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そういえば名前も知らない(あーやさん宅とコラボ)

あーやさん宅SSS-S(http://ncode.syosetu.com/s7362b/)と隆リリのコラボをかこうと思って……て……

「ねえ隆弘」


「なんだ」


 鍛え抜かれた逆三角形の身体を持った容姿端麗の男が公園のベンチに座ってタバコの煙を吐き出す。横には金髪綠眼の女が座っていた。容姿自体は作り物のように美しいが、明るい笑顔が見た目と性格のギャップを如実に現わしている。

 女――リリアンがベンチに深く腰掛け背伸びをした。

 

「最近オックスフォードでゴスロリ流行ってんのかなぁ」


「そうかぁ? 今回で2回目だろ。流行ってるってほどでもねぇよ」


 男――隆弘のコバルトグリーンの瞳が歩道の向う側を見る。作り物めいた容姿の少女が歩いていた。ウェーブのかかったサイドテールは紫色で、赤いメッシュの前髪が印象的だ。黒い生地のワンピースは裏地が紫で、フリルとレースは赤い色だった。帽子としての用途は果たさないであろう黒いレースのミニシルクハットをカチューシャで留めている。

 今日のオックスフォードは曇り空だ。どんよりと空に立ちこめる灰色の雲が太陽の光を遮り昼間でも薄暗い。煉瓦造りの尖塔とゴシックロリータの少女は曇り空によく映えた。

 リリアンが短く刈り込まれた芝生に足を投げ出す。

 

「やばーいあのゴスロリ可愛い。仮にシャンデラと呼ぼう」


「ゴスロリでいいじゃねぇか。なんで仮にポケモンの名前を名付ける必要があんだよ」 

 

 本を片手に日光浴に訪れた隆弘とリリアンはそれぞれ持ってきた本をすべて読破してしまい、まず昼食を取ってから次の本を借りに行こうという結論に至った。

 そして昼食の内容を2人とも思いつかず、視界にゴスロリ少女を捕らえて現在に至る。

 

 なんだか今日はグダグダな日だった。

 

 隆弘が気怠そうな態度でタバコの煙を吐き出す。

 

「ところでよぉ、リリーちゃん」


「その呼び方恥ずかしいからテンション高い時だけにしてっていったじゃん」


「ヤってる時にちゃん付けとかしたくねぇ」


「ヤってる時じゃなくてもちゃん付けないでよ。っていうか身も蓋もないね」


「テンション高い時っつったらヤッてる時かヤる前かヤッた直後かの3択じゃねぇか」


「くそぅこういう話がしたいんじゃないんだよ私は。『ところでよぉ』の続き言ってよ」


「ああ、それな」


 男の骨張った指が歩道の向う側、シャンデラ(仮)の3メートルほど後を歩く日本人を指差した。

 

「あいつ銃持ってんぞ」


「マジで?」


「マジで」


「イギリスで? オックスフォードで? 日本人なのに?」


「イギリスで。オックスフォードで。日本人なのに」


「世が末系のギャグかよ」


 日本人男性がシャンデラ(仮)へ近づいていく。男が懐に手を突っ込んだので、リリアンは本格的にヤバイなと判断して相変わらずグダグダッとした状態のまま右手をそっと持ち上げた。エメラルドの瞳がチカッ、と一瞬瞬くのを隆弘は見た。

 

「はーんど、ぱわぁ-」


 どこまでもやる気のないかけ声と同時に、男が何もないところで転ぶ。

 隆弘が全身を脱力させたまま呟いた。

 

「ほかにもっとマシなかけ声なかったのかよ」

 

 シャンデラ(仮)が振り返り、男に近寄っていく。それから近くにいたパーカーワンピースとジーンズの女が男を立ち上がらせる。フードを目深に被っているので顔はよく見えないが、シャンデラ(仮)の連れらしい。男が大人しく連れて行かれて車に乗せられる。運転席にはワックスで金髪をあそばせ、黒縁眼鏡をかけたチャラ男が座っていた。

 シャンデラ(仮)がリリアンたちの方を向いた。まっすぐ2人を見据えていたので、リラックスを通り越してふぬけ状態だった2人が思わず肩を揺らす。

 リリアンが隆弘を見た。

 

「や、やばい、シャンデラ(仮)こっちきた……え、なんで? バレないよね? これ普通バレないよね?」


「おいバカ焦るんじゃねぇよ。不審に思われるだろ。クールに行けクールに。道尋ねるだけかもしれねぇだろ」


 シャンデラ(仮)が2人の目の前で立ち止まる。そうしてニッコリと挑戦的な笑みを浮かべてリリアンを見た。

 

「ご協力感謝いたしますわぁ。先程のサイコキネシスは貴方ですわよね」


 リリアンが大きくのけぞって空を見上げる。

 

「はいアウトォオオォォオォォオオッ! なんでぇええぇええ!?」


 隆弘が咥えたタバコを噛み切った。

 

「認めるのが早すぎだろバカ女!」


 シャンデラ(仮)は挑発的な笑みを浮かべたまま2人を見ている。小首を傾げて立っている姿は傍目から見れば人形のようでさぞや可愛らしいだろう。

 

「わたくし日本から来ましたの。先程の男は日本で極左系テロ組織に所属していて、一週間前イギリスに逃げてきたんですのよ。みつかってよかったですわ」


 リリアンがきょとんとした顔でシャンデラ(仮)を見た。

 

「そういうのって言っちゃっていい系?」


 シャンデラ(仮)が笑う。

 

「周りに言っても誰も信じないでしょうし、手助けしてくださったお礼ですわ。リリアン・マクニールさん」


 隆弘の眼光が鋭くなる。リリアンを庇うように右手を広げ、ベンチに深く腰掛けていた上半身を起こした。

 

「なんでこいつの名前を知ってる」


「あら、彼女の『超能力』を知っているなら、当然名前も知っているべきでしょう? それとも、誇大妄想の少女が偶然本物の超能力者に目を付けていたとでも思いまして?」


 隆弘が荒々しく舌打ちをした。シャンデラ(仮)はクスクスと鈴の転がるような笑い声を上げ、スカートの裾をつまんでお辞儀をしてみせる。

 

「あの男は今回おまけですの。実際は、貴方の様子を見に来ましたのよ。リリアン・マクニール」


「えー、ウソ。この情報香港マフィアとシチリアマフィアくらいしか知らないと思うんだけど、お嬢ちゃんマフィア屋さん?」


「国家権力ですわ。犯罪組織の情報は当然国家組織にも入ってきましてよ。貴方のような方が今後イギリスのみならず、日本にも現れるかもしれないので一応見てこいと言われましたの」


「『リリー』はもう全部捨てちゃったから大丈夫だよ」


「貴方の気が変わらなければね。データは頭の中に入っているのでしょう?」


 隆弘がシャンデラ(仮)を睨む。ゴスロリ娘はまたクスクスと笑った。

 

「そんな怖い顔をならないで。ものの喩えですわ。でも――」


 少女の顔から、さきほどまでの笑顔がスッと引いていく。完全な無表情になった彼女の口から、静かに言葉が滑り落ちる。

 

「覚えていらして。貴方を警戒しているのは日本だけでもイギリスだけでもありませんわ。無論国だけでもない。それこそ犯罪組織にも情報が流れたら、どこだって喉から手が出るほど貴方の力を欲しがるでしょうね。万が一、わたくしたちと敵対することがあろうものなら――」


 芝生が突然、音を立てて燃えた。リリアンが驚いて足をどけ、隆弘が彼女を抱きかかえるようにしてベンチから逃れる。

 少女はまたクスクスと笑っていた。

 

「容赦しませんわよ」


 隆弘はゴスロリ娘を睨みつけ、リリアンを守るように抱きしめている。彼の腕の中にいるリリアンは当初こそ驚きと恐怖の入り交じった表情を浮かべていたものの――やがて、ヘラリと笑って見せた。

 

「そんなこわいことしないよー」


 少女が声をたてて笑い、身を翻す。芝生の炎は消えていた。

 

「そうであることを願っていますわ」


 それから彼女は振り返らずに歩いて行って、車の後部座席に乗り込んだ。リリアンと隆弘はしばらく公園でその姿を見送っていたが、やがて思い出した様にリリアンが口を開く。

 

 

「いやー……それにしても、アレだねー……」


「なんだよ」


 隆弘が言うと、リリアンが彼の腕の中でヘラヘラと笑った。


「シャンデラってリアルでも怖いんだね」


「テメェはそういうことしか言えねぇのか」

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