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トラベル・トラブル(天空さん宅とコラボ)

天空さん宅煌月(http://ncode.syosetu.com/s7399b/)のセルネさんとユトナさん(とセルネさん)とコラボさせていただきました

 バイオリズムのせいで朝から調子が悪かった。なにかものに触れるたびバチバチと青い火花が散ったし、そうでなくとも身体中からバチバチと火花が散っていた。 

 だから同棲中の恋人、西野隆弘が気遣って日用品の買い出しを1人でやってくれることになった。

  

「おい、今日の夜飯俺が作ってやるから、なんか食いたいもんあるか」


 携帯電話から聞こえてくる聞きなれた声に、腹を抱えて蹲ったまま応える。

 

「んーとね、なんか、あったかいやつが食べたい」


 その瞬間、携帯電話を持った指先からバチッ、と今日一番大きな火花が散った。

 

 ◇

 

「……ねぇ、隆弘」


「……なんだ」


 男の口からタバコの煙がでてきて、広い空に吸い込まれていく。目の痛くなるような青空が広がっていた。

 

「この状況、どう思う?」


 長い睫毛に覆われたコバルトグリーンが目線だけでリリアンを見る。


「……さすがの俺もちょっとキャパオーバーだ」


 リリアンも目線だけで横の男を見て、それから目線を空に向ける。

 

「……だぁよねぇ……」


 見知らぬ景色が広がっている。煉瓦造りの町並みはオックスフォードに似ていたが、建築様式が統一されていて尖塔があまり見あたらない。行き交う人々が物珍しそうにリリアンと隆弘を見ていたが、2人にしてみれば周りの人間のほうが珍しい。中東の民族衣装をごちゃまぜにしたような服を着ていた。ありていにいえば『ファンタジー風』だ。

 なぜ家から歩いて20分ほどかかるカバードマーケットにいたはずの隆弘が、家にいたリリアンの隣にいるのかわからない。

 そもそも、ここがどこなのか、なぜ自分達がここにいるのかすら、リリアンと隆弘にはわからなかった。

 目の前を横切るタバコの煙を手でパタパタと払ったリリアンが、とりあえず空を眺めて現実逃避するのをやめて隆弘を見る。映画俳優もかくやという端正な顔が彼女を見つめ返してきた。

 

「とりあえず……異世界トリップってことでおk?」


 隆弘がタバコを携帯灰皿に押し込め、ため息をつく。

 

「……それで手を打つか」


 ◇

 

 ユトナは大きなアクビを1つして、町の見回りにあたっていた。一般騎士の日常雑務だが、これなら特訓していたほうがよほどマシに思える。町は毎日毎日似たようなことの繰り返しで、見回っても正直ヒマだ。

 しかし、この日の町はひとつ違うことがあった。

 

「ところでお腹めっちゃ痛いんだけど隆弘ロキソニンさん持ってない?」


「持ってねぇよ買い出しの途中だったんだぞ。炭酸でも飲んどけよ。それより鶏肉とっとと冷蔵庫ぶちこまねぇとヤベェ」


「炭酸で生理痛収まるなら苦労しねぇよ!!」


 妙な服装の男女が道のまん中で口論していた。男は195cmの長身で嫌味なほど足が長く、騎士か傭兵かと見紛う逆三角形の身体をしていた。そのわりに顔立ちが整っており、高名な彫刻がそのまま動き出したかのようだ。単純な構造の服には可愛らしい猫の絵がかかれていて、それが男らしい雰囲気を台無しにしている。

 女はユトナより10cmほど背が高く、知り合いの優男と同じくらいの身長だった。大きめのチュニックのようなものを着ているが、恐らく100cm越えのバストがゆったりした服になだらかな曲線を作り出している。

 通行人が物珍しそうに彼らを見て、不審そうな顔で通り過ぎて行く。ただでさえ目立つ造形の2人組が変わった服装で道のまん中に立っていればそうなるだろう。ユトナはすこし迷ってから2人組に話し掛けることにした。

 

「おい、あんたら見ない顔だけど……観光客かなんかか? 変わった服着てるけど」


 2人組が同時にユトナを見る。2人より少し背の低いユトナは自然と見下ろされる形になった。圧迫感がすさまじい。

 男のほうが口を開く。

 

「観光客っつーか……ここどこだ?」


「なんだ? 迷子かよ。中央通りって書いてあんだろ」


 女の方が困った様に首を振る。

 

「いや、そうじゃなくて……」


「あ?」


 首を傾げたユトナに対して、男が頗る言いづらそうに眉をしかめた。


「あー……つまりだな……住所とか、町とか、国とか……」


 ユトナが思わず目を見開く。


「そっからかよ! 本当に迷子だな……どっから来たんだよ」


 女が苦笑して男の胸に寄りかかる。


「イギリスのオックスフォードっていうところからきたんだけど……」


「聞いた事ねぇな。ここはフェルナント王国の城下町だぜ」


 男女が顔を見合わせる。

 

「聞いた事ある?」


「すくなくとも俺の知ってる世界地図にそんな名前はねぇ」


「だよなぁ……」


 ユトナが眉をひそめた。

 

「おまえらどんだけ世間知らずなんだよ! フェルナント王国っていったら大陸で一番デカい国じゃねぇか!」


 本当どっからきたんだ! と叫ぶユトナに対し、男女は困ったように顔を見合わせ、それから苦笑した。

 

 ◇

 

「また面倒なことを持ち込みよってからに」


 猫の獣人である宮廷魔術師、セルネ=ネガロットが不機嫌な顔で言った。特に女の胸元あたりがお気に召さないらしい。一方男女と言えばセルネの頭部に視線を集中させて口をポカンとあけていた。

 

「隆弘、これガチで異世界トリップかもよ」


「お前が原因なんだからお前なんとかしろよ」


「できたらやってるよ」


 セルネが腕を組んで2人組を睨みつけると、女は肩を竦め男はセルネをにらみ返した。なかなか根性のある男だ。強面はダテではないらしい。セルネは男の視線に負けじとにらみ返し言葉を続けた。

 

「察しの通りお主らは別の世界からきたようじゃ。心当たりはあるか?」


 女(リリアンというらしい)が苦笑して男の後ろに隠れた。


「えへへ、体調悪くてちょっと電撃パチパチしてました」


「魔力の暴走か。今後はコントロールの訓練が必要じゃな」


「どうやってやるんですか?」


「なぜ妾がそこまで面倒をみなければいけぬのじゃ。自力でやらぬか。入門書をくれてやるわ」


 セルネにおいシノア、と言われてメイドがひょっこり顔を出す。彼女は本を抱えてリリアンに歩み寄ると

 

「こちらです。どうぞ」

 

 と革表紙の本を差し出して、失礼します。と一礼した後部屋を出て行った。本を受け取ったリリアンは暫く扉を眺めていたが

 

「あのメイド男の娘だったらいいのに」


 と小さくため息をつく。隆弘が眉を顰めた。

 

「なんでそんな話になんだよ」


「私のホモセンサーが反応したんだよ」


「廃棄しろそんなセンサー」


 セルネが呆れかえった様子で会話を聞いている。ユトナは一瞬シノアの女装がバレたのかと驚いたが、そんなことはないようだったのでほっと胸をなで下ろした。

 

「まあ妾であれば元の世界に返すのは一瞬ですむ。今回は恐れ多くも直々にやってやるからありがたく思うように」


 隆弘がなにか言おうとして、即座にリリアンに肘で小突かれていた。女は相方に軽い攻撃を喰らわせてから即座に両手を胸の前で組み、わざとらしいまでにニッコリと朗らかな笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございますぅ! どうなることかとおもいました!」


 セルネがフン、と鼻を鳴らす。

 

「もう二度とくるでないぞ」


 それから一ヶ月後にまたバイオリズムのせいで同じ場所に同じ2人組が現れセルネが大層怒るハメになるのだが、それはまた別の話である。

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