出会いで落し物(緋夜さんより頂き物)
緋夜さんより頂きました逆引き境界(http://ncode.syosetu.com/n6994by/)の緤ちゃんと終夜くんとうちの隆リリのコラボです!
「なぁ、此処の何処だ?」
「しらねぇよ」
「知ってろよ。案内するのが終夜の役目だろ?」
「知るか」
隆弘とリリアンは通行人の羨むような視線を向けられながら、歩いていると、隆弘にとって聞きなれた言語を耳にした。日本語だ。さりげなく視線を向けると、それにつられてリリアンの目線も続く。
「あ、ホモだ」
「なんでだよちげぇだろ」
「実は、女装ゴスロリっこかもしれないじゃない!」
「なんでそうなんだよ。どう見たって女だろ」
「あれはホモだよ! 私のホモセンサーが反応したんだから!」
「何だ、そのいらないセンサーは廃棄しろよ」
視線の先には、観光に訪れたのだろう日本人の男女がいた。
片方は隆弘と比べれば低いが日本人の平均身長から考えれば長身の部類に入る、隆弘たちとそう変わらぬ年齢の青年と、ゴシックロリーターと呼ばれる服装を着こなした女性が地図を広げて会話をしていた。
「俺の行きたいと思っていた店がねぇんだけど何処だよ」
「しらねぇよ」
「俺のために事前準備を怠らないのは当然のことだろなんでしてねぇーんだよ」
「知るか」
女性の方は、愛らしい外見とは裏腹に男口調で喋っていたが、いまどき珍しくもない。だから隆弘は何にリリアンがホモと反応したのかが理解出来なかったが、その辺に関して理解出来ないことはいつものことなので放っておいた。
「誰かに聞いてこいよ」
「ちっわかったよ」
男――終夜は舌打ちをしてから周囲を見渡す。視線が最初に会った人にしようと決めると、リリアンと視線があった。一瞬、リリアンと隆弘を三度見して別の相手に聞こうと思ったが、それはそれで失礼な気がしたので仕方なく
『すみません』
終夜はリリアンに近づき、インフォメーション・センターで手に入れた地図を見せた。
『此処に行きたいのですが、どう行けばいいかわからなくて……わかったら教えて頂きたいのですが』
流暢なイギリス英語を喋る終夜に、隆弘は少し驚きながらも
「日本語でかまわねぇよ」
と日本語で告げる。
「……! 日本語わかるんですか、それは助かります」
終夜は日本語に切り替える。少し離れた位置で待っているゴスロリ――緤を手招きすると、緤は隆弘の恰好を三度見することもなく近づいてきて丁寧なお辞儀をした。
「有難うございます」
猫を被ってお礼を言う。
「ん?」
「どうしたんですか?」
「いや、お前さっきと口調ちがわねぇか?」
隆弘の言葉に、緤はしまったと口に手を当てる。日本語がわかるのならば、先刻の猫を被ってない終夜と緤の会話を聞かれていても不思議ではないのだ。
「初めての人仕様だよ」
素の状態を聞かれているのならば、猫を被り続けるのは面倒なので、猫は行方不明になってもらった。
「(あ、やべぇ是――帰りてぇ)」
終夜は今さらながら、声をかける相手を失敗した事実に気がついた。
金髪の美女は街を歩けば男性が――いな、女性もその美貌を羨んで視線を集めそうな程に美しく、ふくよかな胸元は男女問わず視線をひき寄せてしまうだろう。10センチ前後はありそうなヒールを履いているため終夜より長身だ。相当目立ち、一緒に歩くと自分が霞んで消えそうだなとは思ったが、それでも彼女はましだった。
残りの二人と比べたら――とはいえ、ゴスロリの方は一緒に行動を共にしているが。
金髪の美女と並んで歩くのは、十センチヒールを履いているわけでもないのに、190㎝を超える長身、整った顔立ちに、鍛え抜かれたことがわかる体格は世の女性の視線を一人占めに出来そうな程の男だった――そこまでは終夜としては構わなかった。問題はそこから下だ。可愛らしい猫の柄がプリントアウトされたシャツに、ジャケットを羽織っているが、そのジャケットのボタンが全部肉球、ベルトには猫の顔がついており、猫の尻尾が垂れていることが正面からでもわかる。思わず三度見をした元凶だ。
ファッションセンスが残念なイケメンだ。終夜は内心そう結論づけた。
そして、終夜の隣にいるのはゴスロリ女装のナルシストな緤だ。こんな目立つ三人と一緒にいたくないなぁと明後日の方向を見たくなった。
「で、すみません。此処はどう行けばいいかわかりますか?」
終夜はさっさと道を聞いて立ち去ることだ、と判断する。
尤も、こんなにも目立つ三人と一緒の自分など、街灯程度にしか見えないだろうとは思っているが、それでも長居をしない方がいいと終夜の勘が告げていた。
「あぁそこはなー」
隆弘が丁寧に説明をする。丁寧な説明は猿でも辿りつけるようなわかりやすさだった。ましてや、終夜の方はイギリス英語が出来るため看板などの文字も読めるだろう。
「わかりやすい説明、助かります」
「俺の説明だからな」
「は?」
「才能の宝庫が詰め込まれた俺の説明だから当然だって言ったんだ」
「は?」
終夜が思わず顔をポカーンとしていると
「こいつ頭おかしいから気にしなくていいよ」
リリアンが注釈を加えた。
「おい、聞こえているぞ」
隆弘とリリアンのやりとりに
「(うわぁ――超帰りてぇ。なんで偶々道を聞いた奴が――緤のお仲間なんだよ!)」
終夜が心中で叫んだ時
「でもその才能も、ファッションセンスにはくれなかったみたいだね」
緤が余計なことを言いだした。
「(お前も何故ツッコミを入れる!? 普段ボケの癖に!? 空気読めないの!? 猫がないから!?)」
終夜が心中でツッコミを入れた時
「この恵まれ過ぎたセンスに嫉妬するのは仕方ないな」
隆弘が大胆不敵な笑みを浮かべた。思わず、口に出して終夜がツッコミを入れそうになったが、それより先にリリアンが隆弘に対して注釈をさらに加えた。
「はいはい。こいつ頭おかしいからファッションセンスもおかしいの、ごめんね気にしないでー」
「おい、そりゃどういうことだ」
「事実は偽れませんー」
「このクソアマ」
リリアンと隆弘が会話をし出したのをいいチャンスだと終夜は判断した――ナルシストは二人もいらない、と。
「では、有難うございました。助かります、ほら緤行くぞ」
「おい、俺の腕を引っ張るな! 靴が脱げるだろ!」
「脱げろ」
「19800円の靴だぞ!? 弁償してくれるのか!?」
「あぁ。その百分の一ならな」
「すくね!」
終夜と緤が傍から見れば仲良く立ち去ったので、隆弘とリリアンも移動しようと思った時だ、ふと隆弘が地面に視線を移動すると、緤か終夜のものと思しき物が落ちていた。
「おいおい、パスポート落としてんじゃねぇか」
やれやれと隆弘がパスポートを拾う。緤か終夜のものか確認するためパスポートの頁を開くと
――あ、ホモだった。
リリアンがホモと反応した意味を悟った。
後日、パスポートを渡すため再開した緤と終夜にホモだ! と詰め寄ったリリアンに対して
「んなわけあるか!? 俺には好きな人――あぁ勿論女がいるんだ! 誰が野郎を好きになるか! 終夜が好きになってくれるだけならいいけどな!」
ゴスロリ女装が答え。
「誰が好きになるかボケ! 俺はホモじゃねぇぞ!」
終夜が最大音量で叫んだ。