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二人を結ぶ赤い有刺鉄線  作者: 赤砂多菜
第二章 Release
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第10話


 学校から帰った後、修平は自室のベッドで横になり思いにふけった。

 想うのは美月の事。

 この際、自分はどうなろうとかまわない。

 だが、美月をあのままにしていいのか?

 美月に惹かれていたのは事実だ。

 快活で活発で行動力あった彼女。

 それが、あの事故の後は、かつての名残はあっても、やたらと修平に甘えてくる。

 自分の後悔と自責の念からの行為が彼女から彼女らしらを奪ってしまったのか?

 キリキリと耳に聞こえてくるようだ。

 自分を縛る有刺鉄線を引き絞る音が。

 答えなんてないのは分かっている。

 それでもまるで降りしきる雨のように自分に問いかける声が降って来る。

 修平は枕にぎゅっと頭を押し付けた。



*---*



 週末、いつもと同じように病院のロビーを突っ切りエレベーターが降りてくるのを待つ。


 え?


 修平は気になる人影を見つけて振り返った。

 すでにその人影は出入り口の自動ドアの外にいたが、その後ろ姿が良く知っている人物と重なった。


 亜矢?


「すいません。乗らないんですか?」


 声に振り向くと、すでにエレベータは降りてきて、修平を待っている状態だった。


「あ、乗ります。すいません」


 慌てて、エレベータ内に乗り込む。ついでに行き先の階のボタンを押す。

 さっきの人影は本当に亜矢だったのだろうか?

 改めて考えて、すぐに否定した。

 単なる勘違いだ。だいたい亜矢にしては大人っぽい雰囲気をしていた。

 先日、健二に亜矢の事を聞かれたので、無意識に気にしていただけだろう。



*---*



「み、美月?!」


 病室に入って修平は仰天した。

 美月がベッドから降りて、床をはって車椅子に乗り込もうとしていたからだ。


「何やってんだよ、お前」


 慌てて、美月を抱き上げて車椅子に座らせる。

 そして、壁にかけてあった外出用の毛布を腿の上に被せる。

 みれば入院患者用のガウンもかなり乱れていた。

 彼女の正面に回って、それを丁寧に直していく。


「いったい何があったんだ、美月」

「呆れないでね」

「すでに呆れてる」

「あははー。実は一人で車椅子くらい乗れないかなーって思って」

「あーのーなー」


 がくっと修平は頭を垂れる。


「ナース呼ぶとか、俺が来るまで待てなかったのか? お前は一人じゃないんだぞ」


 一人じゃない、修平がそう言った時にかすかに美月の瞳が揺れた。


「そうだねー。週末は修平君が来てくれるんだもんね。修平君が助けてくれるんだもんね」

「美月?」


 あきらかに様子がおかしい。

 余裕がないというか張り詰めた空気が美月を包んでいる。

 何があった?

 そして、部屋の隅に何か落ちているのに気付いた。

 あれは、ペンダント?

 しかし、美月の首には十字架のペンダントがかかったままだ。

 だったら、あれはいったい……

 吸い込まれるように足がそちらへ向いた。

 美月もそれの存在に気付いた。


「だめっ!」


 その静止の言葉は修平には届かなかった。

 近づくにつれ、それがなんであるか分かってしまったから。

 修平はそれを拾い上げる、目の前をシーソーのようにペンダントの意匠が揺れる。

 三日月に腰掛ける妖精。

 それは亜矢の誕生日に修平がプレゼントしたもの。


「……亜矢が来たのか?」


 やはり、ロビーで見た人影は亜矢だったのだ。

 だが、なぜ?


「……うん、修平君とちょっと入れ違いになっちゃったけど」


 美月は笑っていたが、その瞳には以前見た暗い影がくっきりと映っていた。


「あいつ、何しに来たんだ?」

「普通のお見舞いよ、二人でお幸せにだって」


 ”普通”のはずがない。

 病室に入ってきた時の美月の状態に、今の彼女の様子。

 それの引き金になった何かがあるはず。


「他は?」

「え?」

「他にも何か言ったんだろ、亜矢の奴」


 美月はうつろに笑って、


「あははー。修平君に隠し事は出来ないね。

 お幸せにって言ったのは本当だよ、ただね。一人で何も出来ない人間が他人を幸せに出来るのならって言われちゃった。

 きっついよねー」

「亜矢の奴……」


 それは修平にとって衝撃的だった。

 修平の知っている亜矢ならば、絶対に口にしない事だ。

 美月はさらに続けた。


「結局、今も修平君に車椅子に乗せて貰ってる。何もかも修平君に頼りっ放し。

 ……あの子の言う通りだわ。私、修平君のお荷物に成り下がってる」

「ち、違う。それは違うぞ、美月」

「どこが違うのよっ!!」


 たぶん、初めてだ。事故の後に美月が怒鳴ったのは。


「だって、修平君の目が言ってるもの。私は重いって……」


 ああ、やっぱり、美月は気付いてた。

 しばらく二人は何も言わず、部屋を沈黙が支配した。


「ごめん、今日は悪いけど帰って。せっかく来てくれたのに」

「いや、明日出直すよ」


 亜矢のペンダントをジャケットのポケットに押し込んで病室を出た。




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