第22話「給食大作戦」
「私はミコで、ヒミコのミコ」
「うん、ミコちゃんそれがいいって言ったんだよ」
「そうなんだけど……コンちゃんは?」
「コンちゃんは店長さんがつけたの」
ふふふ…わたしの名前は誰が付けたんでしょ~か?
老人ホームに持って行くどら焼きを準備中です。
「ねぇ、ポンちゃん」
「なに、ミコちゃん」
「私はミコで、ヒミコのミコ」
「うん、ミコちゃんそれがいいって言ったんだよ」
「そうなんだけど……コンちゃんは?」
「コンちゃんは店長さんがつけたの」
「ふうん……じゃ、ポンちゃんは?」
最近はわたしの仕事も増えて、ミコちゃんのお菓子作りを手伝ったり。
「おはよー」
店長さんがやってきて、作業台を見ながら、
「あ、今日は老人ホーム、どら焼きなんだ」
「そうです」
「配達お願いしようと思ってたんだけど」
「わたしが行くんですか?」
老人ホームは行った事あるから大丈夫。
店長さん首を横に振って、
「いや、今日は老人ホームじゃなくて」
「?」
「村の学校にもパンを卸す事になったからね」
「え……村の学校って小学校ですか?」
「うん、小学校と中学校一緒なんだけどね」
「いつから……そんな……」
「老人ホームに卸すようになってから、村長さんが学校にもって」
「て、店長さん、それってすごく儲かるんじゃないですか!」
「え? なんで?」
「だ、だって学校に卸すんでしょ、持って行くんですよね?」
「うん……そうだけど……」
「学校って言ったら、人がたくさんいて……」
「村の学校だからね、全部で十五人分だよ」
「そうなんですか……」
「今日はデザートも頼まれてるから……俺の作ったのだけど、どら焼きあるから持ってって」
店長さん言いながら、奥から大きな紙袋を持ってきます。
結構な量ですね。
「ポンちゃん学校の配達、お願いね」
「え!」
「なにが『え!』なの?」
「い、いや、わたし、行った事ないし」
「老人ホームの隣だから」
「いや、ほら、わたし、しっぽがあるし」
「きっと大丈夫だよ」
「そ、そんな~」
店長さん、困っているわたしを見ながら、
「ポンちゃんが嫌がるなんて……」
「……」
「どうかしたの?」
「わ、わたしだって嫌な事、あるんです」
「配達だけだよ」
「学校ですよ、学校」
「それが?」
「イジメとか、あるんです」
「……」
「学級崩壊とか、あるんです」
「……」
「わたし、生きて帰ってこれるか、自信ない!」
「ぽ、ポンちゃん大げさ」
「わたし、野良の時、雑誌をたくさん読んで、ちゃんと知ってるんです」
「ほう……」
「みんなわたしのしっぽを見て仲間ハズレ」
「……」
「わたしをトイレなんかに監禁して、肉奴隷に!」
「どーゆー雑誌を読んでたんだか」
「店長さん、肉奴隷って食べられるんじゃないんですよ!」
「はいはい……じゃ、俺も一緒に行くならいいかな?」
「一緒なら行く!」
ふふ、店長さんと一緒に配達です。
でも……やっぱりタヌキだから、イジメられないか心配です。
学校への配達はお昼前出発。
「むー、やっぱりこわい」
「なにを言っておるのじゃポン、さっさと行け」
「コンちゃん行かない?」
「おぬし、さっきまで店長と一緒で嬉しそうであったろう」
「そうなんだけど……」
店長さん出てきて、
「じゃ、行こうか」
わたしのしっぽ、テンションさがりっぱなしです。
「ポンちゃん元気ないよ~」
「店長さんは、わたしの気持ち、わかってないです」
「きっとポンちゃん人気者になるよ」
「いーや、きっとしっぽでイジメられるんです」
「老人ホームの時だって、うまくいったろう」
店長さん笑ってます。
本当にうまくいくのかなぁ。
木で出来た学校は静かです。
「店長さん、静かですよ、きっと学級崩壊してるんです」
「ほら、さっさと教室に持って行って」
「え……店長さんは!」
「俺は村長さんと話があるから」
わ、わたしを置いて行っちゃいました。
教室に行けって……学校を見上げたら、窓から子供達が顔を出しています。
目と目が合いました。
わたしドキドキ。
子供達は「じーっ」と見ています。
ともかく教室に行きましょう。
お昼ごはん、待ってるのかもしれません。
すると一人の女の子が出てきました。
「あの~、パン屋さんですか?」
「あ、はい」
「みんな待ってますので……」
「はい……」
出て来た女の子、じっとわたしを見ています。
眼鏡の女の子……わたしがそんなにめずらしいのかな?
い、いや……しっぽ見てます、イジメられちゃうのかな!
でも……
眼鏡の女の子、どこかで会った事があるような気がしますよ。
教室でパンを配っている間も、気になりっぱなし。
お仕事終って教室を出ても、もやもやした気持ちです。
教室から「いただきます」の声が聞こえてきました。
廊下には店長さんが待っててくれたよ。
「ポンちゃん終った?」
「はい、何事もなかったです」
「そりゃ、そうだろ」
わたしが廊下を歩いていると、後ろから声がします。
「あの……」
振り向けば、そこには眼鏡の女の子。
わたしをじっと見上げて、ぽつりと、
「ポンちゃん?」
声に、わたしの記憶プレイバック。
思い出しました、野良をやってる時にごはんをくれた千代ちゃんです。
「ポンちゃん?」
「ち、千代ちゃん?」
「うん、やっぱりポンちゃんなの!」
千代ちゃん、わたしのしっぽをつかまえてモフモフします。
「や、やめて、くすぐったい」
「このしっぽを見た時、ポンちゃんかもって思ったの」
「そ、そう……」
「引っ越す時においてけぼりにしちゃったけど……人間になってるなんて!」
「モフモフしないで~」
千代ちゃん、手を放してくれました。
店長さんがびっくりした顔で、
「へぇ、ポンちゃんの飼い主なんだ」
「庭に来てたから、ごはんをあげてたんです」
「そうなんだ……」
店長さんにこにこしてます。
「じゃあ、ポンちゃん返してあげようか?」
む、いきなりな発言、ゆるせません。
わたし、店長さんの腕につかまえて揺すりまくりです。
「もう、今は店長さんのものなんです」
「でも、この子、前の飼い主なんだし」
すると千代ちゃんにこにこして、
「こんなに大きなタヌキは家では飼えません」
よかった、これでパン屋に帰れます。
「ちょっと……千代ちゃんだっけ……いい?」
「?」
「ポンちゃんについて、あれこれ聞きたいんだけど」
店長さんの言葉に千代ちゃんは頷いて着いて来ました。
「ち、千代ちゃん、給食、食べないでいいんですか?」
「うん……当番だから、ちょっとくらい」
「ふ、不良の始りですよ?」
「ポンちゃんの事、聞かれたから……」
「余計な事、店長さんに言わないでください」
「余計な事って?」
わたし、考え込んじゃいます。
千代ちゃんも視線が泳ぎまくり。
店長さん苦笑いして、
「千代ちゃんだっけ……ポンちゃんの事、ともかくしゃべって」
「て、店長さん、なんでわたしの過去をそんなに聞きたがるんですっ!」
「いや、せっかくだから」
「お、女の過去を根掘り葉掘り!」
「女って……タヌキじゃん」
「タヌキでも女の子なのっ!」
むー、千代ちゃんが余計な事をしゃべりませんように……
そんなわたしの服を千代ちゃんが引っ張ります。
小声で千代ちゃんが、
『ポンちゃんポンちゃん』
『なに、千代ちゃん!』
『なにかしゃべったらマズイ事って、あったっけ?』
「……」
わたしと千代ちゃん、改めてシンキングタイム。
「うん、別になにもなかったような」
「だよね」
千代ちゃん、店長さんに向かって、
「普通にごはんをあげてただけです……あの頃はタヌキの姿だったけど」
「そうなんだ……なんでポンちゃんってわかったの?」
「しっぽの感じで」
「そうなんだ……」
店長さん目を白黒させながら、
「ね、千代ちゃん!」
「は、はい?」
「ポンちゃんの名前、付けたの千代ちゃん?」
「はい」
そうでした、わたしの名前を付けてくれたのは千代ちゃんです。
野良だった頃、ごはんを食べているわたしを撫でながらその名を呼ばれてたの。
「そうなんだ……ちょっと感動した」
わたしも、なんだかちょっとウルウルしちゃってます。
こう、ここで名付け親でもある千代ちゃんと出会えたのも、なにか運命っぽい。
「なんでポンちゃんなの?」
「それは……タヌキだからポンポコリンのポンちゃん」
「やっぱり」
う……それを聞いたら、なんだかがっくりです。
ポンちゃんってかわいい感じでお気に入りだったのに、それですか。
千代ちゃん、またわたしのしっぽを触りながら、なにか感慨深気な顔。
昔もしっぽをよく触られたものです。
モフモフされるの、ちょっとくすぐったいんだよ。
「ポンちゃん……ポンちゃん……」
「どうしたの、千代ちゃん?」
「ポンちゃん……」
「?」
千代ちゃん、わたしをじっと見上げています。
「どうしたの? 千代ちゃん?」
「うん……ポンちゃん……」
「千代ちゃん?」
「……」
千代ちゃん、なんだかうつむいて、がっかりした顔。
どうしちゃったんでしょう?
そんな千代ちゃんが、顔を上げました。
「わたし……わたし……ポンちゃんの事……」
「なに?」
「男の子とばかり思ってた」
「!!」
「だから、女の子って知って、びっくり」
「ちちち千代ちゃん……」
あ、今の千代ちゃん発言に、店長さん顔を背けてます。
でも体がひくひく「笑って」ます!
「ポンちゃんって男の子って思って付けたのに……」
「ち、千代ちゃん、もういいから……」
「わたし、ポンちゃんに、タヌキの焼き物をイメージしてて」
わ、わたしにもわかります。
タヌキの焼き物って、あのタヌキの焼き物です。
わ、わたしのイメージって、あんなだったの!
わたしの中で、なにかが切れました、プチンって。
「ちーよーちゃーんっ!」
「ひ、ひどい、わたし、女の子なのにっ!」
もうヤケ食いです。
夕ごはん、全部食べちゃう勢い。
ミコちゃんはクスクス笑いながら、
「まぁ、男の子と思われてたなんて」
コンちゃんはニヤニヤしながら、
「ポンにはお似合いじゃ」
二人とも、言いたい放題です。
わたしがここでは先輩って事になってるのにモウ。
すると店長さんが、
「もうちょっと女の子らしく食べたら?」
「う……」
乙女心ぶち壊しな発言。
わたし、心を癒すために、食べてるのに。
「もう、店長さんも嫌いーっ!」
「店長さ~ん、ジ●ーズってなに?」
「うん? ジ●ーズ? サメの映画」
「サメ…って事は海のお話になるんでしょうか?」
「違うけど…ポンちゃん食われる話だよ」
「え!」




