第16話
教室にはいなかったな……
もしかして、学食か?
昼休み、修平は加太を探していた。
植木鉢が落ちてきた後、上を見たときに一瞬見えた人影、それは加太に思えたのだ。
確証はない。
そんなものがあれば、美月に言っている。
だが、予感めいたものが修平の足を動かす。
いた。
加太だ。
校舎外に出ようとしているところだ。
声をかけようにもまだ周りに人がいる。
出来れば、目立つような真似はしたくない。
修平は素早く上履きを履き替えて加太を追った。
*---*
亜矢は美術室の戸を開いた。
「北大路先輩……」
「美月でいいわよ。安心した。伝言を無視される可能性もあったから心配だったんだけどね」
亜矢は後ろ手に戸を閉めて、椅子に足を組んで座っている美月と対峙した。
「何の用ですか?」
「半分用件は分かってるんじゃないの?」
亜矢の敵意と言っても過言ではないきついまなざしを美月は正面から受け止める。
「修平君の事、好きなの?」
「っ?! そんな事っ! 美月先輩に関係ないじゃないですか! しゅーちゃんと付き合ってるのは美月先輩でしょ!」
そう言って踵を返そうとする亜矢に重ねて聞いた。
「修平君の事が好きなんだよね?」
なんなの、この人はっ!
人の触れて欲しくない事をズケズケとっ!
「ええ、好きですよ。ずっと好きだった。あなたなんかよりずっと昔から好きだったのにっ。
もっと早く告白していればあなたに取られることもなかったんだっ!」
「そうね。もう少し早く、まだ付き合ってるフリでいる間に告白すれば良かったのにね」
……いま、この人、なんて言った?
「私と修平君はね。本当は付き合ってるフリをしてたんだ。
ちょっとしつこく付きまとってくる奴がいたからね。恋人のフリをしてもらっていたの」
「え? うそ。じゃ、本当は――」
「ストップ!」
亜矢の言葉を遮る。
「なんで、私があなたの気持ちを確かめたと思うの?
今もフリならその必要ないでしょ。全てが終ったらあなたに全部話して元の鞘なんだから」
「だ、だったら何が言いたんですか?」
「私は修平君じゃないから修平君の気持ちを代弁できない。けど、私に関しては今は本気で彼を好き。そしてその気持ちも伝えてあるわ。
何が言いたいか? 簡単な事よ。私には譲る気はない。その事を伝える為にあなたに来てもらったのよ」
「そ、そんな、ずるい。いきなりしゅーちゃんの恋人だなんて言って、実はそれがウソで、でも途中から好きになったって」
「ずるい? 何が? 私が彼に恋人のフリをしていてもらっている間に、あなたは何をしてたの? 悲劇のヒロイン気取って泣き寝入りしてただけでしょ」
そして、美月は座っていた椅子をけり倒して、亜矢の胸元に指を突きつけた。
「小学校からの幼馴染? そう、結構な立場じゃない。
いままでどれだけのチャンスがあったの。あなたはただ々々待っていただけ、そうでしょ?
少なくともそんな女に譲って上げられる程、私の中の修平君の気持ちは小さくないの」
よろっと亜矢の身体がよろめいた。膝の裏が椅子にあたりそのまま椅子に座り込む。
美月は離れて窓際の壁に背を預ける。
「……結果としてあなたの王子様を奪う事になった。
その事は正直申し訳ないと思うし謝って済む事なら謝りもするわ。
でも、そうじゃない。謝る事は出来ても修平君は譲れない。だから私はあなたに謝らない。
いくら、憎んでも恨んでもかまわない。その位の覚悟は出来てるわ」
小さくなって震える亜矢に少し罪悪感を感じたか、美月は視線をそらす。が、
「修平君?」
呟きに亜矢も反応した。
立ち上がり、美月の視線を追って窓の外を見る。
校舎裏を歩く二人の姿。
片方は確かに修平だった。
そしてもう一人は――
「加太、あいつっ」