第14話
週末の病院通いをやめた修平の心は宙ぶらりんのままだった。
亜矢が捕まらないのだ。
相変わらず、学校には来ていないし、家にも帰っていない。ただ、時折電話で連絡があるそうだが。
警察に捜索願を出されない為だろうか?
学校の授業もロクに頭に入らず、気付けば放課後になっているという日々が続いた。
「今晩、空いてるか?」
帰り支度を始めていた修平に声をかけてきたのは健二だ。
「特に予定はないけど、なぜ?」
「ちょっと付き合って確認してもらいたいもんがあるんや」
確認?
内心首をかしげながらも、修平は了承した。
待ち合わせの場所と時間を確認して健二は先に教室を出ていった。
「なんだろうな?」
よく分からないまま、修平も帰り支度を再開した。
*---*
亜矢は目を覚ました。
まだ霞む頭で周囲を見渡す。
衣服が散らばり、木材が饐えたような匂いが漂っている。
広い倉庫のようだが。
「はれ?」
まわりには男女数名が同じような風体で倒れている。
どろりと下腹部から漏れ出た粘液でようやく何があったか思い出した。
「みんなー、起きて起きて。もう良い時間だよ」
全員を揺り起こすと、皆が目を覚ましたものの気だるそうだ。
男の一人が呆れたように呟く。
「お前、元気だなぁ。あれだけヤリまくったのに」
亜矢を除くと唯一の女性が紫の髪を束ねなおしながら、
「そのコは特別なのよ。というか、そのコのペースに合わせてこっちまでガンガンやらないでよ。
身体がもたないわよ」
「むー、焔ちゃん。酷いよ」
「事実でしょうが。まったくもう」
女性は散らばった服を集め始める。
周囲では、メシにしようぜー。その前に体洗わせろー。等と様々な声が飛び交う。
「ねぇ、これ自分用にもうちょっともらっちゃダメ?」
亜矢が指差しているのはテーブルの上に散らばった赤い錠剤だ。
焔と呼ばれた紫の髪の女性が呆れたように言う。
「あんたねぇ、それ結構高いんだよ」
だが、逆に男達はそれほど気にした風ではなかった。
「いいんじゃね。亜矢ちゃん。もう成績トップでしょ」
「コンパニオンで新規の顧客どんどんひっぱってるし、少しくらい分けたってかまわないんじゃないか?」
「東石さんに聞いてみなよ。ほら、ちょうど着いたみたいだぜ」
倉庫の外から車のライトの光が漏れ入る。
やがて、錆びた音を立ててドアが開き、入ってきたのはフォーマルな高級スーツに身を包んだ男性だった。
「まだ、寝てるかと心配してたが、叩き起こす手間が省けたな」
「ねー、ねー、東石さん。あれ、もうちょっと欲しいんだどー」
東石と呼ばれた男性は、いまだ服も着ないで錠剤の乗ったテーブルを指差す少女を見て顔をしかめる。
彼はツカツカと早足で亜矢に近づく。
まずいと思ったのか焔がフォローを入れようとしたが、
「ぶっ」
東石は亜矢の衣服を拾い上げて顔面に叩きつけた。
「さっさと着ろ」
「ひどいよー」
そして、テーブルの上の錠剤が詰まった瓶は回収し、ちらばったままのものは手でかき集め、ポケットから取り出したハンカチにそれを全て乗せて包む。
そして、それをポイッと吸い終わったタバコでも投げ捨てるかのごとく亜矢の方へ放る。
「うわーい」
「東石さん、太っ腹ー。俺も欲しいっス」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。そういう台詞はきっちり結果を出してる奴が言うもんだ。
おら、いつまでここにいるつもりだ。とっとと車に乗れ」
「ウィッス」
亜矢は渡された包みを手で弄びつつ、服を器用に着ている。
「あんたもたいした心臓だねぇ。
まぁ、そんなところがコンパニオンとしての成績につながっているんだろうけど」
すでに着替え終わった焔が呆れたように言う。
「だってぇ、これがあればしゅーちゃんに会えるもん」
笑顔で言う亜矢に、焔は気が咎めたかのように視線をそらして呟いた。
「夢の中のしゅーちゃん、か」
「そ、しゅーちゃんは私の王子様」




