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二人を結ぶ赤い有刺鉄線  作者: 赤砂多菜
第一章 Missing
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第17話

「出てきなよ。僕の後を付けてたんだろ」


 校舎裏まで来ると加太は言った。

 修平も薄々気付かれているだろう事は分かっていたので言葉にしたがって校舎の影からでる。


「朝の事だけどな」

「勿論、僕だよ。分かってたんだろ」


 まるで悪びれるでもなく言った。


「もっとも、わざと外したんだけどね。あれは警告だよ」

「警告?」

「北大路――いや、美月と別れろ」

「断る」


 元々、こいつが始まりで付き合うフリが始まったんだ。別れる訳がない。


「お前こそ、美月を諦めろ」

「いいとも」

「……は?」


 思わず間の抜けた声が漏れた。

 そう簡単に諦めるはずがない、さぁどうしたものかと考えてる最中の不意打ちだった。

 あまりに不意打ちすぎて、加太が距離を詰めているのに気付かなかった。


「ただーし。条件がある」


 それはまるで時間が止まったようだった。

 加太の動きも自分の動作もスローモーションに見えた。

 加太の手には光り輝くものが握られていた。


「お前が死ぬ事だ」


 ナイフだ。

 一直線に突き出された。

 まるで構えていなかった体勢でそれをかわせた事は奇跡に近かった。

 そして、その代償に尻餅をついてしまった。

 加太はジリジリ片付いてくる。その目はもう正常なものではなかった。


「お前が死んだら諦めてやる。美月と別れさせる事をな」


 逃げようとしても、殺されかけるという非日常的な状況に筋肉が萎縮して上手く動かせない。

 加太はナイフを振り上げた。

 ここで俺は死ぬのか? 修平は自問する。

 冗談ではない。死んでたまるか。


 動け!


 しかし、意思に反して思うように身体が動かない。

 加太のナイフが近づいて来る。

 急所を一突きするつもりだろう。

 くそっ、だめかっ。

 半ば諦めかけたその時、


「ぎゃっ!!」


 悲鳴をあげたのは加太だった。

 修平の横に加太が倒れる。


 なんだ?


 すぐそばには木製の椅子が転がっていた。

 見覚えがある。

 確か美術室の――


「大丈夫?! 修平君!!」


 見上げると校舎の窓から美月となぜか亜矢の姿が見えた。

 手を振って応えると、二人は校舎内に引っ込んだ。

 降りてくるつもりだろう。

 加太はといえば椅子に背中を痛打され、ナイフを落としてしまっている。そして、転がりながら、ナイフへと近づいている。

 まずい、取られてはいけない。

 今度は自分だけでなく、降りてくる二人にまで危険が及んでしまう。

 修平もナイフに手を伸ばす。

 しかし、ナイフはどちらの手にも渡らず、第三者が拾い上げた。


「け、健二」

「よお、なにこんな平和な学校で危ない遊びしてんねん」

「あいにく、好きでやってる訳じゃないんだけどな」


 健二が差し出した手につかまり修平は立ち上がった。

 加太を見ると、彼もよろよろと立ち上がる。

 そして、健二をにらみつけ


「お前も邪魔するのかー!!」


 健二に飛び掛った。

 だが、相手が悪すぎた。

 容赦のなく加太の身体を蹴り飛ばす。


「お前な、俺にとっちゃここは聖域なのよ。憩いの場なの。

 それをこんなもん持込やがって」


 一撃、二撃、三撃。やむことの無い健二の蹴撃。

 加太は身体を丸めてカメのように縮こまっている。

 それでも、健二は蹴撃は止む事がない。


「お、おい。健二」

「いくらお前でも、今止めたら容赦せぇへんぞ」


 強烈な一発が加太の身体をひっくり返す。

 その顔面にさらに蹴りが襲う。


「こいつの心配より、あっちを安心させたらどないや」


 加太を蹴りながら健二が指差す方を見ると美月と亜矢が来ていた。


「おう、見取ったぞ、北大路。中学から相変わらず、ナイスコントロールやの!」

「ソフトボールやバスケットボールはともかく、椅子を投げるのは初めてだったけどね」


 美月は修平に駆け寄り、身体を見渡す。


「怪我してない? 大丈夫?」

「ああ、おかげで助かったよ」


 そして、もう一人を見る。


「亜矢?」


 しかし、亜矢は拒絶するように大きく下がり背を向けて去っていった。

 その姿に修平は何か大きなモノを失った、そのように感じていた。


「次こんな真似したら、命ない思うとけよ」


 加太の方を見ればようやく健二の蹴撃から開放されぐったりしていた。

 取りあげたナイフを手で弄びながら、


「じゃぁな」


 そう言って健二は去っていった。

 残ったのは修平と美月、そして加太。

 加太は身動き一つしない。


「大丈夫か、あいつ」


 瞬間、視界に火花が散った。

 美月にひっぱたかれたのだ。

 気丈な彼女が泣いていた。


「そんな事より自分の心配してよ」

「悪かった。俺は大丈夫だから」


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