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二人を結ぶ赤い有刺鉄線  作者: 赤砂多菜
第一章 Missing
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第09話

『後悔させてやる』


 加太がそういって数日が立った。

 もしや、何事かの暴挙に出るつもりかと気がまえていた修平だったが、特に何か行動を起こす気配はなかった。

 彼なりの精一杯の脅しだったのか?

 このままフェードアウトしてくれれば、晴れてお役御免なのだが。

 そして、昼休み。弁当を食べ終えた修平はジュースでも買おうかと校舎外にある学食に向かっている時にそれは起きた。

 階段を降りようと、一歩足を踏み出した時、勢い良く背中を押された。


「っ?!」


 本来、階段一段目を踏むはずの足は宙をかき、身体は宙に浮いた。

 運動神経に恵まれている訳ではないが、幸運にも片手が手すりに触れそれを掴んで勢いが削がれた。

 それだけでは体重を支えきれなかったが、当初よりも緩やかに、そして頭を庇いつつ踊り場へ到達した。


「痛ってー」


 足には大したダメージはなかったので、急いで階段を駆け上る。

 そして、左右を見渡すが何しろ昼休みだ。何人も廊下に出ている。

 誰がやったか分かるはずがない。


「落ち損かよ」


 階段から落ちて得があるはずもないが、諦めて学食に向かおうとして視界の端に彼を捉えた。

 加太だった。

 階段からはだいぶ離れていたが、なにやら悔しそうにしている表情が印象的だった。

 問い詰めるか?

 自問するが、すぐに諦めた。

 証拠が何もない。白を切られたらそれまでだ。

 だったら気付かなかったフリをしておくほうが賢明だ。



*---*



 教室に戻って席に座ると、美月がそばにやってきた。


「なんだよ、美月」

「それ。どうしたの?」


 言われてみれば、片手の甲がすりむいて赤く染まっている。

 恐らく階段から突き飛ばされた時についたのだろう。

 今まで気付かなかったので気にならなかったが、目にした瞬間からじくじく軽く痛んで来た。


「ちょっと、転んだんだ。たぶんその時についたんだろう。大丈夫だよ」

「そんな訳ないでしょ。保健室行くわよ」

「お、おい。もうすぐ授業だぞ」

「怪我のほうが大事でしょ」


 美月に引っ張られるように教室を出る。


「何も美月まで来る事ないだろう?」

「私がいなきゃ保健室行かないつもりでしょ?」


 図星だったので反論出来ない。


「怪我を甘く見ないで。雑菌が入って化膿したらどうするつもりよ」


 どうやら、下手に言い訳しないほうがよさそうだ。

 大人しく、美月に引かれるまま保健室へと向かった。



*---*



 保健室で看護教諭に傷を見せると、すぐ傷口を洗浄して傷パッドを張って処置が終った。念の為にと替えの傷パッドを数枚もらった。

 さすがは看護教諭というだけあって、無駄のない手際だったが、それでも保健室を出る頃には本鈴が鳴っていた。


「美月まで遅刻になったな」

「仕方ないわよ、男ってなんで傷に無頓着なのかしら。まったく伊田君といい」


 どうやら中学時代は健二がお世話になっていたようだ。


「で、それどうしたの?」


 2回目の質問だ。

 転んだという言い訳はまったく信用されていないようだ。

 まぁ、実際ウソなのだが。

 少し迷ってから、いまさらウソを付いたところで信用しないだろうと修平は諦めた。


「階段から突き落とされた」

「加太ね」

「……残念ながら、証拠がない」

「他に誰がそんな事するのっ」

「推定無罪、美月らしくないな」


 言われて美月はおとがいに手を当てて、


「ここのところ加太の視線を感じないのよ」

「それが? いいことじゃないのか?」

「分かってるでしょ。

 あいつがそう簡単に私を諦めるような奴じゃないって」

「だったら?」

「分かって言ってるでしょ?

 ターゲットが私ではなく修平君、あなたになったのよ」


 美月の言う通り薄々はそうでないかと思っていた。

 しかも、相手は憎い恋敵。

 少々乱暴な手も使って来るだろう。


「仕方ないさ。俺達付き合っているんだろ? だったら、これも有名税ってやつか? いや、ちょっと違うか」

「……もう止めましょう。まさか加太がここまでするなんて。

 修平君に怪我までさせるつもりなんてなかったのに」

「で、お前はこれから、誰も好きにならず誰とも付き合わないつもりか?」

「え?」

「俺がここで付き合うフリを今止めたらあいつは味をしめて、お前が本当に好きになった相手にまで危害を加えるぞ。

 それでもいいのか?

 その上こっちは亜矢の機嫌損ねてまでやってるんだ。このまま尻尾を巻くつもりはないぞ」


 しばらく美月は黙ったままだったが、やがて一息ついて微笑んだ。


「修平君って、意外と男らしいのね」

「意外は余計だよ」


 修平は笑って返した。


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