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東京観光案内(緋夜さん宅とコラボ)

緋夜さん宅逆引き境界(http://ncode.syosetu.com/n6994by/)の緤さんと終夜さんとうちの隆リリのコラボです。

逆引き境界のネタバレがあります! 注意!

「いやぁー! イギリス住みだと冬の陣と夏の陣くらいしかイベントいけないからオンリー参加できるのは嬉しいねぇ!」


 東京大和田区平和島――特殊な理由で池袋が好きな女性の数人に1人は反応するだろう住所には、特殊な趣味を持つ方が反応する建物『東京流通センター』が立っている。現在同類のにおいに敏感な方々が頻繁に出入りしている第一展示場出入り口付近に、今こそ我が人生の春であると言わんばかりに晴れやかな笑顔の女が立っていた。

 身長175cmに10cmのヒールを履き、千鳥柄のロングトップスに黒いレギンスを合わせている。推定100cm以上のふくよかな胸が、ゆったりとしたラインのトップスを押し上げなだらかな曲線を作り出していた。金糸の髪とエメラルドのような瞳がキラキラと輝き、磁器のようになめらかで白い肌には赤みがさし、その手の人間が愛好する球体関節人形のようだ。満面の笑みだけが彼女の生気と意志を伝え、容姿と正確のギャップを如実に現わしている。

 彼女の横には、175+10=185cmよりもさらに10cmほど背の高い男が立っていた。

 

「なにが悲しくて札束が紙束に変わる場面なんか見なきゃいけねぇんだ俺は。クソほど買い込みやがってちょっとぐらい自分で持ったらどうだ」

 不機嫌そうに顰められた眉は太く、服の上からでも鍛え抜かれたことがよくわかる体躯をしている。非常に男くさい体格だがコバルトグリーンの瞳を覆う睫毛が非常に長くどこか中性的な顔立ちだ。洗練されたシルエットはギリシャ彫刻がそのまま動き出したような印象を受ける。男は逞しい両腕に2つづつ大きなトートバッグを抱えていた。

 苦言を呈された女――リリアンは素知らぬ顔でチチチ、とわざとらしく舌を鳴らす。

 

「今までは自分で持ってたよぉー! 隆弘が一緒に来てくれるっていうからじゃあ荷物持ちお願いねってなったんじゃない!」


「この後すぐ待ち合わせなんだから一緒に行動するしかねぇだろ」


 2人連れだって出口に向っている最中、何人かに驚いた様な顔で見られる。いつもは羨望が多いのだが、今は宇宙人を見たような表情や、敵のスパイを発見したような敵意の眼差しが多かった。何人かは吹っ切れたように晴れやかな笑顔で写真を撮らせて下さいと言ってくる。重いトートバッグを持った男――隆弘は、同じくらい重いため息をついてリリアンの後を追う。建物の外に出ると、なぜか一角に人混みができていた。

 

「モデルさんですか!? KERAとかの!」


「いいえ、残念ながら……あっ、でもスナップは撮って頂いたことがあります」


「もしかして先週号のゴスロリバイブルに載ってましたか!?」


「あぁ……もしかしたらスナップ撮って頂いたかもしれないですね」


「私も前にZippeで見ました!」


 中央に立つのは穏やかな笑みを浮かべた南雲緤なぐもきずな。レースをふんだんに使った黒いコルセット風のワンピースに、パニエを入れてスカートの形を整えている。その上に浴衣のような形状の上着を着ていた。和柄の生地が使われていたが袖や襟には黒いレースが使われている。足には編み上げの黒いブーツを履いていた。また四捨五入で二万するような靴なのだろう。全身会わせて服代は13万前後と言ったところか。整った顔立ちに穏やかな笑みを浮かべ、礼儀正しく話す様は服装とあわせてみると正に深窓の令嬢――だが男だ。

 一見の人間には非常に礼儀正しく見えるかもしれないが、隆弘にはラグドールを被っているように見える。

 緤の横には182cmの、非常に美しい黒髪の男が立っていた。顔にはハッキリ『帰りたい』と書いてある。こちらは終夜諒よすがらあき。非常に不幸なことに緤と腐れ縁の、恐らく本人もただの一般人ではないだろう男だ。

 リリアンが明るい笑顔で手を振る。

 

「やっほーホモー! 待ったぁ!?」


 終夜はリリアンの言葉を聞いて眉を顰める。


「ホモじゃねぇし、今きたところだ」


 周囲の女性たちが『え、ホモなの?』という顔で終夜を見ている。終夜は違います、と言いたげに首をゆるやかに横に振った。緤は笑顔を崩さない。ラグドールは完璧に頭に張り付いていた。両手を身体の前で合わせ完璧なおじぎをしてみせる。

 

「お久しぶりです、リリアンさん。隆弘さん。楽しめましたか?」


 リリアンが笑顔で緤に近寄る。周囲の女性が驚きと憧憬半分に2人のツーショットを見つめている。

 

「すごい……絵になるわぁ……」


 中身さえ見なければまあ、絵にならなくもないなと隆弘は思った。終夜は非常に複雑そうな顔でツーショットを見ている。

 リリアンがなんの意味があるのかパタパタと手を振った。つられて103cmのバストが大儀そうに揺れる。

 隆弘はひとつため息をついて終夜に歩み寄った。

 

「悪いな、案内なんざ頼んで。東京となると久しぶりでよ。今日は頼むぜ」


「いや。オックスフォードに行った時は俺たちも世話になったから」


 女性達がほう、とため息を吐く。

 

「これが……ホモ……!!」


「イケるわぁ……」


 隆弘が首を振った。

 

「ちげぇ」


 終夜はどこか遠くを見ている。

 

「かえりてぇ」


 緤はまったく会話が聞こえていないかのような態度で穏やかな笑みを浮かべている。そうして自分の周囲に集まった女性に一礼し

 

「それでは、友人と合流できましたのでこれで失礼致します」


 とやはり完璧な敬語で答えた。

 女性たちがきゃわきゃわと黄色い声で見送りの言葉を伝えると緤も笑顔で手を振る。

 それから暫く4人で歩きモノレールの駅まで辿り着くと、その瞬間緤の頭に乗ったラグドールが軽やかに地面へ飛び降りた。

 

「で、これからどこ行くんだ? 俺はヒールだからあまり歩くのはゴメンだぞ。だいたい俺の細くて綺麗な足が腫れでもしたら大変だからな」


 終夜は慣れているのか眉ひとつ動かさず、しかしどこか疲れた表情で緤の質問に答える。

 

「銀座で飯くうって行ったろ」


 リリアンがハイハイ、と元気に手をあげる。


「私ねぇ、天ぷら食いたいんだー!」


 緤がふーん、と言って首を傾げる。


「でも銀座って高いんだぞ。俺もナンパしてきたおじさんに1回つれてってもらったきりだ」


 隆弘が眉を顰めて緤を見る。


「それナンパじゃなくて援交っつーんじゃねぇのか」


 緤がゆるゆると首を振る。

 

「飯奢って貰うだけだ」


「それだよ援交っつーのはよ」


「あれ?」


 緤が首を傾げている。リリアンがハイヒールで揺れる電車内にしっかりと立ち、笑顔のままパタパタと手を振った。

 

「隆弘が奢ってくれるよ!」


 緤がリリアンを見る。


「えっ、そうなの?」


 終夜はため息をついた。


「っていうかメールでそういう手はずだっただろ」


「そうだったか。いやあ、さすが金持ちの御曹司は違うな」


「バイトで臨時収入が入っただけだぜ。下着モデルが1人急病になったらしくてよ」


 終夜が眉をひそめる。


「バイトまでクソボンボンか。帰りてぇ」


「まあ、俺くらいの美貌と鍛えられた身体があるとどこでも引く手あまただからな」


「隆弘、頭おかしいのを自ら露呈させてどうするの。緤ちゃんにネコの被り方教えて貰えばいいのに。そうしてホモに目覚めればいいのに」


「奥義を伝授してやってもいいぞ。ホモには目覚めないが」


「俺はありのまま生きているだけで神に愛されてるからいいんだ。あとホモにはならねぇ」


 ちぇー、とリリアンが肩を落す。終夜は遠い目で外の景色を見つめては

 

「……帰りてぇ」


 としきりに呟いていた。

 リリアンが視線を終夜に向ける。

 

「ところでどうだろう終夜、これを機に緤ちゃんとホモに」


「どんな機だ。それくらいなら頸動脈自分で引きちぎって死んでやる」


 緤が非難がましい声をあげる。

 

「ひどっ! どんだけ俺を拒否する気だよ! 俺はお前に惚れないけどお前は俺に惚れろよ!」


「いやだよ。どんだけ自己中心的なんだ」


「俺はそのくらいなら顔パスで許されるからな」


 リリアンがんんんー? と声をあげて首を傾げる。


「この台詞どっかで聞いた事あるぞ」


 隆弘が嫌みったらしく髪を掻き上げる。リリアンはすぐさまああ、と声をあげた。

 

「バカ弘が言ってたな」


「隆弘だ」


 終夜がまた遠くを見る。

 

「……帰りてぇ」


 なんでこんな変なのとばかり顔見知りになってしまうんだろうと、終夜は半ばマジメに考え、答えが見つからなかったことに絶望したが……そのうち考えるのをやめて夕食に集中するとにしたのだった。

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