴だと済ますだろうが、隆弘には分かる。この類の超常現象に、彼は何度も立ち会ってきた。
『ぼくらが用があるのは彼女の方です』
『……やっぱり、てめぇ』
『ぼくはマインド・トーキングの超能力者です』
『リリアンに何をする気だ。場合によっちゃ容赦しねぇぞ』
『あなたたちふたりを一時的に離す必要があったんです。ふたりだと、あなたのガードが固すぎて、近づくこともできないですから』
『何のために』
『ただ、確認をするだけです。人工的に作り出された超能力者が、この国に、危害を加えないか、どうか』
『あの女はそんなことはしない』
『本人の意図とは関係ない事態が起きない保障はないでしょう?』
『…………』
「せっかくですから、少しお喋りしませんか?」
「……いいぜ。どうせ、暇だしな」
***
「空港ってどうしてこんなに広いんだろー…あったあった、荷物受け取り…」
一方リリアンはベルトコンベアのところまで辿り着き、自らのキャリーバッグを探していた。鮮やかなショッキングピンクのボディに、大好きなキャラクターのステッカー(ちゃんと健全なものだ)と、隆弘との写真が貼ってある。流れてくれば一目で分かる。しかし、いくら目を配っても、愛しのキャリーバッグは見つからない。おかしいな、と頭をかしげていると、後ろから肩を叩かれた。
「Excuse me.」
流暢な英語だ。振り向くと、眼鏡をかけた男性が立っていた。背広を着ていて、日本のサラリーマンとはこういうものだろうというイメージそのままの青年だ。ふと見ると、ずっと探していたキャリーバッグを持っているではないか。男性はそのまま英語で話しかけてくる。
「これ、私の友人が間違えて持ってきてしまったようで。貴女のものではありませんか?写真が貼ってあったので」
「そうです!ずっと探していたんですよ!…アリガトー!」
最後はリリアンは日本語を発音した。隆弘に教わった、きちんと言える数少ない日本語だ。感謝を示す言葉であることも知っていた。
「どういたしまして」
男性も日本語で答えてくれた。キャリーバッグを受け取り、隆弘の元へ戻ろうというときに、ちらりとその男性の方を見ると、男性は友人だという人のところへ戻っているところだった。女性かと思ったが、意外にも、高校生ほどの男であった。そのふたりの姿を見て、何か底知れぬ興奮を覚えた。あれは怪しい。
(あれはリーマンが攻め…いや、年下攻めもなかなか…)
お得意の妄想があながち間違いでないことを、彼女は知る由もない。
***
「隆弘ーお待たせー!」
「リリアン」
「…ん?この人は?」
「あー、ハロー」
隆弘の元に戻ってみると、隆弘は見知らぬ男性と話をしていた。
「知り合い?」
「…そんなもんだ」
「それにしても、隆弘さん背高いですねぇー!ぼくも日本人にしては結構高い方なんですけど、ぼくより高い人日本では滅多に見ないですよー」
「そうだろうな」
「でも、こんなすごい人にこんな綺麗な彼女さんまでいるんだから、すごいですよねー」
「当然だ、この俺だからな」
「でも、ぼくの真衣ちゃんだって…」
「誠!」
男性が声の方を向いた。どうやら誠という名前であるらしい。視線の先には小柄な女性がいる。
「あっ、噂をすれば!真衣ちゃーん!」
「探したぞ。どこに行ってたんだ」
「トイレ行ったら道に迷っちゃってー」
「まったく…行くぞ」
「うん。じゃあ、ぼくたちは行きますねー。良い旅を!」
「あぁ」
ふたりが人ごみに消えていくのを見送って、隆弘はリリアンの方を向いた。
「大丈夫か?」
「…?何が?」
「何もないならいい」
「そうだ!電車の時間!大丈夫じゃないじゃん!」
「あんまり急ぐなよ、そのキャリーで人轢くと洒落になんねぇぜ」
隆弘とリリアンが反対の人ごみに消える。その姿を、サラリーマン姿の青年と男子高校生が見ていた。そこに合流したのは、先ほどの丸眼鏡の青年と小柄な女性。
『どうだった?』
『キャリーバッグと彼女自身からビジョンが取れた。あと、ブラシから髪の毛の採取』
『荷物を開けたか。女性の視点から行くと最低の行為だな』
『若干心が痛んだけど、仕方ない。仕事なんだから』
『その割に結構堂々と開けてたじゃねぇか』
『それで?』
『髪の毛はこれから検査しないと分からない。ビジョンも記憶が新しいうちに描き出す。話はそれからだ』
声を交わすことなく交わされた会話は、空港の喧騒に容易に紛れて消えていった。